三菱自動車(以下、三菱自)は4月20日、相川哲郎社長が会見を開き、車両の燃費試験で不正行為があったことを明らかにした。
しかし『週刊新潮』(5/26号、以下『新潮』)によると、三菱自と業務提携している日産自動車が、軽自動車の燃費データに不審な点があることに気付き、三菱自に通知したのは昨年11月だったというから、公表するまでかなりの時間がかかっている。
それは、三菱自の不祥事は今に始まったことではないからだ。00年には、ユーザーからのクレーム情報を隠蔽して、内密に改修、修理するなど大規模な「リコール隠し」が発覚している。02年には大型車の死傷事故が相次ぎ、欠陥を組織的に隠したり、国に虚偽の報告をしていたことが判明して、元社長らが有罪判決を受けている。さらに04年には乗用車の多くの車種で再びリコール隠しが発覚、12年にはエンジン部品のリコールに消極的だったと国土交通省から厳重な注意を受け、軽自動車176万台をリコールする問題に発展しているから、三菱自が入っている三菱グループの裁断を仰いだりする時間も必要だったのであろう。
また、問題発覚後の三菱自や三菱グループの自覚のなさも、週刊誌によって次々に明らかになっていった。
『新潮』(5/5・12号)は、「三菱グループの天皇」といわれている相川賢太郎氏(88)のインタビューを掲載した。
今回の問題で頭を下げた相川三菱自社長の実父で、東大を出て三菱重工の社長を1989年から3期6年、会長を2期4年務め、今も三菱グループ全体に睨みをきかせているという。
毎月第2金曜日には三菱グループの主要企業29社の社長や会長たちが集まる「金曜会」というのがあり、その世話人代表を96年から99年まで務めている。ちなみにグループの御三家は三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行だそうだ。
この御仁、わが息子が引き起こした今回の不祥事をどう思っているのだろうか。
「あれ(今回の不正問題=筆者注)はコマーシャル(カタログなどに記された公表燃費性能=筆者注)だから。効くのか効かないのかわからないけれど、多少効けばいいというような気持ちが薬屋にあるのと同じでね。自動車も“まあ(リッター)30キロくらい走れば良いんじゃなかろうか”という軽い気持ちで出したんじゃないか、と僕は想像していますけどね」
続けて、燃費がいいから自動車を買うなんていう人はいない。その自動車がいいから買うのであって、軽い気持ちで罪悪感はまったくなかったに違いないというのだ。さらに、 「その人達もね、燃費を良くすれば1台でも多く売れるんじゃないかと考えたんでしょう。(中略)彼らを咎めちゃいけない。三菱自動車のことを一生懸命考えて、過ちを犯したんだから」
呆れ果てるというのはこのことを言うのであろう。
また『週刊文春』(5/26号、以下『文春』)は
「三菱自の天皇」といわれる益子修会長(67)を直撃インタビューしている。益子氏は三菱商事出身で三菱自の経営再建のために送り込まれたという。今回の不祥事について『文春』が聞くと、「開発(部門)の中が分からなかった」「(燃費偽装を=筆者注)知りませんでした」「現場には行くけど、そういうのをやっているのは分からなかった」「(燃費目標を5回も上げたではないかという質問には=筆者注)僕は『できないでしょう』と言ったけど、『できる』と言われるとね」と、
自分は知らされていなかったと逃げるばかりだ。
三菱自がまとめた調査結果には、データ改ざんの背景には
「目標達成へのプレッシャーや、幹部社員らの高圧的な言動による物言えぬ風土などがあった」と書かれているのにである。
結局、三菱自は三菱グループを離れ
日産の傘下に入ることが決まった。『新潮』によれば、抜け目のないゴーン日産は、不正発覚直後から三菱自や三菱グループの経営状況を調べ始めていたそうだ。
提携発表前にゴーン氏の右腕と称される人物が首相官邸を訪れ、菅義偉(すが・よしひで)官房長官に三菱を傘下に収めることを報告しているという。
「日産としては三菱自動車を三菱グループから切り離して完全に自社のコントロール下に置きたかったのですが、重工側は“待ってくれ”と。で、第三者割当増資という案が出てきたのです」(専門誌記者)
三菱自が不正を発表して、日産はうまみのあるところまで三菱の株価が落ちたタイミングを見計らって提携(実質的な吸収)を発表したというのである。
徹底した合理主義者のゴーン氏だから、三菱自には
厳しいリストラをもって臨むという観測がしきりである。
