中国の軍隊の名称。「中国人民解放軍(以下、解放軍または軍)」と呼称されている。解放軍は、「政権は銃口から生まれる」(毛沢東(もうたくとう))といわれるように、共産党軍として国民党軍と戦い、革命戦争に勝利することで共産党国家を打ち立てた。今日の解放軍は中国の主権と国家の防衛を担う国防軍であるが、同時に共産党の軍隊でもあり、政治的には党・国家・軍は三位(さんみ)一体化している。
[茅原郁生]
解放軍の任務は「国防を強化し、侵略に抵抗し、祖国を防衛し、人民の平和な活動を防衛し、国家の建設事業に参加し、人民に奉仕する」(憲法第29条)と規定されている。冷戦後、中国は高度経済成長により大国となり、新しい戦略環境下での解放軍の役割は国境守備などの国家防衛にとどまらない。さらに海洋権益の擁護、経済建設のための安定した戦略環境の保持など、防衛すべき領域概念は拡大しており、南シナ海などで海洋をめぐる関係国との摩擦を多発させている。また台湾統一や辺境の少数民族の分離独立の動きに対して国家統合が国家目標に掲げられており、そうした任務も付加されている。
これらを踏まえて解放軍の特性としては、以下の五つがあげられる。第一に国家の防衛軍であると同時に共産党軍として共産党独裁体制の護持や国家の統合のために「党の柱石」として政治工作任務を担っている。第二に建軍の経緯から革命戦争に勝利した建国の功労者に位置づけられ、今日でも解放軍は政治的には共産党と並ぶ中国の強大な権力機構である。第三に党軍関係では「党が軍を領導する」と党優位の原則(国防法第19条)が規定されており、軍隊に対する指揮権は国家の行政機関や議会から独立して、共産党および国家の中央軍事委員会によって統率されている(統帥権の独立)。第四に戦力組成上から、陸・海・空・ロケット軍の4軍種(新設の「戦略支援部隊」を含めれば5軍種)からなる国防軍で、通常戦力と核戦力の2本足の常備軍である。第五に革命戦争時代の労農紅軍(こうぐん)は農地を耕しながら戦った過程を経ており、今日でも伝統的な生産工作任務を担い、不動産を有し、一部の自活能力を保持する軍である。
[茅原郁生]
解放軍の前身は1927年8月1日に江西省南昌において武装蜂起(南昌暴動。のちに建軍記念日となる)した労農紅軍であり、以来各地で革命に蜂起した武装グループが集散離合を繰り返しながら拡大した軍事組織である。国民党軍との内戦(国共内戦)を続けるなかで革命軍として組織を整え、同志的な結合のなかで革命戦争を戦った。また、自活のための生産活動に励み、政治工作によって農村を中心に支持基盤を拡大するなど政治性の強い軍隊であった。革命戦争時代を通じて広範な人民の支持を得るために、命令には従う、人民のものは盗まないなどの「三大規律・八項注意」が毛沢東によって課せられ、自ら厳しく軍律を守った。それにより民衆の信頼と支持を得て国共内戦に勝利するとともに「人民の子弟兵」と愛称されるようになった。
1937年の盧溝橋(ろこうきょう)事件から抗日戦争が始まったのを契機に国共内戦を中断して、革命軍は八路(はちろ)軍、新四軍に改編され、国共合作して抗日戦争を戦った。この間に膨張する革命軍に対して共産党が優位を確保する問題が浮上し、古田(こでん)会議(1929年の労農紅軍第4軍第9次党代表大会)で「党が鉄砲を指揮するのであって、鉄砲が党を指揮してはならない」という党軍関係の秩序が確立した。この党優位を保証する制度として、各級の部隊には指揮官と並ぶ同格の政治委員(大隊では教導員、中隊では指導員、小隊では政治戦士など)が設置されて、党から監視する「二元指揮」制度が生まれ、今日に至っている。
日中戦争は1945年の日本のポツダム宣言受諾に伴い終わったが、翌1946年から国共内戦が再発。遼瀋(りょうしん)戦役、准海(わいかい)戦役、平津(へいしん)戦役の「三大会戦」で革命軍が勝利して、1949年10月1日に中華人民共和国の建国が宣言された。建国に先だち、革命軍は「人民解放軍」と改名され、第1野戦軍から第4野戦軍までと華北兵団の5個部隊に整理統合されるとともに、1949年4月には人民解放軍海軍が新編された。これにより兵器装備から組織や軍服などの軍制もまちまちであった従来の武装組織から、一応隊容の整った軍事組織に整備された。それでも党とともに戦う党軍、革命軍の特性を色濃く保持していた。
