アメリカの女性誌『Allure(アルーア)』が、今年8月に発売した9月号の表紙で「the end of anti-AGING」(アンチ・エイジングの終わり)と宣言。今後、「アンチ・エイジング」という言葉を使わないと打ち出したことが、日本でも話題になっている。

 アンチ・エイジング(anti-aging)は、若返りや老化防止の意味で使われる言葉だ。

 誰でも年を重ねるとしみやしわができたり、筋力が弱まったりして、老いを感じるようになる。また、DNA(遺伝子)の異常によって起こるがんも、高齢になるほど増えていく。アンチ・エイジングは、こうした加齢によって起こる体の衰え、病気の原因を抑制して、老化の進行を遅らせようというもので、おもに美容や健康、医療などの分野で老化予防を目的とした商品や技術が販売されるようになっている。

 アンチ・エイジングがもてはやされるのは、社会が「若さ」に価値を見出しているからだろう。私たちの頭のなかには、若いことがイコール美しいことで、「老いは敵」といった考えがしみついているのではないだろうか。

 だが今回、『アルーア』は、メディアが「加齢とは、闘わなければいけないもの」というメッセージを助長しているとして、「アンチ・エイジング」という言葉を使わないことで、「若くなければ美しくない」といった考え方を変えるために一歩を踏み出すとしている。この『アルーア』のアンチ・エイジング終止符宣言に対して、SNSでは賛同するコメントが数多く見受けられる。

 アンチ・エイジングに限らず、私たちはたくさんの固定観念に縛られている。「結婚しなければいけない」「恋愛対象は異性が当たり前」「収入は高いほうがいい」「学歴は高いほうがいい」「一流企業に勤めている人のほうがいい」「スポーツ万能なほうがいい」など、挙げ出したらきりがない。

 その規格に収まっているものだけが評価の対象であり、外れてしまった人々は価値のないものとされるため、そのなかに収まろうと必死になる。他人を蹴散らしても、傷つけても、自分だけは規格から外れまいとしがみつく。その結果、生きづらさを感じる人が増え、社会に大きな歪みをつくっている。いつの間にかつくられた固定観念は、今や呪いの様相すら呈している。

 だが、年をとっても、結婚していなくても、恋愛対象が同性でも、収入が低くても、学校に行っていなくても、小さな会社に勤めていても、スポーツが苦手でも、その人はその人だ。結婚の有無や恋愛の嗜好で、人の価値を図ることなど誰もできない。どんな人にも価値があり、尊厳を守られるべき存在だ。

 今回、『アルーア』は、アンチ・エイジングという言葉を使わないことを宣言した。だが、新たな価値が、「若さ」ではない、別の「~~でなければ」という言葉にすり変わるだけでは、人々の生きづらさは解消されないだろう。

 人々の意識の奥深くに植え付けられた呪いを解くためには、世界にはさまざまな人がいて、一人ひとりに価値があり、大切にしなければならない存在だということを共通認識にしていく必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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