本書は Oxford Collocations Dictionary for students of English Second edition (2009) [以下OCD2]から、日本の英語学習者、研究者に有用と思われる項目を厳選して日本語訳をつけた英語のコロケーション辞典です。原書の特徴と価値をそのまま残し、こなれた日本語を対応させるために、最大限の努力と工夫をしました。
OCD2は約20億語からなるOxford English Corpusを使用して作られたもので、イギリス英語とアメリカ英語を等しく記述しています。編者の Colin McIntosh は Cambridge Advanced Learner's Dictionary 第4版の編者でもあります。
OCD2でいうコロケーションとは、言語の習慣的な語と語のつながりのことです。例えば heavy rain や strong wind というつながりが普通であり、heavy wind や strong rain とは言いません。これらのコロケーションを構成する4つの単語はいずれも基本的なものですが、それぞれを別々に記憶するだけでなく、どの語とどの語が結合しやすいかを学ぶ必要があります。
基本語は多くの意味をもちます。これを多義性といいます。多義性があるので基本語の意味をつかむことは難しいですが、実は数多くある意味のうちどの意味で使われているかは、他の語との結合、すなわちコロケーションによって明らかになります。漠然とした意味をもった語の結合よりも、言いたいことを表すのに適切なコロケーションを選ぶことで、より正確な表現になります。次の例をみてみましょう。
いずれの文も文法・語彙の面では英語としては完ぺきですが、どちらが話し手の意図をより多く伝えているでしょうか。言うまでもなく(2)です。
昨今の学習英語辞書の多くはコロケーションの記述をうたっています。ですが、学習辞典はコロケーション以外に多くの情報を記述しなければなりません。そのため、辞書の中で扱われるコロケーションは、情報のほんの一部でしかありません。そこで本書では、無限に存在するコロケーションを効果的に抽出し記述するために、個々の語についての詳しい情報よりも、どの語とどの語が結合しやすいか、また新しい結合によってどのような新しい意味が生まれるかという点に集中しました。OCD2は、「必要に応じて知る」(“need-to-know”)ことを主眼に、学習者の「コロケーション能力」の養成を目指しています。
現代英語のデータベースである Oxford English Corpus を特別なソフトを使って分析し、若干の手を加えて読みやすい形にして提示しています。
また本書は、理解のためだけでなく発信のために、どのような表現を学習者が求めるかを考慮しています。ビジネスや科学、歴史、スポーツなどあらゆる分野にわたり、エッセーや報告書、硬い手紙などで使われる「やや硬い英語」はもちろん、法律や医学、政治、スポーツといった専門分野で使われる重要コロケーションや、会話やインターネットに登場する「くだけた英語」も含まれています。
名詞中心の記述になっています。一般的に、人は考えをまとめるとき、名詞から考え始めます。例えばまず rain(雨)がうかび、その rain がどのような形容詞や動詞と結合するかを考えます。まず heavy を考えて、それと結合する rain, breathing, damage, gunfire を考えるという方向は一般的ではありません。名詞から思考を発展させるという方向に合うように、まずは名詞の見出しを見てください。
OCD2 の特徴をそのまま残し、編集者と意見交換をしながら使用頻度を綿密に調査して、学習者には膨大すぎる内容を圧縮しました。現代英語の実態そのものを映したコロケーションといきいきとした用例によって、いますぐ役に立つ、読解と発信の両方の役割を兼ねた「読むための辞書」になっています。
いきいきとした現代英語であるため、これまで日本語に訳されたことがなかったコロケーションは数知れません。そのようなコロケーションには綿密な調査を経て訳語をつけています。
mix の項を見てみましょう。volatile mix (危険な取り合わせ)、cake mix (ケーキミックス、ケーキのもと)、brownie mix (ブラウニーミックス チョコレートケーキのもと)、potting mix (鉢植え用培養土)のように、mix という多義語がコロケーションになることによって、それぞれの意味がより明確になっていることがわかります。
office の項では、back office(事務部門などのバックオフィス)、corner office(ふつう役員などの角部屋)、front office(ホテルのフロント;会社の接客部門)といった例を見ることができます。
また、display の項にある static display は本来動くものである航空機などを駐機して展示することを指すので、「航空機などの静的展示」と訳してみました。
このように、形容詞(または形容詞的な働きをする名詞)+名詞のコロケーションは数多くの新しい概念を表しています。それ以外に名詞と前置詞の結合でも、従来気づかれなかったコロケーションが多数ありました。difference の項に前置詞 with との結合があります。これは difference from などとは異なる表現です。ぜひ difference の項を引いて確認してみてください。
文法を超えた「英語らしさ」の追求は、英語らしいコロケーションの習得から可能になります。本辞書を活用して「英語らしさ」の追求に役立ててください。
2015年2月
八木克正