[茅原郁生]
建国を契機に、革命軍は「中国人民解放軍(解放軍)」として国軍にも位置づけられ、国家防衛を担うこととなった。解放軍はソ連から取得した武器・装備や階級制度などの軍制を導入して近代軍の隊容を整えてきた。建国後も解放軍の近代化は続けられた。1949年秋には空軍を創設して陸海空の三軍体制を整え、1964年には核実験初成功に伴って第2砲兵部隊(核部隊・ロケット軍)の新編などにより今日の解放軍の原型は整った。
その後は、まず1950年には朝鮮戦争に志願軍として参戦し、国連軍から手痛い近代戦の洗礼を受け、多大な犠牲を払ったことにより国防軍としての近代化を迫られてきた。
毛沢東時代には文化大革命など国内が混乱する事態が生まれ、その沈静化のために解放軍に「三支両軍(左派・労働者・農民を支持し、軍事管制・軍事訓練を行う)」任務が課せられるなど政治工作が重視され、兵力は膨張した。この段階の国防近代化は政治性や革命性が重視され、量的に膨れあがった軍兵力の削減などが反復されていた。
小平(とうしょうへい)時代には国防軍に向けて大規模な軍事改革が断行された。それは経済の改革開放政策と併行して進められ、経済建設を優先する「大局に従う」方針のもとで大規模な兵力削減と近代化が進められた。また1979年の中越戦争での苦戦が教訓とされて解放軍の近代化は進められ、国家防衛を主眼に戦力強化が重視された。1980年代には約100万人の兵力削減が政策的に進められ、11個の軍区は7軍区に縮小された。さらにこの時期には国防費は抑制され、不足する国防費を補填(ほてん)するために軍隊の経済活動が称揚され、のちに頻発する軍人の汚職腐敗などの遠因となった。
江沢民(こうたくみん)機能が強化された。革命戦争の経験や軍歴のない新世代が指導者となる時代となり、党優位が揺らぐなかで国防費の急増を抑えきれず、前年比で2桁(けた)の増額が続いたが、1997年には50万人の兵力が削減された。
胡錦濤(こきんとう)時代(2003~2012)は、江沢民が統帥権を手放さない不自然な状況下で国防軍化を目ざす近代化が進められた。それでも2003年の20万人の兵力削減や軍統帥をつかさどる中央軍事委員に海・空・2砲司令官を加え、また陸軍の牙城(がじょう)であった総参謀部をはじめとする四総部(ほかに総政治部、総後勤部、総装備部)にも海・空軍などの将軍を登用して陸軍中心の解放軍に改革のメスが入れられてきた。また増額が続く国防費についても、20年以上続いた前年比2桁増を2010年度に初めて7%増に抑え込む努力もみられた。
それでも解放軍は党軍か、国家の軍隊か、さらに革命軍か、国防軍かの二つの伝統的なジレンマを抱えたまま、国防近代化は試行錯誤的に今日まで続けられている。
[茅原郁生]
軍事力の実態は公表資料が不足して不透明であるが、イギリスの国際戦略研究所(IISS)が定期発行している『ミリタリー・バランス』The Military Balanceや『防衛白書』などの諸資料から軍事力の状況を推測・要約しておこう(2015年時点)。
(1)陸軍 総兵力160万人で18個の合成集団軍を中心に、量的には世界最大の陸軍力を擁している。主要兵器としては火砲を1万5200門、戦車を7200両保有する圧倒的な兵器量であるが、近年攻撃ヘリや99A式戦車など新兵器への近代化が進み、機動力や防空火力が強化されている。これら戦力は全国土に展開する5個の戦区が14か国と国境を接する2万1000キロメートルにわたる世界最長の国境線で防衛するとともに国内安定の役割を担っている。
(2)海軍 兵力23万5000人、150万2000トンの戦闘艦879隻を擁し、量的には米ロに次ぐ大海軍力を保有している。主要な水上戦闘艦63隻、潜水艦69隻、さらに両用戦闘艦や掃海艦などのほかに作戦機700機を有し、これらは北海、東海、南海の3個艦隊に組み込まれている。近年、海軍重視が強調され、空母遼寧号の就役や新たな空母建造、イージス艦やYJ-62対艦巡航ミサイルなどの導入により近代化が進められている。特筆すべきは南海艦隊に2個海兵旅団を擁していることで、南シナ海島嶼(とうしょ)の実効支配への並々ならぬ関心をのぞかせている。
