小型電動モーターを搭載した立ち乗り型の移動手段の一種。車輪(多くは2輪)とハンドルの付いたボード(厚板)に足をのせて走行する。電動キックスケーターともいう。近年、手軽で使い勝手のよい移動手段(パーソナルモビリティ)として個人所有されるだけでなく、シェアリング・サービス事業の一環としても都市部を中心に普及が進んでいる。また、観光地や駅周辺、ビジネス街などにおいて、短距離移動の手段として活用され、都市交通の新たな選択肢として注目されている。
日本では、従来、原動機の定格出力が0.60キロワット以下の電動キックボードは「原動機付自転車(原付バイク)」(法定の最高時速は30キロメートル)に区分され、走行には運転免許が必要であり、車道を走行し、ヘルメットを着用することなどが義務づけられていた。しかし、2023年(令和5)の道路交通法改正により、①長さ190センチメートル・幅60センチメートル以下であること、②オートマチック・トランスミッション(AT)機構であること、③緑色の最高速度表示灯(走行中は点灯)を装備していること、④ナンバープレートを取り付けていること、⑤自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の契約をしていることなどの基準を満たし、時速20キロメートルを超える速度を出せない電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」に区分されることになり、16歳以上であれば運転免許なしで公道を走行することが可能となった。さらに、「特例特定小型原動機付自転車」という区分も設けられ、この区分の車両は特定小型原動機付自転車の基準を満たしたうえで、最高速度を時速6キロメートル以下に制限し、緑色の速度表示灯を点滅させることで、普通自転車と同様に一部の歩道を走行できる。こうした新車両区分においてもヘルメット着用は努力義務とされている。
一方、従来型の電動キックボードは「一般原動機付自転車」の区分のままとされ、従前どおり、免許の保有、ナンバー登録、保険加入、ヘルメット着用が義務づけられており、基準の異なる類似車両が混在する状況にある。加えて、家庭用や玩具として市販され、道路交通法上の車両には該当せず、公道での走行は禁止されているモデルも存在する。とくに小学生などの子どもによる公道での使用が事故につながるおそれがあるため、保護者や教育関係者による適切な注意喚起が求められる。
警察庁の電動キックボード関連の違反・事故統計によれば、通行区分違反、信号無視、一時不停止などの違反が多く、死亡事故も報告されている。警察官を対象とした走行体験後の調査研究によると、「イヤホンを装着しながらの運転」や「ぼんやり運転」が事故リスクを高める要因であることが示されている。
電動キックボードは日常生活圏内(3キロメートル未満)での利用が想定されており、持続可能な都市交通システムの一端を担う手段として期待される。その一方で、安全教育、制度の周知、交通インフラの整備など、関係する諸機関の横断的な連携が今後の重要な課題としてあげられる。