ヒト免疫不全ウイルスhuman immunodeficiency virusの略称。ヒトに感染し免疫不全を引き起こすレトロウイルス。
HIVは、レトロウイルス科レンチウイルス亜科に属する外径約100ナノメートルのRNAウイルスである。1983年、フランスのパスツール研究所に所属するモンタニエらによって発見され、1986年5月、国際ウイルス分類委員会によりHIVと命名された。同年4月には、同じくモンタニエらによってHIV-2型が発見された。
HIVは、「レトロウイルス」とよばれるウイルスの仲間に属し、遺伝情報をRNAで運ぶ。通常の細胞では、遺伝情報であるDNAからRNAがつくられ、RNAをもとにタンパク質がつくられるが、HIVは遺伝情報をRNAで有し、通常とは逆の順番でRNAからDNAに書き換える特殊な仕組みをもっている。これが、「逆行する」という意味の「レトロ」という言葉が使われているゆえんであり、この仕組みにかかわる酵素を「逆転写酵素」とよぶ。同様に、HIVの増殖を抑える薬は「抗レトロウイルス薬」とよばれている。
HIVは、宿主細胞の受容体や転写装置を巧みに利用しながら増殖する。脂質二重膜からなるエンベロープ(外被)に包まれており、エンベロープ表面にある糖タンパク質gp120がCD4陽性細胞のCD4受容体に結合することで感染の第一段階が始まる。その後、HIVはCCR5やCXCR4といった補助受容体(コレセプター)と結合し、別の糖タンパク質gp41の働きによってウイルスと細胞の膜が融合し、ウイルスの内容物が細胞内に送り込まれる。細胞内に侵入すると、ウイルスのRNAは逆転写酵素の働きでDNAへと変換される。このウイルスDNAはインテグラーゼ(HIVがもつ独自の酵素)によって宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主の転写機構を利用してウイルス遺伝子が発現する。新たに合成されたウイルス成分は細胞内で組み立てられ、成熟したウイルス粒子となって細胞外へと放出される。この過程においてプロテアーゼ(HIVがもつ独自の酵素)が働き、ウイルスタンパク質が切断・加工されることで感染性をもつウイルス粒子が形成される。
1日に産生されるHIVのウイルス粒子数は10億から100億といわれている。血漿(けっしょう)中のHIV-RNA量は、ウイルスの増殖活動や免疫細胞の破壊の程度を反映しており、疾患進行の指標、治療効果の評価、生命予後の予測にも用いられている。
HIVは、逆転写酵素によってRNAからDNAへと遺伝情報を複製する際に、エラー修正ができないため、複製のたびに多くの突然変異が蓄積される。その結果、同じ個体のなかでも異なるウイルスが混在する。この性質により、HIVは表面構造を次々と変化させて免疫系の攻撃から逃れるほか、抗ウイルス薬に対する耐性も獲得しやすい。そのため、治療では複数の薬剤を組み合わせた多剤併用療法および高い服薬率が求められている。
HIVは大きく分けてHIV-1とHIV-2の二つの型が存在するが、世界的に流行しているのはHIV-1である。HIV-1はその遺伝的多様性に基づき、さらに複数のサブタイプ(亜型)に分類されている。地域ごとに異なるサブタイプが流行しているほか、異なるサブタイプが同時に感染することで生じる組換え型も多く確認されている。サブタイプBは北米、日本、ヨーロッパなどの先進国で多くみられるのに対し、サブタイプCは南部アフリカやインドでもっとも多く、世界全体での感染の半数以上を占めるとされる。サブタイプA/Eの組換え型は東南アジアで多く確認されている。