実感する性別(experienced gender)と出生時に割り当てられた性(assigned sex)との間に不一致を認めるもの。略称GI。出生時に割り当てられた性は男性であるが実感する性別が女性の場合をassigned male at birth(AMAB)、この逆をassigned female at birth(AFAB)と呼称する。
性別不合は、以前は「性同一性障害(gender identity disorder)」と呼称されていた。AMABはmale to female(MtF)やトランス(ジェンダー)女性、AFABはfemale to male(FtM)やトランス(ジェンダー)男性と同義である。
日本精神神経学会の全国調査によると、人口10万人当りのAMABの存在率は10.2人(9800人に1人)、AFABの存在率は17.6人(5700人に1人)と推測されている。病因は不明であるが、生後の環境や育児・教育の方法により実感する性別が変化することはないとされている。
症状・症候としては、自分の身体の性的特徴への強い嫌悪感をもち、反対の性別になりたいと強く望み、日常生活で反対の性役割を果たそうとする。
性別違和を訴える人が医療機関を受診した場合、「性別不合に関する診断と診療のガイドライン」にしたがって診断を進める。診断は、領域を異にする専門医により構成される医療チームによってなされる。性別不合に十分な理解と経験をもつ精神科医は、統合失調症などの影響を除外したうえで実感する性別を判定する。泌尿器科医や婦人科医は、染色体検査、ホルモン検査、内性器や外性器の診察を含む身体所見などにより身体的性を判定する。実感する性別と身体的性が一致しなければ、性別不合と診断する。
精神科領域の治療と身体的治療に大別される。
①精神科領域の治療
精神科領域の治療により、実感する性別を身体的性に適合させることは不可能である。性別不合では、自身の性別違和に対する苦悩ばかりでなく対人的・社会的な問題も抱えていることが多いため、それらに対する精神的サポートを行うとともに、カムアウト(カミングアウト)の検討や実生活経験(希望する性別での生活に向けた準備と実現)、その評価における継続的な支援を行う。
②身体的治療
身体的治療の原則は、身体的な特徴を実感する性別に近づけることである。このためホルモン療法、胸壁男性化手術(AFAB)、性別適合手術が施行される。身体的治療への移行の可否に関しては、医療チームで十分検討を行ったうえで慎重に決定する。
ホルモン療法は身体的性とは反対の性ホルモンを投与する。AMABでは、女性的な身体的特徴を得るために女性ホルモン(エストロゲン)を投与する。これにより、乳房の発育、女性的な脂肪の蓄積、精巣の萎縮(いしゅく)などの効果が得られる。AFABでは、男性的な身体的特徴を得るために男性ホルモン(アンドロゲン)を投与する。月経停止、声の低音化、陰核の増大、体毛増加などの効果が得られる。
性別不合の一部の当事者は、自身の外陰部に嫌悪感を覚え、反対の性の外陰部への改変を行う性別適合手術を希望する。AMABに対する性別適合手術として、精巣摘出術、陰茎切断術、造腟(ちつ)術および外陰部形成術が一期的に行われる。造腟術の方法としては、翻転法、陰嚢(いんのう)皮膚植皮法およびS状結腸法がある。AFABに対しては、子宮・卵巣摘除術、腟狭小化術および尿道延長術が一期的に行われる。一部の症例に対しては、尿道延長術後に前腕遊離皮弁などを用いた陰茎形成術が二期的に行われる。
性別適合手術の侵襲度はかならずしも低くはなく、種々の合併症が予測される。その適応は、医療チームによる検討に加えて、性別適合手術適応判定会議や倫理委員会などの審査機関により慎重に決定する必要がある。
(1)混合診療
2018年(平成30)4月より、一定の条件を満たせば、身体的治療である胸壁男性化手術や性別適合手術が公的医療保険の対象となった。一方、ホルモン療法に関しては、いまだ保険適用となっていないのが現状である。したがって、ホルモン療法(自由診療)後に性別適合手術(保険診療)を行うこと、またはその逆も混合診療禁止の原則により不可能であり、現場に多大な影響を与えている。
(2)戸籍上の性別変更
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法第3条1~5号)では、①18歳以上であること、②現に婚姻をしていないこと、③現に未成年の子がいないこと、④生殖腺(せん)がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、⑤その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること、の要件を満たせば戸籍上の性別変更が可能であるとされている。他方、侵襲的な性別適合手術を前提とする同法については、これまで人権上の問題点が指摘されてきた。
2023年(令和5)10月、最高裁判所は特例法の第4号要件(生殖不能要件)を違憲と判断した。さらに2024年7月、広島高等裁判所はホルモン療法を施行しているが性別適合手術を行っていないAMABの女性への性別変更を認め、第5号要件(外観要件)は違憲の疑いがあるとした。第5号要件の解釈をめぐっては、当事者、医療者、法曹、社会(一般市民)それぞれの立場により大きな相違があることから、今後さらなる議論が必要とされている。