人と馬とが力をあわせて行う競技。人(選手)が馬に騎乗して障害物を飛越(ひえつ)したり、ステップを踏んだりする。馬術競技の一番の特徴は、「馬」という生き物とともに行うスポーツだということである。また、男女の区別なく行われる競技でもある。
スポーツとしての馬術競技には複数の種目があるが、その代表的な種目は、オリンピック大会でも採用されている障害馬術、馬場(ばば)馬術、総合馬術である。障害馬術競技は、高さ、幅(奥行)ともに大きな障害物をいかに過失なく飛越するかを競う。馬場馬術競技は、むずかしいステップを踏んだり、図形を描いたりして、演技の美しさと正確さを競う。総合馬術競技は、馬場馬術と障害馬術にクロスカントリーを加えた三つの種目を、同じ人馬のコンビで行うもので、人馬の総合的な能力、技術が求められる。
これらの種目のほかにも、馬のマラソンともいえるエンデュランス競技、馬車の御法(ぎょほう)を競い合う馬車競技、円を描いて走る馬の背で体操競技のような演技をする軽乗(けいじょう)競技、カウボーイの騎乗スタイルから発展して競技化されたレイニング競技などがある。
2018年時点では、国際馬術連盟(FEI:Fédération Equestre Internationale)は、(1)障害馬術Jumping、(2)馬場馬術Dressage、(3)総合馬術Eventing、(4)エンデュランスEndurance、(5)馬車Driving、(6)軽乗Vaulting、(7)レイニングReining、(8)パラエクエストリアンPara-Equestrian、の八つを正式種目としている。パラエクエストリアンとは、肢体および視覚に障害のある選手による競技(馬場馬術・馬車)である。
日本のスポーツ馬術を統括する日本馬術連盟(JEF:Japan Equestrian Federation)では、障害馬術、馬場馬術、総合馬術とエンデュランスの4種目を正式種目としている。
2018年12月13日
競技場の中に設置された12~15個程度の障害物を、決められた順番どおりにミスなく飛越する競技。障害物の落下、飛越できずに止まる(拒止(きょし))、障害物からの逃避、規定時間の超過などが減点の対象になる。また、落馬は失権(その時点で走行を終えなければならない)となる。障害物の形状には、高さのみを要求される垂直障害、高さに加えて奥行(馬術用語では幅という)を要求される幅障害、高さはなく幅だけを求められる水濠(すいごう)障害など、バリエーションがある。どのような障害物に対しても、馬は選手の指示に従って障害物に向かい、飛越することが求められる。
ルールは大別すると二つある。「標準」とよばれるものは、障害物の落下、拒止、逃避などのミスが減点としてカウントされ、同減点であればタイム(スタートからゴールまでを計測)の早い選手が上位になるものである。「スピード&ハンディネス」は、障害物の落下は減点ではなくタイムに換算されて走行タイムに加算され、合計タイムの早い選手が上位になるものである。
障害物の高さ、幅、要求する速さに応じてクラス分けされている。最高レベルは高さが1.6メートルある障害物が設置されるクラスで、オリンピック大会もこのレベルで行われる。
選手の服装は、ヘルメット(保護帽)、乗馬用ジャケット(上着)、白のキュロット(乗馬スボン)、革の長靴(ちょうか)(ブーツ)と決められている。
2018年12月13日
縦60メートル、横20メートルの競技場(馬場)の中で演技を行い、その美しさや正確さを競う競技。馬の調教進度に応じて、日本馬術連盟が制定する課目、さらに国際馬術連盟が制定する課目と、さまざまな演技課目が設けられている。これらの多くは演技内容が項目ごとに決められている「規定演技」であるが、上級クラスの課目においては、フィギュアスケートのように決められた要素(運動項目)を選手が自由に構成し、音楽にあわせて演技を行う「自由演技(フリースタイル)」も行われる。多数存在する課目の中でトップレベルのものは「グランプリ」であり、オリンピック大会ではこの課目で競技が実施される。
馬場馬術競技の審査は、課目に応じて求められる運動ができているかどうかを、複数の審判員が、各課目に規定される項目ごとに0~10点の11段階で評価し、その得点は満点に対するパーセンテージ(得点率)で表す。審査の着眼点としては、馬の歩調のリズムの正確さ、選手と馬との調和、選手に対する馬の従順性、躍動感、馬体の柔軟性などがある。
