永久に仕事をし続けることができるという、架空の動力機関。エネルギーの供給を受けないで仕事をし続ける機械を第1種(の)永久機関といい、ただ一つの熱源から熱(量)を吸収して、これをそのまま外部への仕事に変え続ける機械を第2種(の)永久機関という。この両者をまとめて永久機関という。
熱力学が確立される以前には、このような永久機関、とくに第2種永久機関は可能かもしれないと考えられ、いろいろ議論されたり、実験されたりしたが、それらは不可能であることが明らかとなった。しかし重要なことは、錬金術への幾多の試みが近代科学への道を切り開いたと同じく、この永久機関をつくろうとする努力の積み重ねによって熱力学が確立されていったことである。
[沢田正三]
熱力学ではまず、熱の性質は、力学的、電気的、磁気的、化学的エネルギーと同じく、エネルギーの一つの形態であることが示される。熱がエネルギーであれば、熱の場合も含めてエネルギー保存則が成り立つはずである。これは熱力学第一法則とよばれる。熱力学で取り扱うエネルギーはまず、物体系のもつ内部エネルギーについてである。熱力学第一法則は、一つの物体系の内部エネルギーは、この物体系に外部から加えられた力学的、電気的、磁気的、化学的エネルギーおよび同じく外部から加えられた熱と同等量だけ増大することを示す。したがって、外部からエネルギーの供給を受けなければ、内部エネルギーも増大せず、外部への仕事をなすこともできない。こうして、第1種永久機関は不可能であることが熱力学第一法則から証明される。
[沢田正三]
熱が関与する限り、自然界の法則はエネルギー保存則を満たす、というだけでなく、いっそう厳しく熱現象が一般には不可逆的であるという条件も付加される。これが熱力学第二法則である。たとえば、氷と沸騰している水を混ぜると、氷は溶けて、その水全体は、ある温度に落ち着くが、この逆に、この温度の水がひとりでに氷と沸騰している水に分かれることはない。熱力学第二法則を、熱力学の創始者の一人であるイギリスのW・トムソン(ケルビン卿(きょう))は次のように表現した。「ある物質が熱力学的なサイクル(カルノー・サイクル)をたどるとき、ただ一つの熱源から熱を吸収して、それを当量の仕事に変えるような熱機関はありえない」。同時代のドイツのクラウジウスは、同じ内容を「なんらかのほかの変化を残さずに、熱は低温物体から高温物体へ移ることはできない」と表現した。第二法則をそのように設定することは、とりもなおさず、第2種永久機関の不可能性を宣言したことにほかならない。われわれが実際につくりうる熱機関は、吸収した熱の一部分を放出し、その差の当量の仕事を外部にするのである。第1種永久機関はエネルギー保存則に反するために不可能であることは比較的理解しやすい。しかし第2種永久機関はエネルギー保存則には矛盾しない。それが不可能なことは、熱が物質を構成するきわめて多数の分子の運動の結果であることから説明される。熱力学第二法則に表された熱現象の特異な性質は、微視的立場にたつことによって十分に理解される。
[沢田正三]