渡辺保 著
伊豆の片田舎に育ち、源家嫡統の頼朝と激しい恋愛によって結ばれたが、そこから彼女の宿命的変転がはじまる。勝気な鎌倉女性の典型であり、妻として、さらに母として、異様なまでの肉親相剋に苦悩する。本書は従来の政子観の不当な取扱いを是正し、鎌倉創業期の政治の動向を通じて、政子の行動と生活とをえぐり出した。
[平安|鎌倉][政治家|女性]
今井源衛 著
『源氏物語』の名声ほど作者紫式部については知られない。本書は、その華やかな御堂関白道長の時代に生きた紫式部の生涯を、誕生から、埋もれた恋愛、不幸な結婚生活、宮廷からの追放、そして晩年に至るまでを、数多くの知見を示して、天才紫式部の特異な人間像を再現する。新装版を機に、最新の研究成果を取入れて晩年の記述を大幅に改訂した。
[平安][文化人|女性]
目崎徳衛 著
貫之は凡庸であり、『古今集』はつまらないというのが、明治以来の常識であった。著者はこの常識に挑戦し、彼を形成した歴史的背景から出発して、『古今集』『土佐日記』に関する諸学説を検討し、多くの史料を駆使しつつ、貫之の実生活と文学精神の変遷をも、時代背景を織り成して鮮明に浮び上らせ、近年の貫之復権の先駆をなした。
[平安][文化人|官人]
平野邦雄 著
道鏡を転落せしめた宇佐神託の一件から、かつて忠臣といわれ、または藤原氏の走狗ともいわれる。しかし最近の卓絶した歴史観では、果して清麻呂を如何に評価するか。本書は、備前の土豪から身を起し、宮廷政治の優れたオルガナイザーとして新時代の開拓者となった清麻呂の風貌と生涯とを、綿密な史料調査によって跡付けられた。
[奈良|平安][政治家|官人]
渡辺保 著
テレビに演劇に小説に、日本中の人々から愛される義経。しかし一体どこまでが本当なのだろうか。本書は物語・伝説の類を一切省き、確実な史料だけによってその一生をたどり、素材としての正史を綴る。──はじめて描き出された真実の姿。波乱に満ちた悲喜の生涯と、源平・公武の葛藤とは、興味津々として胸に迫る。
[平安|鎌倉][武将・将軍]
高橋崇 著
渡来系氏族の子孫ながら、征夷大将軍・大納言まで異例の昇進をとげた、征夷の英雄として名高き武将。後世にいたるまで数々の伝説につつまれた、その全生涯を坂上氏の歴史とあわせ克明に描く。城柵跡の発掘調査や木簡・漆紙文書など、注目をあびる最新の研究成果を縦横にとり入れ、旧版を全面的に改稿。新しい古代東北史の叙述をもめざした決定版。
[奈良|平安][武将・将軍]
佐伯有清 著
伴大納言とよばれて絵巻物などにも登場する伴善男は、史上有名である。応天門炎上の事件にかかわって没落の悲運に泣いた彼には、多くの謎が秘められている。本書は、その波瀾に富む生涯を巧みに描き、事件の真相をえぐりだした最初の伝記。叙述は明治の大逆事件にもおよび興味つきない。日本史に関心をもつ読書人におくる異色の伝記。
[平安][政治家|官人]
多賀宗隼 著
明庵栄西は日本禅宗の開祖であり、また一方茶祖としても仰がれる。再度宋に渡って新仏教を伝え、公家・武家に接近して日本の桧舞台に縦横に活躍し、史密禅の一致、新旧両教の調和を計るかたわら、社会事業家としての面目をも示した。──本書は基礎文献の緻密な精査の上に立って、栄西の全伝とその業績ならびに思想を解明した。
[平安|鎌倉][宗教者]
福田豊彦 著
千葉常胤は、下総千葉の庄を名字の地とする関東の豪族的領主であり、晩年、頼朝の挙兵に参加して、鎌倉幕府建設の功労者の一人に数えられる。本書は、彼を巨大武士団の首長、御家人中の代表的人物としてとりあげ、その豪族としての成長・発展と、頼朝政権との結びつきを追究しつつ、鎌倉幕府の基盤を解明しようと試みたユニークな伝記である。
[平安|鎌倉][武将・将軍]
岸上慎二 著
和漢の学才にすぐれ、『枕草子』の作者としてあまりにも著名な、平安時代を代表する女流随筆家・歌人。学識と機智に富む稀代の才女の生涯──その家系・幼少期・結婚・宮仕え・晩年などにわたり、彼女の教養・性格や、当代および後世の人物評をおりまぜ鮮やかに描く。清少納言研究の第一人者が、蘊蓄を傾け、従来の断片的諸研究を総合した必読の伝。
[平安][文化人|女性]
