アメリカの理論物理学者、宇宙物理学者。ユタ州ローガン生まれ。1962年カリフォルニア工科大学(CIT、Caltech(カルテック))卒業、1965年プリンストン大学で博士号を取得した。2年の博士研究員を経て、1967年にカリフォルニア工科大学準教授、1970年に同大学の理論物理学の教授となった。2009年から同大学名誉教授。
ソーンは、アインシュタインの共同研究者である相対性理論の大家ジョン・アーチボルト・ホイーラーJohn Archibald Wheeler(1911―2008)の薫陶を受け、1960年代からブラックホール、パルサー星から発せられる重力波などに関する理論研究に取り組んだ。重力波を検出するための数学方程式を構築。1976年、当時グラスゴー大学にいた(のちにカリフォルニア工科大学教授、同名誉教授)実験物理学者のロナルド・ドレーバーRonald Drever(1931―2017)と共同で、カリフォルニア工科大学の重力波検出実験にもかかわった。また、マサチューセッツ工科大(MIT)教授のレイナー・ワイスとは異なる仕組みのレーザー光干渉計を開発した。重力波検出には、巨大な施設が必要なことからMITのグループと合流し、ワイス、ドレーバーとともに3人で、1989年にレーザー干渉計重力波観測天文台「LIGO(ライゴ)」(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)計画を立ち上げた。人間関係のもつれからドレーバーはLIGOを去り、1997年にLIGO計画全体を率いるディレクターに、高エネルギー物理学の実験家でもあるカリフォルニア工科大学教授のバリー・バリッシュが就任。2002年から始まった、長さ4キロメートルのパイプ2本が直交するL字型の巨大施設LIGOによる観測の結果はなかなか出なかった。しかし検出感度を高め改良した「Advanced LIGO(アドバンスドライゴ)」の本格運用を始める数日前の2015年9月14日に、約13億年前に二つのブラックホールの合体で生じた重力波の観測に成功した。ワシントン州のハンフォードとルイジアナ州リビングストンの2か所に設置されたLIGOが、わずか7ミリ秒の時間差で重力波をとらえたのである。この重力波観測の成功は、ブラックホールの性質や宇宙誕生直後のようすなどを解明する重力波天文学の幕開けを告げる快挙となった。
ソーンは、若手研究者育成にも力を注ぎ、50人を超える博士を送り出したほか、一般向けの啓蒙(けいもう)活動にも尽力。ブラックホール、宇宙論の歴史などを平易なことばでまとめた『ブラックホールと時空の歪(ゆが)み アインシュタインのとんでもない遺産』(原題:Black Holes and Time Warps: Einstein's Outrageous Legacy)の著者として日本でも知られる。クリストファー・ノーランChristopher Nolan(1970― )監督のSF映画『インターステラー』(2014)の製作総指揮などにもかかわった。
2009年アインシュタイン賞、2016年LIGOチームとしてグルーブ賞、カブリ賞。2017年「LIGOへの決定的な貢献と重力波の観測」により、レイナー・ワイス、バリー・バリッシュとノーベル物理学賞を共同受賞した。
[玉村 治]