医療費が高額となった場合に、患者の負担を軽減する制度。暦月(月の初めから終わりまでの1か月間)で、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の自己負担が一定額を超えた場合、超えた金額が健康保険組合などの公的保険から支給される。ただし月をまたいで医療費を合算することはできない。給与所得者などが加入する健康保険や自営業者のための国民健康保険など公的医療保険制度に共通の仕組みで、支給額は加入者の年齢が70歳以上かどうかや所得水準によって異なる。たとえば、70歳未満で一般的な所得(月収53万円未満)の人の場合、1か月の医療費が100万円かかり、そのうちの3割(30万円)を窓口で自己負担した際に、実際の負担上限額は8万7430円で済み、21万2570円が高額療養費として支給される。70歳以上の場合、住民税非課税の人の1か月の負担上限額は2万4600円(年金収入80万円以下は1万5000円)。住民税を払っている人は、2017年(平成29)7月まで上限額が低く設定されていたが、2017年8月から2018年7月までは、年収370万円以上の人で8万7430円(1か月の医療費が100万円かかり3割負担の場合)、年収156万以上370万未満の人で5万7600円に引き上げられた。さらに2018年8月から、年収370万円以上の人は年収に応じて現役並みの負担を求められる。直近1年間で3回以上高額療養費の支給を受けると、一般的な所得の人の場合、4回目からは自己負担の上限が4万4400円(住民税非課税者は2万4600円)にさらに下がる。同じ月であれば複数の医療機関の自己負担額を合算でき、同じ世帯に住むほかの人(同じ医療保険加入者)の自己負担額を合算して支給を受けることも可能。ただし、入院時の食費や差額ベッド代(個室代)、先進医療にかかる費用などは対象外である。また70歳未満の場合、2万1000円以上の自己負担額が合算の対象となる。
高額療養費制度を利用するには、健康保険組合などの公的保険に支給申請書を提出しなければならず、支給までに3か月程度かかる。診療を受けた月から2年間は、過去にさかのぼって支給申請できる。血友病の因子補充療法や人工透析など、高額な治療を長期間続けなければならない人には、個人負担上限を1万円とする支給特例がある。事前に「限度額適用認定証」か「限度額適用認定・標準負担額減額認定証」の交付を受けて医療機関に提示すれば、自己負担額を超えている分について、医療機関に支払う必要はない。なお、毎年8月から1年間にかかった医療保険と介護保険を合算して高額となる場合に、その負担を軽減する制度として高額医療・高額介護合算療養費制度がある。
[矢野 武]