燃費不正問題はスズキにも飛び火した。5月18日、鈴木修スズキ会長(86)が会見で「国のルールを守っていなかったことに企業としておわび申し上げる」と深く頭を下げた。マツダやダイハツなどは今のところ燃費不正を否定しているが、トヨタはどうなのだろう。
カタログ燃費と実燃費が乖離(かいり)していることは、自動車に少し詳しい人間なら誰でも知っていたことであろう。
ここで私が最近読了した本を紹介したい。
『ガラパゴス』(相場英雄著・小学館)である。非正規雇用の若い労働者が無残に殺された謎を、2人の刑事が地道に解き明かしていく好ミステリーだが、この中に被害者が働いていた自動車会社について、刑事がクルマに詳しいファンドマネージャーに聞く場面が出てくる。
彼は
「日本は先進国で唯一、クルマの燃費表示があてにならない国」だと言い切る。国の燃費の試験は、シャシーダイナモという巨大なローラーの上で実際のクルマを走らせ燃費を計測するが、メーカー側は燃費計測に仕様を合わせた特注品を持ち込み、燃費計測専門のドライバーも在籍するという。
その上、今回のように不正を働いていては、カタログ燃費と実燃費に大きな差が出るのは当然である。そのファンドマネージャー氏はアメリカでは消費者保護の考えが強いため、日本車も実燃費に近い数字を発表していることを刑事に示し、日本の消費者は国とメーカーに騙され続けていると話す。
さらに日本の自動車メーカーが主力にし、国内で3割近いシェアを占めているハイブリッド車は、やがてガラケーやテレビのように、世界の流れから置いていかれ“ガラパゴス化”するとも指摘する。
彼が言うには、ハイブリッド車には大きな弱点があるという。発進と停車を繰り返す市街地では特性を発揮できるが、停車が少ない高速道路では蓄電という最大の武器を使えないからだ。
それに北米ではハイブリッド車のシェアは5%にも満たず、ヨーロッパや中国ではもっと低い。軽自動車は国内専用モデルだし、欧米メーカーは
ハイブリッド車の実燃費に肉迫するようなエコカーをどんどん投入している。
ターボの技術によってハイブリッドよりはるかに低燃費の小型車が登場し、欧州やアジアでは急激にシェアを伸ばしている。クリーンディーゼル車も急上昇している。
ファンドマネージャー氏は専門の金融面でも自動車業界の脆弱性を指摘する。アベノミクスで日銀が行なった超金融緩和は、無理矢理円安にさせて自動車や電機業界の業績は帳簿上格段に上がった。しかし海外で爆発的に製品が売れたわけではない。
この予想通りトヨタ自動車は5月11日、急激に進む円高のため2017年3月期の利益が大幅に落ち込むとの見通しを発表している。シャープや東芝は氷山の一角。次はトヨタかもしれないのだ。
この本が出たのは今年の1月。いい小説は時代を見通すという好例であろう。
『週刊現代』(6/4号、以下『現代』)は「主要100車種『実際の燃費』をすべて公開する!」という特集を組んで、この国の自動車メーカーのいい加減さを実証して見せた。
『現代』はインターネットサイト「e燃費」の協力を得て、代表100車種のカタログ燃費と実燃費の差を調べたのだ。
「e燃費」の石原正義氏がやはりこう話している。
「ハイブリッド車や軽自動車など燃費を売りにする車ほど、
実燃費とカタログ燃費の乖離が大きくなる傾向があります」
その通り、トヨタのプリウスは、カタログ燃費は40.8km/Lだが、実燃費は21.7km/Lと、達成率は53.3%しかなかった。
ほかにもスバルのプレオは達成率45.2%、スズキのアルトラパンは達成率が49.0%で、100%を超えているのはホンダ・シビックの116.9%、1台しかないのだ。
検査をメーカー任せにしていた国もメーカーも、自動車ユーザーをバカにするのもほどほどにしろ! である。
結局、トップたちは誰も責任をとらず、下請けにしわ寄せが来て、
非正規雇用者が職を失う。朝日新聞(5月24日付)によると、軽自動車の生産が止まった水島製作所(岡山県倉敷市)では、早速、雇用調整という名の首切りが始まり、28社、約1050人が影響を受け、約100人が職を失うと、岡山県が調査してまとめた。
帝国データバンク(4月下旬の調査)によると、三菱自の下請け企業は直接取引する一次と、そこと取引をする二次だけで、全国に7777社、そこで働く人は約41万2000人いるという。
こうした問題がトヨタでも発覚すれば、日本経済そのものが沈没することは間違いない。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
日本のメディアには
