国内外の重要な人物の身辺の安全を守る警察活動のこと。法令上は単に「警護」という。天皇および皇族の身辺の安全を守る「警衛」とは区別される。また、警察の活動であり、民間の警備会社が行う身辺警戒サービス(身辺警備)とは異なる。
警護の対象となるのは、「内閣総理大臣、国賓その他その生命及び身体に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者」として警察庁長官が定めるものである。国内要人では、内閣総理大臣、衆議院議長・参議院議長、同副議長、最高裁判所長官、国務大臣、政党要人(与党の重要な地位にある者、野党党首)、元内閣総理大臣などが該当する。その他の政治家や地方自治体の首長等も、攻撃予告があったときなど具体的な情勢によって、対象となる場合がある。
重要な国際会議の場合や、テロ等のターゲットとなる可能性のある外国首脳が来日した場合の警護は、対象者の身辺とその周囲の警戒だけでなく、沿道や施設を警戒する活動(警備)とともに、きわめて多数の警察官によって実施される。これに対し、国内要人の通常の警護は、比較的少数の警察官によって行われる。
警護は、警護対象者の直近または付近で周囲の警戒、不審者の接近阻止、対象者への危害の排除、対象者の防護およびさらなる危害の防止にあたる身辺警護員と、警護対象者の周辺において、不審者および危険物の発見ならびに不審者の接近阻止、危害の排除および危険物の除去にあたる警護員とで行われる。必要に応じて、交通整理などにあたる警護員が配置される。
身辺警護の任務に常時あたっているのは、警視庁警護課員であり、SP(エスピー)(セキュリティ・ポリスSecurity Police)と呼称されている。SPは東京都内だけでなく、都外に対象者が行く場合にも同行する。身辺警護は、行き先地の警護担当課員等で身辺警護の訓練を受けたものと、SPとによって行われる。
2022年(令和4)に警護中の対象者(元内閣総理大臣)が殺害された事件が起きたことを受け、旧警護要則を全面的に見直した新たな警護要則(令和4年国家公安委員会規則第15号)が制定された。新たな警護要則では、警護の基本として、警護計画の策定段階から警護における危険度を評価し、それに十分対応できるものでなければならないこと、警護の現場の状況に即して柔軟に対応できるものでなければならないこと、一元的な指揮の下で、警護員の間での適切な任務分担の下、重層的に行わなければならないことなどを定め、情報収集に関して、警察庁が情報を収集分析して都道府県警察に通報すること、および都道府県警察が警護実施情報の収集分析を行うこと、警護計画に関して、警察庁が警護計画の基準を策定すること、警察本部長が警護計画案を作成し、警察庁に対して事前に報告をすること、警護の実施に関して、警察本部長が現場指揮官を指名すること、警護員に警護措置等を徹底すること、警護本部を設置することなどを定めている。それまでほとんど都道府県警察任せであった通常の警護について、警察庁が計画の事前審査を含めて関与することに改めたものである。