ドイツ連邦共和国の政党。略称AfD(アーエフデー)。2013年2月、ヨーロッパ債務危機、ユーロ危機を背景に、新自由主義的な経済学者ルッケBernd Lucke(1962― 。ハンブルク大学教授)らを中心に、脱ユーロ、ドイツ・マルク復帰を掲げて誕生した。党名は、首相メルケルがユーロ支援以外に「選択肢はない」と述べたことへのアンチテーゼ。結党には、ルッケら市場原理主義的な経済学者に加え、中小企業の経営者や、保守系・民族主義団体のメンバーがかかわった。2013年9月の連邦議会選挙では4.7%を得票。善戦といえるが、5%阻止条項により議席獲得は逃した。その後、2014年のヨーロッパ議会(欧州議会)選挙では7.1%を得票し7議席を獲得、旧東ドイツ諸州の州議会選挙でいずれも10%前後の票を得た。
結党直後から経済学者グループと右翼グループとの党内闘争が絶えなかったが、2015年7月の党大会で右翼グループが権力闘争に勝利すると、反ユーロ政党の色は薄れ(ルッケら新自由主義系の人びとは離党)、反移民・難民、反イスラム、治安重視といったテーマに傾斜し、より排斥的かつポピュリスト的性格を帯びるようになった。一時党勢を落としていたものの、2015年秋の難民危機(ヨーロッパ難民危機)を背景に復調し、各州議会選挙で一定の成果をあげた。
2017年9月の連邦議会選挙では12.6%を得票し、議席獲得のみならず、一気に第三党(野党第一党)に躍り出た。実際には移民・難民数の少ない旧東ドイツ地域で大きな支持を集めたが、これはヨーロッパ各国に共通した傾向で、移民の少ない地域でこそ、自らのコミュニティが脅かされることへの不安がかき立てられたからだといえる。また、連邦議会選直後の世論調査によると、AfDに票を投じた有権者のなかで同党の主張に「納得」している者は31%にすぎず、実に60%の人が「他党への失望」から票を投じている。さらにいえば、55%のAfD投票者が、同党が「極右から十分に距離をとれていない」と考えている。
要するにAfDは、難民危機、保守政党キリスト教民主同盟(CDU)の中道化への反発、既成政党・マスメディアへの不満、メルケル長期政権への飽きから支持を得ている。連邦議会での議席獲得後も議員の人種差別的言動が物議を醸しており、また依然として内紛も絶えない。たとえば難民危機後の州議会選挙における成功を支えた指導者ペトリFrauke Petry(1975― )も、連邦議会選直前に党内闘争で敗れ、選挙後に党から離脱している。今後AfDがドイツ政治に定着するか否かは未知数である。
2018年8月21日