触ってはいけない「タブー」がごまんとある。天皇制や一昔前の創価学会、今はもっと増え安倍首相やジャニーズ事務所などの大手プロダクション、ベストセラー作家もタブーの仲間入りしている。だが、私が出版の世界に入った頃から若干の変動はあったが、タブーの王様のような存在が広告代理店の
電通である。今やメディアの広告ばかりでなく、五輪からW杯までスポーツをビジネスにして巨利を得ている。最近、東京五輪招致に電通が深く関わっていたという疑惑が海外から出てきたが、相変わらずメディアは電通にその真偽を確かめることさえ進んでしない。おかしいぞ! メディアは。
第1位 「なぜ大新聞とテレビは『電通』の名を報じないのか」(『週刊ポスト』6/3号)
第2位 「『日本会議』とは何か?」(『週刊ポスト』6/3号)
第3位 「『オバマ大統領』が広島でやるべきこと」(『週刊新潮』5/26号)
第3位。
オバマ大統領が今日、5月27日に広島を訪問する。『新潮』は巻頭で「オバマが広島でやるべきこと」を特集しているが、ほかはともかく、この2人の意見には賛成する。野球評論家の張本勲氏は5歳の時に被爆し姉を失っている。
「絶対に資料館であの“服”を見てほしい。あそこには、女の子用の小さな洋服が展示されている。3歳か4歳の子のものかと思っていたら、高校生の洋服だった。洋服もこんなに縮んでしまうのか、と胸を打たれました」
作家の大下英治氏は1歳の時母親の背中で被爆し、父親は全身火傷で亡くなっている。
「大統領には、被爆者の話を直接聞いてほしい。資料館も行くべきですが、あそこにあるのは“死者の記録”。それに加えて、地獄を背負って生き延びてきた人たちの言葉を、生で聞いてほしいのです」
オバマが何を思い、何を言うのか。世界中が注目しているはずである。
私はオバマ大統領の広島訪問決断を支持するものだが、気になる記事が毎日新聞 5月22日付に載った。
「米大統領広島訪問 元米兵捕虜も立ち会いへ 米政府が要請
【ハノイ西田進一郎】オバマ米大統領が27日に被爆地・広島を訪問する際、第二次世界大戦中の元米兵捕虜も立ち会うことが22日、分かった。1942年にフィリピン・バターン半島で米兵捕虜ら多数が死亡した『バターン死の行進』の生存者らで作る『全米バターン・コレヒドール防衛兵記念協会』のジャン・トンプソン代表が明らかにした」
ホワイトハウスから、大統領の広島訪問の式典に元捕虜の一人を代表として参加させてほしいと要請があったという。
「広島訪問が、原爆投下の被害だけでなく、第二次大戦の全ての被害に目を向けたものであることを示す狙いがあるとみられる」(毎日新聞)
だが、代表で参加する人物は、「米東部コネティカット州のダニエル・クローリーさん(94)。フィリピンで旧日本軍の捕虜となり、パラワン島で飛行場建設の作業を素手で行うように強いられた。その後、日本に移送され、栃木県足尾の銅山などで強制労働をさせられた」(同)という人で、「毎日新聞の取材に当時の生活の過酷さを説明したうえで『兵器は人を殺害するので、全ての兵器は嫌なものだ。しかし、戦争を引き起こしたのは米国ではなく、ドイツと日本だ』と述べ、戦争終結のために原爆投下はやむを得なかったとの認識を示した」というのである。
嫌な予感がする。広島訪問にアメリカ国内で反発が起こるのが怖いために、オバマ大統領が譲歩したのではないのか。
広島で「戦争を早く終結させるために原爆は使用されたのだ」と彼が語れば、日本の国民感情を逆なですることは間違いない。オバマ大統領がどういう言葉を紡ぎ出すのか、じっくり聞いてみたい。
(編集部注:オバマ大統領広島訪問に元米兵捕虜を同行させる件は、直前に中止と発表された。)
第2位。菅野完(すがの・たもつ)の『日本会議の研究』(扶桑社)が異例のベストセラーとなっている。『ポスト』は2週連続で「日本会議」について特集している。今週は日本会議に関わっている人たちに聞いて歩くが、なかなか話をしてくれない。
ようやく日本会議会長で杏林大学名誉教授の田久保忠衛(ただえ)氏がインタビューに答えて、こう話している。
「──日本会議とはどのような活動をする団体ですか。
『我々の一つの大きな目的は
憲法改正にあります。(中略)日本が自国を防衛するという視点に立つとき、障害となるのが憲法9条です。だからよりよい憲法を自分たちで作ろうというのが大きな目的です。(中略)我々の目的を達成するために、(改憲に前向きな)安倍政権の今を好機と捉えて、
講演、啓蒙活動などを大々的に展開しているのです』」