(3)空軍 兵力40万人、作戦機2715機を擁し、数的にはアメリカに次ぐ大空軍力である。防空力としては高射砲1万6000門や多くの対空ミサイル部隊を保有している。早期警戒機「空警-500」、新型長距離爆撃機「H-6K」や「殲(せん)11B」戦闘爆撃機など作戦機の近代化も進められており、第4世代戦闘機は約400機に上る。
(4)核戦力 兵力10万人、9個の各種ミサイル軍からなり、アメリカ本土まで届く大陸間弾道弾(ICBM)52基、アジア周辺地域を射程に収める戦域弾道弾(IRBM)160基、潜水艦発射ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)48基、さらにH-6K爆撃機など多様な運搬手段を保持し、弾頭数は260発を保有している。これら核戦力は新編のロケット軍が管理し、米ロなどに対する抑止力とともにアジア近隣諸国への政治・心理的威圧効果を発揮している。
しかし中国は、デジタル化し統合運用が求められる情報化戦争といわれる新しい戦争を戦い抜くにはまだ不十分な体制であり、また最大脅威であるアメリカに対する核抑止力にも不足があり、国内外の戦略環境に応じた新しい国防近代化の必要性は大きい。
[茅原郁生]
中国は自国を取り巻く安全保障環境をどうみているか、その情勢認識を中国国務院新聞弁公室が発行した『国防白書』(2015年版)から整理する。
全般情勢については「世界は多極化の趨勢(すうせい)が続き、経済のグローバル化の進展で国際社会は運命共同体化している」とみて、「世界大戦の可能性はないが小規模紛争の生起が常態化した」と分析している。また中国の安全に対する脅威としてアメリカをさす「覇権主義、強権政治、新干渉主義」をあげ、具体的にはアメリカのリバランス(再均衡)戦略で、アメリカが域外勢力でありながら南シナ海事態へ介入することなどを警戒している。そしてベトナムやフィリピンなどは中国の海洋権益に挑戦しているとみている。さらに地域の脅威として朝鮮半島の不安定な情勢、テロリズム・分裂主義・過激主義の猛威、国家統合にかかわる国内危機、海外利益に対する挑発の顕在化などもあげている。
また兵器については、軍事革命が進展し「軍事技術と戦争形態の革命的変化は中国の軍事安全への挑戦となっている」とみて、「長距離精密誘導化、スマート化、ステルス化、無人化などや宇宙空間とサイバー空間の戦力化」を重視しながらも、この面での中国の遅れを認識している。同時に国内にある国家統合に対する複雑な脅威の存在(台湾、ウイグル族、チベット族)も認識している。総じて中国の安全は今日、なお多くの脅威に直面しているとして安全保障環境を楽観してはいない。
[茅原郁生]
このような情勢認識にたって先の『国防白書』は、軍隊の使命について「(1)共産党の指導下で社会制度を守る、(2)小康社会実現と中華民族の偉大な復興の保証力となる」としている。さらに解放軍の「戦略的任務」について「(1)突発事案や軍事的脅威への対処、(2)国家の領土、領空、領海や主権の安全を守る、(3)祖国の統一を守る、(4)新タイプの安全と利益を守る、(5)海外利益を守る、(6)戦略的抑止と反撃力を強化する、(7)地域と世界的な安全保障に協力する、(8)反浸透(中国の国体を揺るがす思想などの侵入、扇動などの阻止)、反分裂、反テロの闘争を強化し、国家の政治的、社会的安全を守る、(9)災害救援、権益保護、安全警備、国の経済・社会建設を支援する」を列挙しており、共産党執政を支える党軍としての性格を色濃く示している。
その上で中国の軍事戦略について『国防白書』は、まず「現代条件下の積極防御戦略」を「共産党の軍事戦略の基本点」とし、国家領土の主権、統一、安全を防衛する基本的な国防戦略に位置づけている。その基本姿勢は「防御、自衛、後発制人(先制攻撃はしないが、攻撃されたらかならず報復する)」をキーワードと説明している。「現代条件下の積極防御戦略」は今世紀になって情報化戦争が主流となるなかで、「情報化条件下の局地戦勝利を重点とした戦略」と解している。
