立春を前に、冬の寒さがぐっときつくなると、温かな鍋料理が一層恋しくなる。肉や魚、豆腐や野菜を土鍋に入れ、火にかける。土鍋を前に、ゆっくりと火が通るのを待っていると、そろそろ吹きこぼれるかな、という頃合いで旨そうな音が聞こえてくる。「ふつふつ」ほど弱くもなく、「ぐつぐつ」ほど強火で煮る音でもない。「じやじや」と例えるのがほどよい音と様子なのである。ごはんや煮物などが煮え、ふきこぼれそうになるときを「じやじやどき」といったり、野菜や肉の煮たものを「じやじや煮」と呼んだりする。雑炊を「おじや」と呼ぶのは、この擬声語が語源という説もある。

 冬本番には、京野菜の水菜、その一種の壬生菜(みぶな)といった、鍋料理に合う個性派の菜っ葉が旬を迎えている。大阪には鯨肉と水菜だけを入れて煮込んだ鍋物「はりはり鍋」という名物料理がある。水菜の堅い繊維に火が通り、ややくたっとしたら、ポン酢につけて食べる。噛んだときに水菜特有のシャキシャキとした歯ざわりがするため、「はりはり」という名前が付けられたという。

 京都で鯨肉の鍋というと、昔は「いりがら」を具にした鍋料理をよく食べたという話を聞いたことがある。「いりがら」は、大阪では「コロ」という名称で、おでんの具としても使っている食材である。これは脂肪の多い腹側の皮部分を使い、一旦油分を搾った後、揚げてからっと仕上げたもので、菜っ葉と一緒に「じやじや」とさせながら鍋ものにすると、体の芯から火照るように温まるそうである。


京都の寒い時期に欠かせない鳥すきも「じやじや」がおいしい鍋料理。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 女優。1月11日に食道がんで死去。享年80歳。東京・品川生まれで、敗戦の翌年、父親が他界すると高校を退学して松竹歌劇団(SKD)の養成学校へ入学する。

 入団前に黒澤明監督に抜擢され新東宝映画『野良犬』(主演・三船敏郎、1949年)に本名の井田綾子で出演している。

 芸名は大好きだった宝塚歌劇の淡島千景から淡をとり、黒澤監督が恵子と付けたといわれる。淡路が初めて主演した映画『この世の花』(55年)の主題歌を島倉千代子が歌い、映画とともに大ヒットした。

 この封切り当時私は10歳だったが、父親に連れられて観に行った記憶がある。満員で大人の背中越しに観ながら、島倉の「想うひとには嫁がれず 想わぬひとの言うまま気まま」という歌詞を帰り道に歌って、父親から怒られた。

 淡路を素晴らしい女優として意識したのはNHKの連続ドラマ『若い季節』だった。これは61年から64年まで続いた人気ドラマで、淡路は銀座の化粧品会社『プランタン化粧品』の女社長役だった。いまでいうオールスターキャストで、売り出し中の坂本九、ハナ肇とクレージーキャッツ、いしだあゆみ、渥美清、落語界の御曹司・古今亭志ん朝も出ていた。

 淡路はスタイルのよさも際立っていたが“鉄火肌の姐御”っぷりがいまでも目に焼き付いている。

 この頃は生放送でもちろんカラーではないが、茶の間で見ていた私には、淡路の着ているクリーム色のスーツがハッキリ“見えた”のである。同じ頃に放送されていたアメリカの『サーフサイド6』(トロイ・ドナヒュー主演)はマイアミを舞台にした青春ドラマだが、トロイが運転して海辺を走るスポーツカーの鮮やかな赤も“見えていた”のである。

 淡路はこの頃、フィリピン人歌手のビンボー・ダナオと“事実婚”していて2人の男の子を産んでいる。

 だが11年続いた同居生活は破綻する。66年に当時の大スター中村錦之助(後の萬屋錦之助)と結婚。『週刊新潮』(1/23号)は、淡路が昨年、大腸に腫瘍が見つかり入院する直前の5月下旬にインタビューしているが、そこでこの結婚をこう語っている。

 「『僕は2人の父になるよ。一緒になろう』と猛烈にプロポーズされ、再婚したのです。錦ちゃんは思った通り心の広い人で、2人の連れ子にも私にもたっぷり愛情を注いでくれた」

 順調だった女優業を辞めて夫に尽くし、新たに2人の息子にも恵まれた結婚生活だったが、82年に暗転する。

 錦之助の経営するプロダクションが約13億円の負債を抱えて倒産してしまうのである。豪邸も差し押さえられた淡路に次なる不幸が襲う。「錦ちゃんが原因不明の難病『重症筋無力症』に罹ってしまいます」(淡路)。献身的な介護をするが2度も危険な状態に陥ったことがあるという。

