EU(ヨーロッパ連合)の裁判所は、EU裁判所Court of Justiceと一般裁判所General Courtからなる。いずれもルクセンブルクにある。EU諸国は、EU法に関する紛争をEU以外の裁判機関では解決しない確約をしている。
EU裁判所は、EC(ヨーロッパ共同体)設立当初からある。EU各国1名の裁判官が、EU諸国の共通の合意に基づき任命される。これとは別に法務官Advocate Generalも11名任命される。法務官は、EU裁判所に対して、EUの公益代表者として何人(なんぴと)からも独立の立場から、各事件について法的意見を述べる。裁判官と法務官の任期は6年(再任可)。EU裁判所は、当事者の主張と法務官の意見を参考にして、裁判官だけで合議して単純多数決で判断を下す。少数意見や反対意見は公表されない。
一般裁判所は、EU裁判所の下級審である。訴訟件数の増加に対処するため、1989年に第一審裁判所Court of First Instanceとして設立され、リスボン条約により現在の名称となった。長らく各国1名の裁判官で構成していたが、2016年より段階的に増員され(2016年9月には合計47名)、2019年9月には各国2名の裁判官で構成される。任期は6年(再任可)。法務官はいない。裁判官の選任方法と合議の方法は、EU裁判所と同様である。
EUの裁判所での訴訟は、(1)先決裁定手続と(2)直接訴訟に大別される。
(1)先決裁定手続preliminary ruling procedure 人々・企業・加盟国がEU各国の裁判所に提起する訴訟において、EU法の解釈や効力が争点となったとき、各国の裁判所は訴訟手続を停止して、EU法問題をEU裁判所に付託し、EU法の解釈や効力について統一的な判断を求めることができる(各国の終審となる裁判所はEU法問題を付託しなければならない)。EU裁判所がEU法問題について裁定を下し、それを基に各国の裁判所は手続を再開して終局判決を下す。各国の裁判所の判決の「先決」問題たるEU法問題についての裁定なので、判決と区別して「先決裁定」とよばれる。これはEU諸国でのEU法の統一的な解釈を確保するための手続である。先決裁定は、EU裁判所だけが担当している。
(2)直接訴訟 人々・企業・加盟国・EU機関が直接にEU機関を相手取ってEUの裁判所に訴訟を提起する類型である。取消しまたは無効確認の訴訟、不作為違法の確認訴訟、損害賠償訴訟などがこれにあたる。人々・企業が原告となってEU機関を訴えるような直接訴訟は、一般裁判所が第一審を扱う。その判決に不服な側は、EU裁判所に上訴する。
EU裁判所が扱うのは、国やEU機関が原告となって訴えるような直接訴訟である。具体的には、加盟国がEU機関を訴える訴訟、欧州委員会(ヨーロッパ委員会)が加盟国を訴える訴訟、加盟国どうしの訴訟、EU機関どうしの訴訟である。このうち加盟国どうしの訴訟はほとんど例がない。
[中村民雄]