選手の服装については、ヘルメットもしくはトップハットかボーラーハットに燕尾服(えんびふく)もしくはジャケット、白のキュロット(乗馬ズボン)に革の長靴(ブーツ)と決められている。
2018年12月13日
馬場馬術とクロスカントリー、さらに障害馬術を3日間かけて同一人馬で行い、3種目の減点合計の少なさを競う競技である。この競技も、クラスにより要求する速さ、走行距離、障害物の大きさと個数が決められる。国際競技においては、ワンスターから最高難度のファイブスターまで5段階のレベルに分けられている。実施される3種目の概要は以下のとおり。
2018年12月13日
馬場馬術競技と同様に、総合馬術競技のために規定された課目を行う。得点率は減点に換算される。
2018年12月13日
自然の地形を生かしたコースに設置された、丸太や池などの障害物を飛越しながら、数キロメートルにもわたる距離を走行する。障害物の前で飛越できずに止まったり、横にそれたりする「不従順」があった場合の減点が大きく、さらに規定タイムを1秒超えるごとに減点が加算される。クロスカントリーにおいては、選手はこの種目用のヘルメットをかぶり、バックガード(ボディプロテクター)を着用する。
2018年12月13日
クロスカントリーの翌日に実施される。馬が競技参加に適した状態か否かをチェックするホースインスペクションに合格した馬のみが、障害馬術に出場できる。設置される障害物はそれほど大きくむずかしいものではない。
総合馬術競技は3日間を通じて、馬のコンディションをいかに保つかが非常に重要な競技である。
2018年12月13日
馬の持久力を競い、ときには160キロメートルものコースを走る競技。日本では1999年(平成11)に公式競技となって以降、競技人口が増加している。世界選手権や全日本選手権は行われているが、オリンピック競技としては採用されていない。
2018年12月13日
日本では、残念ながら正確な統計資料がないものの、全国乗馬倶楽部(くらぶ)振興協会に加入している乗馬クラブは273(2017年度末時点)、未加入のクラブも含めると900~1000程度といわれている。また、日本馬術連盟の会員数はおよそ6000人である(2018)。
1964年(昭和39)に東京で開催されたオリンピック大会では、障害馬術競技は東京都新宿区霞ヶ丘(かすみがおか)の国立競技場のメイン・スタジアム、馬場馬術競技は世田谷区の日本中央競馬会(JRA)馬事公苑(ばじこうえん)、総合馬術競技は長野県軽井沢(かるいざわ)の特設競技場を会場として行われたが、日本選手は芳しい成績ではなかった。以来、馬術先進国といわれる欧米各国より優秀なトレーナーを招いて人馬の技術向上に努め、また、日本人選手が積極的にヨーロッパを拠点にトレーニング、競技参加をするようになったことで技術レベルは著しく向上した。その結果、近年ではヨーロッパを拠点に活動している日本人選手が国際大会で優勝・入賞するなど、確実に結果を出している。なお、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会では、総合馬術のクロスカントリー競技が海の森クロスカントリーコース(江東区青海(あおみ)三丁目地先)、そのほかの競技は馬事公苑を会場として開催される予定である。
オリンピックで行われる3種目について、世界の情勢をみると、障害馬術ではとくに突出した国はなくドイツ、ベルギー、オランダ、フランス、アメリカ、カナダ、スウェーデン等が上位争いをしている。馬場馬術では長年ドイツが圧倒的な強さを誇ってきたが、オランダも力をつけてきてドイツを脅かす存在になっている。この2か国に加えてイギリスやアメリカもよい成績を出している。総合馬術はドイツ、イギリス、フランスなどのヨーロッパの国に加えて、オーストラリア、ニュージーランドといったオセアニアの国が強い。概観すると、やはり世界一の馬術大国はドイツということになるであろう。ドイツをはじめとする馬術強豪国はいずれも、その国のなかで馬術は人気スポーツである。それらの国々では多くの人が子供のころから馬に親しみ、競技に出場して技術を磨いている。また、馬術用馬の生産が国家的に行われている国も少なくない。選手と競技馬の層がとても厚く、馬術がひとつの文化として国全体に根づいている。
2018年12月13日