この辞典は、2008年に刊行された Oxford Learner's Thesaurus: A dictionary of synonyms (Oxford University Press) から、日本人にとって有用と思われる項目を厳選し、編集した日本語版の英語類語辞典です。原書に Learner's と銘打たれているだけあって、全体を通して学習者の立場に立った視点が常に貫かれており、日本人にとっても恰好の類語辞典になっていることは論を俟ちません。以下に、この日本語版類語辞典の主な特長を掲げておきます。
以上7つの特長のほかにも、参照項目や反意語がネットワークさながら相互に確認できるようになっており、類語グループ同士の読み比べに便利です。また、同じ語が別の類語グループでも扱われていれば、意味の違いを探って楽しむこともできます。
本書は日本語からも引ける最大の類語辞典ですが、例えば、親見出し rise(「上昇する、増す」といった意味)を見てみましょう。類語として grow、increase、climb、go up などが挙げられていますが、各類語がいかに詳述されているかがおわかりになるでしょう。
このように、何が「上昇する、増す」のかが丸括弧内に明示され、さらにコラム(ノート)では rise と grow と increase の使い分けが、次のように簡潔にわかりやすく解説されています。
「rise はこれらの動詞の中で最も頻繁に用いられるが,数や水準について用いられることが一番多い.grow と increase は,大きさや強さについても用いることができる.......」
このような ノート のほかにも注記(注記)が随所にちりばめられており、英語の語彙の習得にうってつけの内容になっています。
ここで一つ触れておきたいのは、日本人の感覚からすると類語とは思えない、ややずれた感じのする語が類語として扱われている点です。しかし、英語のネイティブスピーカーの感覚からすると、それらはまさに類語なのです。こうした類語に出くわすと、ネイティブスピーカーの思考回路を垣間見ているような気になり、得難い経験になります。
この辞典は以上のように、日頃から英語を必要とし、望ましい英語や適確な表現に敏感な実務家・ビジネスマンにとってはまさに待望の辞典と言えます。また、英語学習者にとっては、英単語を類語というまとまりで捉えることによって、これまでに習得した語彙を整理し直し、さらなる語彙力アップにつなげることができる辞典と言えるでしょう。
さらに、26,000もの用例は、どれもが日常会話や実際に新聞・雑誌等に現れた文章で、ネイティブスピーカーの生きた英語の習得には最適なものです。原書に収載するに当たって前後が省かれ、文脈が失われていますが、用例の英語が使われた状況を自ら想像し補いつつ読むことは、単語の意味を追うことにとどまらない読解力を養う一助となるでしょう。
最後に、この辞典を日常的に大いに活用され、日本人として英語を正しく理解(受信)し、自らの考えを臆することなく表現(発信)する際にお役立ていただければ、監修者としてこれに勝る喜びはありません。
2011年4月
田中 実