安田元久 著
後白河上皇は、平氏の盛衰を経て鎌倉幕府の確立期に至る激動期のなかで、院政という政治形態を背負って、「治天の君」としての生涯を送った人物だった。為政者集団のなかでの政治力学的構造を変化させた院政の担い手として、上皇は特に独裁的専制的立場を強化した存在である。本書は、その政治的軌跡の考察に主眼をおいて書かれた興味深い人物史。
[平安][天皇・皇族]
山中裕 著
和泉式部の生涯については文献が少ない。『和泉式部集』『和泉式部日記』が唯一の伝記を探る史料である。本書は『歌集』『日記』を主としながらも、残された文献を可能なかぎり集め、伝記と伝説を峻厳と区別する。摂関政治全盛期に生きた苦難のその姿を、娘小式部をはじめ、紫式部、赤染衛門などとの関係を絡ませ詳述、王朝時代女流作家の生活の意義を説く。
[平安][文化人|女性]
村尾次郎 著
天皇の伝記は、ともすれば平板な政治史に流れやすい。本書はこれを克服することに力を注ぎ、関係史跡の実地踏査や、史料の新解釈に加えて、多くの通説を打破しつつ、公私にわたる桓武天皇一代の事蹟を叙述した。なかでも陰謀や悲劇、または戦乱を通じて、人間天皇がたどる精神的苦悩は、読者の胸を深くえぐるものがあろう。
[奈良|平安][天皇・皇族]
高橋富雄 著
僻遠の地奥州に隠然たる藤原政権を建設し、燦然たる平泉文化を築き上げた“北方の王者”たち──清衡・基衡・秀衡・泰衡の父祖四代にわたる伝記。東北開拓の歴史、藤原氏の素性、平泉文化の種々相、京都および頼朝政権との折衝から、その悲劇的滅亡に至るまでの歴史を、四代の伝記に巧みに織り込み、古代東北史を解明する。
[平安|鎌倉][武将・将軍]
平林盛得 著
平安中期に活躍した第十八代天台座主。奈良期に行基が任じられて以来の大僧正に昇進、『往生要集』の源信や覚超ら高僧を育成、叡山の中興事業を完成しながら、僧兵の創始や権門の子弟を優遇し、山上を世俗化した張本人ともいわれる。その光と影の生涯を解明し、現代にいたる広汎な元三大師信仰に説きおよぶ。正確な史実によるはじめての伝記。
[平安][宗教者]
橋本義彦 著
摂関家に生を享け、父忠実に愛されて、権謀渦巻く廟堂に活躍し、世に“悪左府”の異名をとる。政治に学問に、卓絶した才を謳われながら、保元の乱の元凶と目されるのはなぜであろうか?院政下の複雑な政情をえぐりつつ、悲運に仆れた頼長の数奇な運命を探り、その強烈な個性の生んだ思想と行動とを具体的に描き出した。
[平安][官人|政治家]
田村晃祐 著
日本天台宗の開祖・最澄の伝記は、まだ学界で論争中のことも多く、一定するに至ってはいない。本書は、それらの諸説を掲げて著者の見解を示し、最澄の全体像の把握に迫る。特に根幹となる思想については、その形成と内容を述べて、行動との関連性を考え、主要著作を解明し、国家に対する仏教の自立をめざした教団づくりの意図と努力を概観した。
[平安][宗教者]
田村圓澄 著
浄土宗の開祖法然は、日本仏教史の転回点に立つ聖者でもある。宗祖の立場は常に苦難の道であって、彼もまた例外ではない。しかし法然の門流が多くなるにつれて、法然像もまた神秘化され来った。本書はこの意味から法然像のヴェールをはがし、あるがままの人間法然を描き、執拗な弾圧に抗する苦悩と実践とを如実に追求する。
[平安|鎌倉][宗教者]
川口久雄 著
王朝国家有数の碩学匡房は、最も漢詩に長じ和歌・朝儀にも通じた学者兼政治家ながら、その多面的な活動にもかかわらず評伝が多くない。本書は続々新出した彼の漢詩・願文・説話集などの古写本を巧みにとり入れるとともに、鴻需ながら仏・道の呪術に通じ、説話に深い関心を示した人間像に光をあて、歴史の中にいきいきと叙述した好伝記である。
[平安][学者|文化人|官人]
多賀宗隼 著
平氏から源氏へ、そして北条氏へとめまぐるしい転変を続ける平安末~鎌倉初頭の動乱期に、四たび天台座主となって仏教界・思想界に君臨し、新古今歌壇の雄として六千首の歌什を残す。摂籙九条家の出で深く政治をも解し、名著『愚管抄』により史家としてまた不朽の名を伝える。本書は慈円研究の権威によるそのすぐれた伝記。
[平安|鎌倉][宗教者|文化人]