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日本大百科全書(ニッポニカ)

麻薬及び向精神薬取締法

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麻薬及び向精神薬取締法
まやくおよびこうせいしんやくとりしまりほう

薬物に関する刑法の特別法。昭和28年法律第14号。麻薬取締法や麻向法(まこうほう)と略されることがある。

 本法の目的は、「麻薬」と「向精神薬」の濫用を防止し、依存症患者(法律では「麻薬中毒者」ということばが使われている)に対して必要な医療を行うなどの措置を講じ、製造や流通について必要な規制を行うことによって、公共の福祉の増進を図ることである(同法1条)。1953年(昭和28)制定時の題名は「麻薬取締法」であったが、1990年(平成2)の改正で現在の名称となった。「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年法律第124号、旧大麻取締法)、「覚醒(かくせい)剤取締法」(昭和26年法律第252号)、「あへん法」(昭和29年法律第71号)、「麻薬特例法」(正式名称「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」平成3年法律第94号)とあわせて薬物五法とよばれる。

[園田 寿]2025年10月21日

麻薬取締法の変遷と国際条約の影響

1912年にアヘン取引を制限するハーグ・アヘン条約(万国阿片(あへん)条約)が成立し、日本でもこれを受けて1930年(昭和5)に「麻薬取締規則」が制定されたが、本格的な麻薬取締法は、終戦直後の混乱期に制定された旧麻薬取締法(昭和23年法律第123号)から始まる。そしてその後、社会情勢や国際的な薬物対策の動向にあわせて、麻薬取締法は逐次改正されてきた。

 1953年(昭和28)の「麻薬取締法」は、旧法に比べて麻薬の範囲の明確化、家庭麻薬(咳(せき)止めや鎮痛剤などの麻薬成分を含んだ家庭薬)の除外、輸出の限定的許可、研究者による特定の麻薬等の製造許可、取扱者の義務軽減、都道府県への事務委任、罰則の整備といった多岐にわたる改正を含んでいた。

 1954年には「あへん法」が制定され、「アヘン」および「ケシ」は麻薬取締法の規制対象から外れたが、医薬品として加工された「アヘン末」は規制対象として残された。

 昭和30年代には麻薬濫用と使用者の増加に対応するため、1963年に大幅な改正が行われ、とくに麻薬依存症患者に対する措置入院制度の新設や罰則の強化が盛り込まれた。

 日本の薬物取締りに関する法改正は、国際的な条約における薬物規制の枠組みと密接に関連している。

 まず、1961年の「麻薬に関する単一条約」への加盟が、その後の法改正の基礎となった。

 1971年の「向精神薬に関する条約」は、世界の向精神薬濫用問題への対応として重要であり、日本における向精神薬取締法規の整備を促した。すでに当時の日本には、既存の薬物四法(麻薬取締法、覚醒剤取締法、あへん法、大麻取締法)による規制があったが、規制されていない睡眠薬や精神安定剤等といった向精神薬の濫用への懸念から批准への準備が進められ、日本は同条約を1990年に批准した。

 1988年の「麻薬及び向精神薬の不正取引防止条約」は、国際的な薬物の不正取引の撲滅を主眼とし、日本の1991年の法改正に大きな影響を与えた。この条約の批准に向けて、国外犯処罰規定やマネー・ロンダリング罪の新設といった内容を含む法律案が提出された。

[園田 寿]2025年10月21日

1990年改正の意義と向精神薬の規制導入

1990年の改正では、向精神薬に関する取締り規定が追加され、現行法の基礎を築いた重要なものとなった。また、この改正により、法律の名称が「麻薬取締法」から「麻薬及び向精神薬取締法」に変更された。おもな改正内容は以下のとおりである。

①法律の目的に向精神薬の取締りを加えること。

②向精神薬の製造・輸出入・卸売・小売等を業として行う者に対する免許制度と、試験研究施設の設置者に対する登録制度を設け、向精神薬の譲渡先を限定すること。

③免許業者等に製造・輸出入等に関する記録義務を課すこと。

④濫用による危害が大きい特定の向精神薬について、輸出入ごとの許可または届け出の制度を設けること。

⑤向精神薬の一般向け広告の禁止、罰則の整備、その他所要の改正を行うこと。

 この改正の結果、向精神薬条約についても国会の承認を経て批准・公布され、1990年11月29日から日本でも効力が生じた。

[園田 寿]2025年10月21日

1991年改正と麻薬新条約への対応

1991年の改正は、1988年の不正取引防止条約/麻薬新条約(正式名称「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」)の批准に対応するための重要なものだった。

 この改正で注目すべき点の一つは、麻薬および向精神薬の輸入・輸出・製造等の罪につき、刑法第2条の例に従い、国外でなされた犯行も処罰されるようになったことである。これは、国際的な薬物犯罪への対策と連携を強化するものだった。

 また、この改正と同時に、「麻薬特例法」が成立・公布された。この特例法は、薬物犯罪に関する新たな立法としてとくに注目すべき内容を含んでいる。

[園田 寿]2025年10月21日

2023年(令和5)改正

2023年の改正によって、大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするとともに、大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本的な改正が行われた。すなわち、大麻が基本的に麻向法における麻薬に分類されることで、麻向法での禁止規定および罰則が適用される一方、従来の大麻取締法が、「大麻草の栽培の規制に関する法律」に変更された。

[園田 寿]2025年10月21日

課題

以上のように、現行法に至るまでの日本の麻薬取締法は、国内外の状況変化や国際条約への対応を図るなかで、その規制対象、取締体制、罰則等が逐次整備・強化されてきた。とくに1990年の改正では向精神薬規制と国際条約の批准、1991年の改正では国際的な薬物不正対策や不法収益対策が強化され、2023年の改正では、大麻の法的地位が抜本的に改められた。これらの改正によって、大麻草の医療分野での適切な利用への道が開かれるとともに、大麻の「麻薬」としての位置づけが明確になり、その使用罪が新設されることとなった。一方、国際的には違法薬物に対しては厳格な規制(管理)を行いながらも、公衆衛生に基づいたハーム・リダクション(薬物を全面的に禁止するのではなく、個人の自主性を尊重しながら、社会的弊害や健康被害などの薬物使用による二次被害を低減させていく政策)を導入するなど、「厳罰主義に基づく禁止政策」から「科学的な評価に基づく公衆衛生政策」へと舵(かじ)をきる方向にあり、今回の改正については国際潮流に逆行しているとの指摘もある。

[園田 寿]2025年10月21日

©SHOGAKUKAN Inc.

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