船体の腐食および海洋生物の付着を防止するために、船の喫水線より下の船底部へ塗る塗料。19世紀から船は鋼船の時代に入り、防食(防錆(ぼうせい))塗料が導入されたが、海洋生物による船体の汚損は、船体抵抗を増加させ、操縦性能や燃料消費に悪影響を与えることから、防汚塗料が必要とされた。船体外板はブラストなどで表面処理が施された後、鋼材と塗膜の接着性を向上させる下地塗料(プライマー)の塗布に続き、防食塗料(無機亜鉛系塗料など)が塗布される。防食塗料は、その上に施工される防汚塗料と、船体鋼板を電気化学的に遮断する。
防汚塗料は、大別してバイオサイド(biocide)型と汚損脱離(foul release)型の2種類に分類される。バイオサイド型防汚塗料は、不溶解性マトリックス型(塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂などの疎水性樹脂配合系)、水和溶解型(親水性樹脂やロジン等配合系)、加水分解型(有機スズ樹脂、シリル樹脂、金属塩樹脂等配合系)の母材に、防汚剤(亜酸化銅(Cu2O)や有機金属錯体など)を含む配合系である。そのうちとくに、有機スズや一部の防汚剤(イルガロールIrgarol)は、海洋生態系に悪影響を与えることが判明し、国際的に使用が禁止された。また、汚損脱離型防汚塗料は、シリコン系やフッ素樹脂などを母材とし、付着生物が航行中の水流などで容易に離脱するようにする。
現在では、船舶のディーゼル機関などからの、温室効果ガス(CO2)や大気汚染物質(NOx、SOx)の排出量削減、船舶を介した水生生物の越境移動防止が海洋環境の保護・維持にとって重要な課題となり、防汚技術の進展が求められている。そのため、船底防汚塗料の国際的な防汚性能評価手法、自己修復機能や低摩耗性を有する塗料、環境低負荷型の防汚剤(天然物由来や新規化合物)、防汚性の生分解型ポリマー、水中洗浄装置の開発、およびその使用に適合した塗料の開発が進められている。