日本大百科全書(ニッポニカ)

アントラセン
あんとらせん
anthracene 英語

代表的な三環式芳香族炭化水素。紫の蛍光を発する無色板状結晶。
 工業的にはコールタールの高沸点留分(アントラセン油)からフェナントレン、カルバゾールとともに得られる。異性体のフェナントレンよりも反応性が大きく、9、10位での付加反応や置換反応がおこりやすい。たとえばニトロ化、ハロゲン化もこの位置におこり、付加体と置換体の混合物を与える。無水マレイン酸とのジエン合成も9、10位でおこる。また光照射で二量体(パラアントラセン)を与える反応が古くから知られている。還元によって容易に9,10-ジヒドロアントラセンを生成する。アントラセンの接触空気酸化はアントラキノンの工業的製造法であり、アントラキノン系染料(アリザリン、インダンスレンなど)の合成原料となる。
[向井利夫]