捜査機関またはその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に隠して犯罪を実行するよう働きかけ、相手方がそれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する、という捜査手法。
当初から犯罪を行う意図を有していた者に犯罪実行機会を与えるものを「機会提供型」、犯人に新たに犯意を生じさせるものを「犯意誘発型」という。おとり捜査の直接の根拠を定めた法令はないが、判例上(最高裁判所平成16年7月12日決定、刑集58巻5号333頁)、直接の被害者のいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難な場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うこと(一定の要件の下に機会提供型のおとり捜査を行うこと)は、刑事訴訟法第197条1項に基づく任意捜査の一つとして適法とされている。
なお、おとり捜査そのものの根拠規定ではないが、麻薬取締官および麻薬取締員が捜査のために厚生労働大臣の許可を受けて麻薬を譲り受けること、警察官または海上保安官が捜査のために都道府県公安委員会の許可を受けて拳銃等を譲り受けることについて、それぞれ適法とする規定が、「麻薬及び向精神薬取締法」第58条と「銃砲刀剣類所持等取締法」第27条の3に設けられている。
著作物の海賊版などをインターネット上で売る意思を示している者から捜査機関が購入し、事実を確認する「買い受け捜査」も「おとり捜査」の一種として行われる。
日本で現在行われている仮装身分捜査(いわゆる「闇バイト」に関する犯罪捜査の一環として、犯人側による犯罪実行者の募集に応じて、犯人側と接触できるよう捜査員が身元を偽る書類を偽造して行う捜査)は、犯罪行為を働きかけるものではないので、「おとり捜査」とは異なる。また、日本で現在行われているおとり捜査では、身分を偽るために偽造書類等を作成するといったことは行われていないという点でも、仮装身分捜査とは異なる。