 奇跡的に錦之助は回復し銀幕にカムバックしていくのだが、その間、淡路は講演活動や六本木のクラブの雇われママをして生活を支える。

 夫が復帰して喜んだのも束の間だった。次なる不幸が淡路に降りかかる。錦之助と舞台で共演した元宝塚の甲にしきとの不倫が発覚するのだ。淡路はその頃、こう考えたという。

 「私も、次々にこれでもかと襲ってくる不幸に、“神も仏もあるものか、鬼が出ても蛇が出ても、私は逃げない。背中を見せないで立ち向かうしか道はない”と思い知らされたのです」

 4人の子供を連れ丸裸で飛び出した淡路は女優業に戻る。だが不幸の魔の手は“萬屋の血を”継ぐ三男(オートバイ事故)と四男(自殺)までも彼女から奪ってしまうのだ。

 晩年、テレビの辛口ご意見番としても人気者になるが、彼女の言葉に重みがあったのは、ほかの軽薄なテレビ人間たちとは流した涙の量が違うからであろう。

 所属事務所社長が、淡路は生前「私の葬儀には真っ赤なバラをたくさん飾って、遺骨は大好きな銀座のお店や帝国ホテルに少しずつ撒いて欲しい」といっていたと『週刊文春』(1/23号)で語っている。ホテルに遺骨を撒くのは論外としても、彼女には真っ赤なバラがよく似合う。「ご苦労様、ゆっくりお休みなさい」と声をかけてあげたいと思う。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 細川護煕氏と舛添要一氏との一騎打ちになった感のある都知事選挙だが、週刊誌も細川派と舛添派に色分けされている。
 といっても舛添氏有力だというのは『週刊新潮』(1/23号)の「『還俗陶芸家・脱原発元総理』連合対『絶倫政治学者』」ぐらいしかなく、数としては細川派が圧勝している。
 そこで細川応援派から3本選んでみた。

1位 「『小泉・細川を潰せ!』大謀略」(『週刊ポスト』1/31号)
 細川出馬をスクープした『ポスト』は、今回は投票率が上がるから無党派層票を取り込める細川氏が勝つと読む。

2位 「細川担いで安倍潰し“原発ゼロ愉快犯”小泉の野望と勝算」(『週刊文春』1/23号) 
 細川都知事誕生なら安倍政権へのダメージは計り知れないと読む。

3位 「細川・小泉なら日本が変わる」(『週刊現代』1/25・2/1号)
 こちらも、細川・小泉連合が勝てば東京ではなく日本が変わるとしているが、どれも主役は小泉氏で付け足しのように細川氏をもってきているところが、この都知事選挙の本質を表しているようである。 

 

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 「クールジャパン」として日本の漫画・アニメを世界に売り出そうとする政府の動きがある。ストーリー性や表現方法において、海外の「コミック」とは異なる進化を遂げた「漫画」という文化。コンテンツとして力があることには異論がないだろう。近年、出版社の戦略もあって翻訳が進み、世界中で読者が増えている。一方で、国内ではピークが過ぎたとの見方をされ、漫画雑誌も次々と廃刊になり、安閑としていられない状況だ。こうなると、海外はマーケットとしてますます重要になる。

 そんな日本に負けじと、韓国政府が売り出そうとしているのが韓国の漫画、「マンファ」である。近年、韓国では漫画ビジネスの凋落が日本以上に深刻な事態となっている。景気の悪化や、1997年制定の青少年保護法によって漫画が「有害な媒体」と規定された影響だ。マンファの描き手は次々と発表の場を失っていった。が、2000年代半ばには、自らが招いたマンファの危機を忘れたかのように、政府が積極的な振興策を打ち出すようになった。日本でも「韓流ドラマ」のブームが起きたが、エンタメコンテンツ輸出への支援は、いまや重要な経済政策なのである。

 「マンファ」は、日本の影響を受けている、というよりも、ほぼ「漫画」と見分けがつかないほど。これが海外の出版イベントで紹介される様子を想像してみてほしい。外国人からすれば、日韓の漫画が並んでいれば、もはや「同じもの」である。決して皮肉ではなく、「うまく乗っかろうとする」ところは、実にしたたかといえる。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 脂肪分の摂り過ぎは肥満の原因になるが、脂質はたんぱく質や炭水化物などと並び、ヒトの身体のエネルギー源となる重要な栄養素だ。とくに、脳の働きをよくするものとして注目されているのがオメガ脂肪酸だ。

 脂肪酸は大きく分けると、常温で固まりやすい飽和脂肪酸、常温で固まりにくい不飽和脂肪酸の2つがある。オメガ脂肪酸は後者の不飽和脂肪酸で、その構造の違いからドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、αリノレン酸はオメガ3系、アラキドン酸(ARA)、リノール酸がオメガ6系、オレイン酸がオメガ9系に分類される。

 なかでも脳の働きをよくし、うつ病や認知症予防に効果が期待されているのが、DHA、EPA、ARAだ。これらの栄養素は、記憶能力や学習能力を司る海馬の機能を助ける成分として期待されており、脳の発達や維持に重要な役割を果たしている。

