《世界大百科事典》の編集方針を実現するために、以下に記すようなくふうをしました。
この百科事典には約9万項目が収められていますが、分野別構成とはしないで、すべて五十音順に配列されています。多分野にまたがる概念や事項を総合的にとらえることは、分野別構成では不可能であり、五十音による配列が最も適していると考えるからです。
〈目次〉による大項目の案内異なる社会の相互の対応を示したり、異なる分野間の総合化のために3~4ページを超えて編まれた大項目には、各項目の右欄に内容を示す目次を掲げ、必要な部分が一目でわかるようにしました。
〈基本データ〉の一覧国名・県名、諸惑星、諸元素の各項目では、それぞれ本文解説に先だって、それらの基本的なデータを要覧として掲げました。これにより、それぞれの国や県、惑星、元素についての概要をつかむことができます。さらには一種の便覧としての利用も可能です。
〈コラム〉による奥行きのある解説本文のみでは必ずしも十分には説明しきれないような事柄、あるいは特記すべきと思われる事柄については、別枠としてコラムを設けて十全な解説を行いました。二、三の例を挙げれば、〈アメリカ合衆国〉の項目では〈大統領の選出過程〉について、〈イスラム〉の項目では〈イスラムの儀礼〉について、〈為替〉の項目では〈近世の為替の具体的方法〉について解説しています。また各県の項目には必ず〈……県の遺跡〉というコラムがあります。
〈用語解説〉による広がりのある解説この百科事典では、非常に細分化された事項、細かい専門用語などは、独立項目としては採らずに、〈用語解説〉としてまとめて解説しました。断片的な知識を得ることよりも、相互の比較、関連のなかでの理解を重視する編集方針を具体化したもので、これは、身のまわりの生活に関する用語から最新の工学専門用語にまで一貫しています。〈カクテル〉の項目で〈カクテル32選〉、〈オーディオ〉の項目で〈オーディオ用語〉、〈風〉の項目で〈風の異名〉、〈原子炉〉の項目で〈各種の原子炉〉についてそれぞれ別枠を設けてまとめて解説しているのはその一例です。また、おもなスポーツ競技についても、それぞれルール、用語をまとめて解説しました。これらの用語解説は、約9万の独立項目と補い合う形で、小項目事典的な要素をも併せもっています。
関連諸項目への〈参照案内〉単なる専門知識の獲得よりも、理解を深め、広げ、あるいは思いがけない知的発見へと導かれることをたいせつにするというこの百科事典の基本的な考え方に基づき、関連諸項目への参照案内(クロス・レファレンス)を豊富にしました。これには、文中で項目名にリンクを付したものと、文末で→とリンクを付したものの二つのタイプがあります。前者は、その項目自体を理解するうえで参考になる項目、あるいは立項されていても直接には引きにくい項目を示し、後者は、その項目の基本的理解のために必要不可欠な関連事項を示します。各項目はそれ自体でも十分理解できるよう配慮して記述されていますが、これら参照項目案内の利用により、知識のすそ野を広げるための知的散策が楽しめます。なお、直送項目(同義語、あるいは他の事項とともにまとめて記述した事項、他の表記で記述した事項など)においても、その送り先を→で示しました。
検索に便利な〈和文・欧文索引〉《世界大百科事典》で知りたい事項を引く場合には、約40万の事項を収めた第31巻の索引を手がかりとしてください。索引は百科事典に収められたぼう大な情報を効率よくじょうずに引き出すための鍵です。《世界大百科事典》の索引では、従来にない二つの新たなくふうを採り入れました。その一つは、主要な索引事項についてその事項がどの項目から採られているかを明示したことです。どの項目に必要とする記述があるかが、よりいっそう明確になりました。もう一つは、和文索引とは別に欧文索引を付したことです。訳語が不明であったり、読みがはっきりしないといった外国語出自の概念事項、地名、人名などについても、原語のアルファベット表記により直接検索することが可能になりました。
※ジャパンナレッジ版ではこの索引語を本文末尾に付与しました。
現在、私たちをとりまく世界は刻々と移り変わっています。そして、各種の視覚メディアを通じて容易に得られる情報も数多くなっています。このような時代の百科事典は、当然その図版のあり方についても再考を迫られています。この《世界大百科事典》では思い切った方針をとりました。それは、百科事典のもつ本来の役割をあらためて問い直し、真に百科事典に求められる図版、すなわち、〈物質の本質をとらえ原理を理解するうえで有効な図版〉のみを厳選する、ということです。この方針のもとに本文中には、原理、形態を明快に示す約1万点の写真、図版を収録しました。
幅広い情報が得られる組図版動植物などは類縁のものと比較することによって、よりいっそうその特徴が浮かびあがってきます。また、花、果実、根といった細部の特徴は、その植物の全体像を示しただけではよく読み取れません。このように、個々ばらばらに見たり、全体を描いた一つの図からだけではその特質をはっきりとつかみきれないものについては、組図版を用意しました。また、動物についてはその生態をも表現するよう心がけました。さらに、動植物をはじめとして自然界には、世界の各文化のなかで古くからさまざまな象徴として扱われてきたものが数多くあります。これらの文化史的な図版をも併せて示したことは、《世界大百科事典》の本文図版の大きな特徴です。
歴史の流れのなかで文化をとらえる図版〈アメリカ・インディアン〉〈アンデス文明〉〈ギリシア〉など、世界および日本の重要な文化をあつかった項目では、年表などを組み合わせた総合図版ページを設けました。歴史の流れのなかで文化をとらえる基本的方針の具体化の一例です。地図についても、都市の形成、王朝・国の変遷などの歴史地図を重視しました。
自然科学における数式や化学式、外国文化を記述する場合の欧文表記などを考えると、本格的な総合百科事典は必然的に横組みとなります。世界大百科事典が一貫して横組みを採用しているのはこのためです。
ユニット化による見やすい構成本文図版は、原則としてその項目の右の欄に集めてあります。それぞれの図版は、3行を基本単位(ユニット)として、できるだけコンパクトにまとめました。
本文中の事項と図・表との関連の明示図版、表、年表のある事項については、本文中に画像のマークを付してあります。また逆に、図、表には、それぞれの冒頭に項目名を示し、相互の検索の便をはかりました。