クリックするだけで世界にアクセスできるインターネットは、我々の視野をおおいにひろげてくれるツールである。……過去にはそんな幸せな展望もあった。現実的には、「有用な」「都合のいい」ワードしか検索しないことが多い。最適化された検索結果から、好きな情報だけ読んでいれば、逆に視野が狭くなる可能性も高い。

 最近、ネット上における「エコーチェンバー現象」がよく語られている。「エコーチェンバー」とは、音楽がよく響くように設計された「残響室」のことである。たとえばSNSでは、基本的に同じ趣味や思想のコミュニティができ上がる。「おかしな反論をしてくる連中」がいれば排除すればいいだけのことだ。だから、互いが互いの意見に共鳴して、自分たちがあるべき正義のように思い込んでしまう。意見というものは、反対意見について考えることでしか磨き上げられないのに。

 多くの仲間たちとインターネット空間に引きこもっていると、どんどん自信がついてきて、主張も攻撃的になりがちだ。非常によく見かけるのが、新聞など大手マスコミに関する批判。もちろん思想の偏りはみえる。だが少なくとも、しっかりと取材して書かれている記事が多く、その正確性はネット上のあやしげな情報と比べものにならない。もちろん、マスコミというものは冷静な批判にさらされてしかるべきだが、少なくとも「新聞は嘘つき。ネットが真実」ではなかろう。エコーチェンバーの中にいると、それすらもわからなくなってくる。

 とはいえ、社会に影響力を持つ層が、いまから急にSNSから距離を置くことなどありえない。今後の我々は、ネットを活用できる賢さを身につけられるのか。それともネットに翻弄され、断絶が断絶を呼ぶ、悪夢的な世界に生きることになるのか。まずは、なるべく多様な意見に耳を貸す心の余裕が求められるだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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