 ただし、体内では合成できないため、食事などで補う必要がある。とくに、60歳を超えると海馬内のDHAとARA が減少を始めるため、血流をよくする働きをするEPAとともに意識して摂りたい栄養素になる。

 ARAが多く含まれているのは、卵、豚や牛のレバーなど。DHAやEPAは、サバ、サンマ、イワシなどの青魚のほか、マグロ(脂身)、ハマチ、ブリなどにも含まれている。

 オメガ脂肪酸を摂っていれば、絶対にうつ病や認知症にならないわけではないが、これらの食品をバランスよく摂ることは健康な食生活を送るためにも必要なことだ。少し意識して、オメガ脂肪酸を摂る習慣をつけてもいいだろう。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 2013年、どこかで見たことのあるような航空機が、ジェットエンジンを積んだ有人飛行テストを行なった。パイロットは、メディアアーティストの八谷和彦(はちや・かずひこ)氏。ピンクのクマでブレイクしたメールソフト「ポストペット」の開発などを手がけた著名人だ。八谷氏が2003年から取り組んでいた構想、それは映画『風の谷のナウシカ』に登場する飛行装置「メーヴェ」を、実際に作ってしまおうというものだった。テストは無事に成功し、夢はまさに飛翔しつつある。

 このプロジェクトの名前は「OpenSky(オープンスカイ)」。公式ホームページによれば、最終的な目標は「体重50kg程度の女の子が、ひとり乗れる仕様でパーソナルジェットグライダーを作ること」である。「体重50kgの女の子」のさすところは、まぎれもなく「ナウシカ」だろう。「メーヴェ」は、映画の劇中で風の谷を滑空する、ナウシカの颯爽としたイメージを象徴する存在。しかし、あくまで「機体コンセプト」を参考にして実現性の範囲内で開発しているため、「そのまま」再現することが目的ではない。また、スタジオジブリの公認を得ているわけではなく、事故があった場合の責任を考えて、むやみに「メーヴェ」の名前は使われていない。真摯な夢追いはまだまだ続く。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 安倍晋三首相が2013年末に靖国神社を電撃参拝したことで、東アジア各国で批判の声があがったが、そこで関心が高まったのがこの「国立追悼施設」である。

 戦没者の追悼を目的とした国立施設で、2002年に当時の福田康夫官房長官の私的諮問機関がその建設構想を提言した。

 それによると、追悼施設は憲法の政教分離の原則に配慮して無宗教の施設を想定し、空襲などで亡くなった民間人や外国人も追悼の対象に含まれる。

 提言の背景には、東京裁判(極東国際軍事裁判)で処刑された東条英機元首相らA級戦犯14人が1978年に靖国神社に合祀されたことがある。それが「1975年を最後に天皇陛下の靖国参拝がなくなった大きな理由」との指摘がある。靖国神社は外国、特に旧連合国側、また中国、韓国からすれば、かつての「日本軍国主義」のシンボルと位置づけされている。

 国立追悼施設の建設構想は日本遺族会が「靖国神社の存在の否定につながる」などとして反対。自民党内にも慎重論が根強く、具体化に至っていない。

 しかし、今回の安倍首相の靖国参拝を受け、公明党が「わだかまりなく、どのような国民、外国人、天皇陛下も含めて追悼できる施設は、前向きに検討する必要がある」(山口那津男代表)として提唱。その一方、菅義偉(よしひで)官房長官は「国民世論の動向を見極めながら、慎重に検討を進めていくことが大事だ」としている。

 ただ、安倍首相は、建設に消極的な考えをテレビなどで明らかにしている。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



1:おもに格闘技界において、真剣勝負のことを表す「ガチンコ」の省略形で、今では広く一般的に「真剣であること」「真面目であること」を指す。

[使用例](若者男子が女子にプロポーズする際)「オレ、遊びじゃなくてガチでコクってるんすけどー!」

[同義語]マジ・マブ

2:おもに(新宿)二丁目を総本山とする、日本のオネエカルチャーにおいて、マッチョを表す「ガッチリ」の省略形で、オネエに好かれる男になるための重要なキーワードでもある。依然、この世界では福山雅治やジャニーズ系より圧倒的に人気の高い「ガチ(系)」は、その評価の度合いを裏付けするかのごとく、「ガチムチ(=ガッチリ&ムッチリの略で、骨太マッチョなのに肉付きが良い体格のこと)」「ガチポチャ(=ガチムチよりも脂肪の量が増えた体格のこと)」「ガッチビ(=ガッチリとしたチビ体格のこと)」……などと、執拗に細かく分類されている。

 ちなみに、この世界で永遠の王道とされるのは、「短髪(坊主頭)・ガチムチ・ヒゲ」であるらしく、その理想像としては、お笑い芸人の「ぐっさん(DonDokoDon)」こと山口智充(ともみつ)あたりがよく挙げられる。

 

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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