国防戦略の下位にある軍種戦略では、陸軍戦略として「地域防衛型から全域機動防衛型への転換」がうたわれ、地域配備による防衛から機動部隊の統合運用による早期打撃を追求する戦略への転換が表明されている。
海軍戦略は、これまでの第一列島線(南西諸島、台湾、フィリピンを結ぶ線)までの海域防衛を追求する近海防御型戦略から「近海防御・遠海護衛の結合型戦略」に転換され、第二列島線(小笠原諸島、グアム島を結ぶ線)までに拡大した海域での防衛が追求されている。アメリカ軍はそれを接近阻止・要域拒否(A2/AD)戦略と受け止め、中国による海洋正面の防衛ゾーンの拡大とみている。
空軍戦略は、これまでの中国領内への経空攻撃を領空内外で迎撃する国土防空型戦略から「攻防兼備型戦略」に転換され、迎撃のみならず攻撃してくる敵基地(策源)を同時にたたく積極的な戦略へと転換されている。
戦略核ミサイル部隊の核戦略は、これまで先制攻撃に対する反撃力の残存性が低かったことから「最小限核抑止戦略」とされてきた。しかし多様な核運搬手段による強靭(きょうじん)化やSLBMの威力の強化、さらにその隠密(おんみつ)性の向上などによる反撃力の信頼性が高まり、「戦略的抑止・核反撃戦略」がうたわれるようになった。そして抑止力強化のために「中長距離の精密誘導能力」の重視が強調されている。
[茅原郁生]
以上のような中国の情勢認識や新時代の軍の使命および軍事戦略などを踏まえて、習近平体制下での軍事改革が進められている。いわゆる「習近平の軍事改革」は2013年秋の第18期党大会第3回中央委員会全体会議(三中全会)で重要な「改革の全面深化」決議がなされ、その一環としての軍事改革が提起されたものである。習近平は軍事改革について、2012年11月に党中央軍事委員会(軍委)主席就任直後の第一声で「よべばすぐくる、くればすぐ戦う、戦えば勝つ軍隊たれ」と要求していた。習近平が目ざす軍事改革のポイントは情報化戦争で勝利できる近代的な軍隊の建設だけでなく、新世代のトップ指導者として党軍関係における党優位の確立の2点である。それは「軍委管総(中央軍委が総(すべ)てを監督する)、戦区主戦(戦区が作戦を指揮する)、軍種主建(軍種が軍建設を主管する)」というキーワードに要約できよう。
その軍事改革の具体的な項目は『解放軍報』(2015年12月28日付)などから、2020年までに、(1)情報戦条件下で勝利する軍を建設する、(2)統合作戦指揮体制に向けて画期的な改革を図る、(3)軍区を戦区に改編・整理するとともに第2砲兵も含めて各軍種を統合部隊に再編する、(4)作戦能力を重視して「数量・規模から質と効率を重視する」軍近代化を進める、(5)関連して兵力30万人を削減する、などが具体的に表明されていた。またプロフェッショナルな軍人の育成、実戦的訓練、軍事予算や後方部門の管理なども改革の対象とされている。
[茅原郁生]
軍事改革では、まず大規模な軍組織の改革が3段階にわたって推進されてきた。具体的にはまず第一弾として2015年末に「陸軍指導機構(司令部)」、「ロケット軍」、「戦略支援部隊」の三機関が創設された。これは「軍種主建」を示す改革であり、「陸軍司令部」の新設により160万人を抱える大勢力の陸軍を統括する司令部ができたことになる。しかしそれは陸軍を海、空軍などと並ぶ一つの軍種として扱うことになり、逆に陸軍の地位の低下は否めず、陸軍内に不満が鬱積(うっせき)する可能性がある。「ロケット軍」は、これまでの第2砲兵部隊の戦略核ミサイル部隊の任務や組織を継承するもので、正式に軍種に昇格した。さらに新たに編成された「戦略支援部隊」は宇宙空間を含めた情報やサイバー関連を担う部隊で、国家の安全を守る新型作戦戦力として軍種に準ずる重要部隊となった。
[茅原郁生]
