ラン科(APG分類:ラン科)に属する多年草。落葉の積もる常緑広葉樹林やスギ林の林床に生育する。光合成も行うが、おもに落葉を分解する菌類に炭素源を依存する部分的菌従属栄養植物である。分布域は、和歌山県、伊豆諸島、四国、九州のほか、台湾および中国東南部。
地上茎は淡緑色でやや紫を帯び、無毛で柔らかく、高さは3~10センチメートル。茎の中央よりやや上部に長さ3~5ミリメートルの卵形の葉を1枚つけ、その上部に、淡緑色でわずかに紫色を帯びた小花を2~3個、ジグザグ状につける。花期は8~9月。
萼片(がくへん)と花弁は線形で膜質、長さは2.5~4ミリメートルである。唇弁は円形で、長さは約4ミリメートル、縁には細かい鋸歯(きょし)があり、基部には上下に2裂し、さらに左右にも分かれた肉質の指状突起を備える。唇弁の中央には、暗紅紫色の斑点(はんてん)が認められる。蕊柱(ずいちゅう)は直立し、長さは約3.5ミリメートルで、上部はやや前方に湾曲する。蕊柱の中央前面には、先が2裂した突起があり、柱頭はそのやや下に位置する。さらに下部には、属名Stigmatodactylusの由来となった指状の付属物が突出する。2025年(令和7)には、この指状の付属物が開花後に倒れて自家受粉を誘導する機能をもつことが末次健司(すえつぐけんじ)(1987― )によって明らかにされ、コオロギランの発見(1889)から130年以上にわたって不明とされていた生態的意義が特定された。この研究は、分類学的特徴の調査が生態解明に重要であることを示した点でも注目を集めた。本種の和名は、花の形がコオロギを思わせることに由来し、発見者の牧野富太郎(まきのとみたろう)によって命名された。