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日本大百科全書(ニッポニカ)

前立腺肥大症

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前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
benign prostatic hyperplasia

中高年男性の前立腺に発生する腺腫(せんしゅ)(良性前立腺過形成)による前立腺部尿道の圧迫で、膀胱(ぼうこう)出口部閉塞(へいそく)が生じて、尿が出にくくなるなどの下部尿路症状が出現する疾患をいう。

[舛森直哉]2026年1月20日

疫学・分類・症状

日本国内における疫学調査によると、前立腺肥大症の有病率は40歳代2%、50歳代2%、60歳代6%、70歳代12%である。前立腺肥大症の明らかな危険因子は、加齢および思春期にテストステロンを産生する機能的に正常な精巣の存在である。

 前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞の発生機序として、前立腺腫大(しゅだい)による機械的閉塞と、交感神経α(アルファ)1受容体刺激を介した平滑筋細胞の収縮による機能的閉塞の二つがある。両者の関与の度合いは、腺腫を構成する上皮細胞と平滑筋細胞の割合により規定され、個々の症例でさまざまである。したがって、前立腺の腫大の程度(前立腺サイズ)と膀胱出口部閉塞の程度や下部尿路症状の重症度がかならずしも相関するとは限らない。すなわち、前立腺サイズが小さいからといって前立腺肥大症を否定できるものではない。

 膀胱出口部閉塞により下部尿路症状、すなわち尿勢低下、尿線中断、腹圧排尿などの排尿症状や残尿感などの排尿後症状が出現する。また、膀胱出口部閉塞に続発する膀胱機能障害により、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状や過活動膀胱の症状(突然のこらえきれない尿意やそれに伴う尿漏れなど)が合併する。下部尿路症状は中高年男性の生活の質(クオリティ・オブ・ライフquality of life:QOL)を障害する。

[舛森直哉]2026年1月20日

検査・診断

50歳以上の中高年男性の下部尿路症状の原因はさまざまである。前立腺肥大症の臨床診断は、下部尿路症状を呈する他疾患の除外により行われる。病歴の聴取により脳脊髄(せきずい)疾患、神経疾患、糖尿病などによる疾患(神経因性膀胱)の可能性を除外する。尿検査での膿尿(のうにょう)と血尿の存在はそれぞれ尿路感染症と膀胱がんを、直腸診での前立腺硬結や血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)の異常は前立腺がんを疑う。夜間頻尿のみが主訴の場合は、飲水過多による夜間多尿の存在を念頭に置く。下部尿路症状の定量化には国際前立腺症状スコア(international prostate symptom score:IPSS)を使用する。前立腺超音波検査などによる前立腺体積の推定は、治療方針の決定のために重要である。

 これらから下部尿路症状を説明しうる他疾患がなく、QOLを障害する下部尿路症状が存在すれば前立腺肥大症と診断する。

[舛森直哉]2026年1月20日

治療

前立腺肥大症の治療の目的は、QOLを障害する下部尿路症状の速やかな改善と、前立腺肥大症に起因する合併症の治療ならびにその発生の予防である。治療法として、薬物療法、低侵襲的外科治療および手術療法がある。これらの順に有効性は高まるが、侵襲性も高くなる。治療の目的、患者の全身状態、患者の希望などを考慮して治療法を決定する。

 一般的には手術療法の絶対的適応、すなわち、前立腺肥大症に起因する合併症(尿閉、膀胱結石、腎(じん)後性腎機能障害、尿路感染症)を有する症例を除いて、初回治療は薬物療法が選択される。薬物療法による効果が不十分な症例には、低侵襲的外科治療あるいは手術療法が考慮される。

(1)薬物療法
①α1遮断薬
ノルアドレナリンと交感神経α1受容体との結合を競合的に阻害し、前立腺平滑筋を弛緩(しかん)させて機能的閉塞を改善する。前立腺腫大の程度にかかわらず短期効果を発揮するが、前立腺が大きな症例では長期効果を期待できない。起立性低血圧や射精障害などの副作用がある。

②PDE-5阻害薬
前立腺平滑筋や膀胱血管平滑筋内のPDE-5(酵素ホスホジエステラーゼ-5)を阻害することでcGMP(環状グアノシン一リン酸)の分解を抑制し、平滑筋弛緩作用を増強する。硝酸剤や一酸化窒素供与剤との併用は、降圧作用が増強するため禁忌である。

③5α還元酵素阻害薬
前立腺内でテストステロンをより活性の高いジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素を阻害することで前立腺体積を減少させる。機械的閉塞を改善するが、効果発現までに数か月の時間を要する。前立腺体積が30ミリリットル以上の症例に対する長期の疾患進行抑制効果が示されており、α1遮断薬との併用によって短期から長期にわたる疾患の制御が得られる。なお、本剤は血清PSA値を低下させるため、前立腺がんの診断の際には留意が必要である(PSA検査は、前立腺がんの血清マーカーであるため)。

④過活動膀胱治療薬の併用
α1遮断薬あるいはPDE-5阻害薬の投与によっても過活動膀胱の症状が残存する症例に対しては、交感神経β(ベータ)3受容体作動薬や抗コリン薬の追加併用が考慮される。

(2)低侵襲的外科治療
前立腺腺腫の除去を伴わない低侵襲的外科治療として、国内では、経尿道的前立腺吊り上げ術(prostatic urethral lift:PUL)と経尿道的水蒸気治療(water vapor energy therapy:WAVE(ウェーブ))が保険適用となっている。適応対象は、前立腺肥大症に対する手術療法の適応である患者のうち、全身状態や手術侵襲を考慮して、従来の手術療法が困難な症例に限定されている。手術療法と比較して再治療率が高いことが指摘されている。

(3)手術療法
手術療法では、麻酔下に腺腫を過不足なく除去して機械的閉塞と機能的閉塞の双方を即時的に解除するため、その効果はきわめて高い。一方で、出血などの侵襲性は高い。腺腫除去の方法は、核出(ホルミウムレーザー前立腺核出術〈HoLEP(ホーレップ)〉など)、切除(経尿道的前立腺切除術〈TURP〉など)、蒸散(経尿道的光選択的前立腺レーザー蒸散術〈PVP〉やアクアブレーションなど)に大別される。前立腺サイズと抗凝固剤中止の可否(内服中の抗凝固剤がある場合、それを一時的に中止できるかどうか)に応じて適切な術式が決定される。いずれの術式も良好な長期成績が示されているが、腺腫の再発に加えて膀胱頸部(けいぶ)硬化症や尿道狭窄(きょうさく)などの合併症が発生しうる。

[舛森直哉]2026年1月20日

©SHOGAKUKAN Inc.

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