第二弾の軍事改革として、2016年1月に「軍委管総」の実現に向けて中央軍事委員会に直結し強大な権威を誇ってきた総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部、いわゆる四総部の再編に大鉈(おおなた)が振るわれた。司令機構としては総参謀部にかわって作戦運用の頂点にたつ「統合(原語は聯合(れんごう))参謀部」を中核部門とし、旧総参謀部内の一部局を分割して「訓練管理部」「国防動員部」として独立させて同列に格上げした。さらに総政治部の一部機能を外して「政治工作部」に、後方兵站(へいたん)業務や経理を担当した総後勤部が「後勤保障部」に、兵器・装備品の管理部門の総装備部が「装備発展部」へと改編され、絶大な四総部の機能は分割された。
そして軍内綱紀引締めにあたる「規律検査委員会」などの委員会が旧総政治部から独立して直属委員会グループが新編された。さらに「戦略計画弁公室」や「編成・改革弁公室」などが旧総政治部から独立し、「審計署」を軍委直属にして会計監査機能が強化され、直属幕僚機関となった。総じて第二弾の改革は強大な四総部の軍権を分割・再編して「党の指導的地位の確立」を進めており、習主席の軍権掌握度を誇示するものでもあった。
[茅原郁生]
第三弾の軍事改革として「実戦力の強化」を目ざして「戦区」が新編された。統合作戦に必要な統合部隊「戦区」の編成により、地方政府と結びついた鈍重な軍区制度が解消された。(。(2)南部戦区は以前の広州(こうしゅう)軍区を中心とし、南シナ海正面やベトナムなど東南アジア諸国正面を担当。(3)西部軍区は、以前の成都(せいと)軍区や蘭州(らんしゅう)軍区を広く担う戦区で、インドへの対応やシルクロード戦略にかかわる広大なユーラシア大陸を担当。(4)北部戦区は以前の瀋陽(しんよう)軍区で、北朝鮮正面やロシア・モンゴル正面の担当。(5)中部戦区は、以前の北京(ペキン)軍区の首都防衛に加えて以前の済南(さいなん)軍区の中央戦略予備の役割を担うものと考えられる。
そして作戦指揮は中央軍委下の統合参謀部から戦区統合作戦司令部に下達されることで指揮結節が減り、スピード感のある作戦指揮が可能になる。
今後、習近平の軍事改革は、兵器の近代化から軍事制度、訓練など広範に進められると考えられるが、依然として党軍関係が動揺するなかでどこまで徹底するかはなお注目を要しよう。
[茅原郁生]
「偉大な中華の復興」を掲げる中国は、経済成長を遂げ、国連安全保障理事会で拒否権を握る常任理事国でもあり、大国にふさわしい軍事力を保有する欲求は強い。今後、中国は世界の安全・安定や国際秩序の維持にどのような役割を果たすのか、その際、解放軍の位置づけと機能発揮の方向が注目される。今日、2020年を目ざして進められる軍の改革・近代化は、世界的な軍事革命の進展に応じた兵器・装備の近代化や情報化戦争といわれる新しい戦争に対応するための統合戦力を発揮できる作戦運用システムの構築を目ざしている。
中国の安全保障観の根底には、アヘン戦争に敗北したことで半植民地化されたという屈辱の歴史体験があり、「力がなければやられる」という力の信奉者的な特性があるため、国家の安全を守る軍隊や強権力が重視されている。しかしこれまでは国防費や国家安全に関わる費用は聖域とされてきたが、中国経済に陰りがみえはじめるなかで、安全保障面への国家資源の投下がどこまで優先されるか、その動向が注目される。
解放軍はなお国家の軍隊か、党の軍かという問題を根底にもち、今後とも新しい時代の情報化戦争にいかに勝つか、流動する国内政治情勢下で共産党執政を支える役割をいかに果たすか、というジレンマを抱えている。強大な権力機構になった解放軍が特異な建軍の経緯や伝統的な安全保障観のなかで、政治的にどのようにコントロールされるのかは、今後とも重要な問題である。とくに武装集団の統帥は、民主主義国にはシビリアン・コントロール(文民統制)原則が確立しているが、中国では共産党統治体制にあって、それを支える「党の柱石」たる解放軍の統帥権のあり方は党軍関係にもかかわる大きなテーマである。
さらに強大な権力機構となった解放軍のふるまいは、今日の南シナ海での影響力につながっており、中国は「力で現状を変える」という国際的な懸念にもなっている。
[茅原郁生]