しかし、自民党や安倍政権と日本会議の関係は世間の人が見るほど密接なものではありませんと否定する。だが、どう見ても
今の政権と表裏一体に見える。
また日本会議が生長の家に牛耳られているというのは的外れだとも言っている。
これに対して『日本会議の研究』の菅野氏は、
「冷静に見て、日本会議の主張に政権がなびいているのは否定しがたい。それなのにそう見せないのは、全体をコントロールするトップや事務方の有能さにある。椛島(かばしま)事務総長ら生長の家出身の事務方幹部が取材に答えないのは、そこに本丸があるからということでしょう」
と話している。これからも注視すべき存在であることは間違いない。
第1位。東京五輪招致のためにJOCが裏金を使ったのではないかという「疑惑」は日を追うごとに大きくなってきている。『新潮』と『文春』がともに報じているが、『文春』はアフリカ票に絶大な影響力を持つセネガル出身のラミン・ディアク国際陸連前会長は親日家で、彼が市長時代に来日したときから、日本陸連の当時の会長だった河野洋平氏とは蜜月だったと書いている。
この河野氏の太いパイプが今回の疑惑と結びつくのかについては言及していない。一方の『新潮』は、五輪をはじめ大きな世界大会には必ず
電通の名前が挙がるとしている。今回も、JOCの竹田恒和会長は、シンガポールにある「ブラック・タイディングス」社から売り込みがあり、電通に確認したところ「充分に業務ができると伺った」と述べているが、この会社は公営住宅の一室でとてもオフィスとは思えないし、現在は閉鎖されているという。
「要は、ペーパーカンパニーだった可能性が極めて高い会社に2億円超が振り込まれていたのである」(『新潮』)
電通はどういう調査をして「業務ができる」と判断したのか、説明するのが常識というものである。
この会社の代表の親友はディアク前会長の息子で、彼が13年9月頃、パリで高級時計など2000万円もの買い物をしていたことをフランス検察は把握しているという。
スポーツビジネス界で絶大なる力をもつ人物として、電通の高橋治之氏の名前が挙がっている。彼は電通を退いているが、英紙『ガーディアン』には、彼とラミン・ディアク氏の関係が仄めかされているという。
田崎健太氏が2月に出した『電通とFIFA』(光文社新書)では、田崎氏が高橋氏にインタビューしている。その中で
日本へサッカーW杯を招致するために電通はロビイング費用として、ISLというロビイングを引き受ける会社であろうが、そこへ
8億円ほど払ったと語っている。
サッカーW杯のロビイング活動費が8億円だとすると、
五輪にはもっと多額の金が動いた可能性があるはずだ。今問題になっている2億円程度は氷山の一角に違いない。電通にからきしだらしないテレビは致し方ないが、大新聞は電通を恐れず、この闇に切り込むことができるのか。
この「素朴な疑問」について『ポスト』が「なぜ電通の名を報じないのか」と噛みついている。
何しろ『ガーディアン』紙には電通の名が繰り返し登場するのだから。
『ポスト』によれば、電通の社史『電通100年史』には、00年に、当時の成田豊社長と握手を交わす黒人紳士、今回の疑惑の渦中にいるラミン・ディアク氏の写真が掲載されているのだ。この時ディアク氏は1年前に国際陸連会長とIOC委員に就任していた。
またこの頃から電通は、世界陸上をはじめとする国際陸連が主催する大会の国内放映権を獲得したという。
電通は国内最大の広告代理店で、年間売上高は4兆6000億円、社員数は4万7000人。テレビのCMなどを行なうが、花形部署はそこではなく
「スポーツ局」だそうだ。約150人いる局員がそれぞれ得意な分野を持ち、テレビ放映権、イベントやスター選手の招聘、グッズ販売と、あらゆるスポーツをビジネスに変えてきた会社である。
朝日新聞デジタル(5月23日付)に以下のような記事が配信された。
「2020年東京五輪・パラリンピック招致に絡み、東京側がシンガポールのコンサルティング会社に計2億3千万円を支払った問題で、同社との契約書には、招致委員会の理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長がサインしていたことが22日、関係者への取材でわかった」
JOCと電通の深いつながりは、これまでの経緯を見れば明らかである。
「海外の捜査機関が動いており電通の関わりが注目されている以上、最初から報道の全容を紹介し、
電通に真相を質すのがジャ-ナリズムの常道ではないか」(『ポスト』)
こうした当然のことができないのは日本のジャ-ナリズムが腐ってきている何よりの証拠であろう。