人間のパワーを利用して飛ぶ飛行機で,FAI(国際航空連盟)のスポーツ委員会によると,次のように定義されている。すなわち,(1)空気より重い航空機であること。熱空気あるいは空気より軽いガスで浮力を助けてはならない,(2)離陸から着陸までの全区間,同じ乗員の動力と操縦で飛行し,途中でだれかが機から脱出してはならない,(3)離陸あるいは飛行のために,エネルギーを蓄える装置,例えば,ゴム紐,ゼンマイなどを備えてはならない。パチンコで射出することも許されない,(4)離陸あるいは飛行中に,機体の一部を投棄してはならない,(5)他の船や飛行機から空力的な助力を受けてはならない。飛行機曳航もいけない,(6)離陸および飛行はすべての方向に傾斜度1/200以下の水平面上で行われなければならない。
1935年にドイツで,翌年にイタリアで人力飛行機の飛行が行われたが,ともにパチンコ射出で離陸したので,今日の定義にはあてはまらない。今日の定義による人力飛行機で最初に成功したのは,イギリスのサザンプトン大学で作ったサンパック号で,61年11月9日,約45mの距離を飛行した。62年5月には,距離908mの飛行,72年6月には距離1071m,時間1分47.4秒の飛行に成功(いずれもイギリス)するなど,人力飛行機の記録は次々に更新されていき,日本でも77年1月2日には日本大学のストークB号で加藤隆士が距離2093.9m,時間4分27.8秒の記録を達成している。
人力飛行機の飛行に関しては,1959年イギリスの実業家H.クレーマーによって,805m隔てた2本のポールの間に8字飛行を行った最初のものに賞金を出すというクレーマー賞が設定されており,77年8月23日,アメリカのB.アレンはP.マクレディらの作ったゴッサマー・コンダー号でこれを達成(飛行時間6分22.5秒),5万ポンドの賞金を獲得した。さらに79年6月12日には同チームによるゴッサマー・アルバトロス号が距離35.812km,時間2時間49分の記録でイギリス海峡横断(フォークストン~グリネ岬間)に成功し,10万ポンドの新クレーマー賞も獲得した。これは人力飛行機として極限に近い大記録である。
人力飛行機は,わずか0.3~0.4馬力に過ぎない人間のパワーでペダルを踏んでプロペラを駆動し,そのパワーを利用して飛ぶ飛行機であるから,自力で離陸して水平飛行を続けるのに必要なパワーをできるだけ小さくすることが設計上の最重要点である。このため機体はグライダーのようにアスペクト比の大きな主翼を用い,空気力学的に洗練された外形にするとともに,構造重量の徹底的な軽減をはからなければならない。日本大学のストークB号は,バルサ材,発泡スチロール材,和紙などを用い,翼面積21.7m2の機体をわずか36kgでしあげたが,ゴッサマー・アルバトロス号は炭素繊維複合材,ケブラー(アラミド繊維),マイラー(ポリエチレンテレフタレートフィルム)などの高価な新材料を使って翼面積43.9m2の機体重量を32kgで完成している。それでもなお人力飛行機は高度1~3mの低空を飛び,地面効果の助けを借りないと飛行できないのである。