永島福太郎 著
一条兼良は東山時代の公卿学者、東山文化のリーダーであった。東山時代は近世社会の黎明期であり、わが国の伝統文化が大いに発展したときでもある。兼良の『源氏物語』その他の古典研究はその明星であり、和学の祖と仰がれるゆえんである。本書は兼良の人と、その時代を丹念にえぐり、東山文化の本質にふれる野心作である。
[室町][官人|学者]
杉本勲 著
化政期から明治中期までの一世紀を、わが国在来の実証的学問の集大成と、その近代化への橋渡しに終始挺身して止まなかった日本植物学の始祖、伊藤圭介の生涯こそは、まさに烈々たる科学的精神を内にたたえつつ、平和に生きぬいた知識人の典型にほかならない。この忠実な人間像によって、今日の文化人の生き方にも必ずや大きな示唆を与えよう。
[江戸|明治][医師|学者]
井上忠 著
元禄前後の実証的学風にたち「民生日用の学」を唱えた益軒の著述は、『養生訓』その他今なお多くの読者をもっている。しかし益軒は西南の雄藩筑前の文治政策の推進者として活躍めざましく、また上方・江戸の刺戟を得て自然科学・儒学の研究を大成した。著者十余年の研鑽と収集とによる豊富な史料に裏付けられた益軒伝の全貌。
[江戸][学者|教育家]
川口久雄 著
王朝国家有数の碩学匡房は、最も漢詩に長じ和歌・朝儀にも通じた学者兼政治家ながら、その多面的な活動にもかかわらず評伝が多くない。本書は続々新出した彼の漢詩・願文・説話集などの古写本を巧みにとり入れるとともに、鴻需ながら仏・道の呪術に通じ、説話に深い関心を示した人間像に光をあて、歴史の中にいきいきと叙述した好伝記である。
[平安][学者|文化人|官人]
鮎沢信太郎 著
伯父市河寛斎から「才助こと、扱いに困り候男にござ候」といわれた土浦出身の蘭学者山村才助は、気むずかしくて、ついに妻に逃げられ、しかもなお学問に精進した奇才の人。外圧を漸く感じる江戸時代の後期に、西洋の新知識を導入して、鎖国下世界地理学に先鞭をつけた特異な存在。赤裸々な人間像と近代科学の一恩人の業績。
[江戸][学者]
有馬成甫 著
海防の急を悟って専心西洋砲術を修め、四面攘夷論のうずまく最中に率先洋式兵制の採用と開国の必然を唱道した先覚者。奸吏の中傷により禁獄の厄に遭ったが、その再度の上書は幕府要路の方針を鎖攘より開国に転換せしめる上にあずかって力があった。かつて知られることの少ない一先覚者の埋もれた業績と人物とを綿密に紹介。
[江戸][学者]
田口正治 著
三浦梅園は豊後の僻村にあって生涯仕えず思索を重ね、「条理学」という近世日本における独創的な思想体系を完成した哲学者である。著者は梅園手沢稿本の中に沈潜しつつ、『玄語』以下の幽玄なる条理をたずねて畢生の努力を傾けるとともに、偉大な思想家の生涯を見事に叙述した。深奥な梅園哲学を解明する読書人必読の好著。
[江戸][学者]
山本四郎 著
わが国で最初に人体を解剖したのは山脇東洋であり、その学風を受けついで蘭学を京都にひろめ、解剖の技倆において匹敵するものとなしといわれたのが小石元俊であった。小石家に伝わる厖大な史料を精査し、元俊の開業医としての姿と、蘭学者間の文化交流の実体を見事に描出して、蘭学草創期における知られざる人物の発掘を行なった好伝記。
[江戸][医師|学者]
久松潜一 著
近世国学の先蹤をなす契沖の生涯と、その学問・和歌とを全体として扱ったもので、著者多年の研究成果の精髄ともいうべき好著。契沖自身の誠実な人間としての生き方を追求するとともに、その学問の歴史的意義や高く評価される次代への影響の解明に力点をおき、さらに彼を取巻く人間関係や社会的背景をも描いてあますところがない。
[江戸][宗教者|学者]
斎藤忠 著
木内石亭の名は、一般にはほとんど知られていない。“石の長者”と呼ばれ奇石の蒐集家であったその生涯を、この一事に傾け尽した彼は、決して偏ったマニアではなく、厳密な研究態度は近代考古学に生きて伝えられたのである。本書は石亭の人柄と業績とを広く採訪された資料により、見事に構成された江戸中期一異才の伝である。
[江戸][学者]
所功 著
有名な『意見十二箇条』の封事は着眼が鋭く論旨きわめて明快であって、“延喜聖代”の政治上の欠陥を具体的に剔抉して余すところがない。文人官僚として激しい学閥争いのなかで巧みに身を処し、“阿衡事件”にも“道真左遷”にも、基経や時平の権勢に迎合して一翼を担った有能なブレーン。その生涯を時代背景の上に描いた興味深い伝記。
[平安][学者|官人]
石田一良 著
本阿弥光悦・尾形光琳・里村紹巴・角倉了以など、当代一流の人士を姻戚に持った家に生まれ、諸侯の招きを固辞して専ら学問に傾倒した一代の碩学。当時朝野をなびかせた朱子学や陽明学を排し、自ら古学を唱え、門弟三千を数えた。儒者としての優れた生涯と、その学統の影響するところを述べ、難解な理論を平易に語る好伝記。
[江戸][学者|思想家]
石原道博 著
「文武全才第一」とその才能をうたわれる傑物。明末亡国の危機に際会して東奔西走、終に日本に亡命して、徳川光圀に招かれ、わが文教、殊に水戸学に偉大な感化を与えた波瀾万丈の生涯。剛毅にして博学、とくに経世済民、実用・実学を重んじ、清初五大師のひとりにかぞえられる。日中両国の史料を発掘駆使した完璧な朱舜水伝。
[江戸][学者]
坂本太郎 著
学問の神「天神様」に対する信仰は、伊勢や八幡信仰などとともに脈々と日本人の心に波打っている。しかしながら、天神様が菅原道真であることや、道真その人については、どれだけ知られているであろうか。本書は、のちのいわゆる天神伝説を取除き、真実の道真像を丹念に叙述した史学界の碩学による道真伝の定本をなす名著である。
[平安][学者|政治家|官人]
帆足図南次 著
近代日本の黎明期にあたり、合理主義思想の花を開かせ、政治思想を初め、独創的な儒学・国学の鑑識、漢蘭折衷の医学など、多方面に先駆的な業績をあげた万里。本書は秘蔵の文書を駆使して大樹のごとき彼の全貌を描くとともに、三浦梅園―帆足万里―福沢諭吉とつながる合理主義思想の史的発展を見事にとらえた意義深い好著。
[江戸][学者]
堀勇雄 著
林羅山は本名信勝、薙髪して道春と称した。江戸幕府文教の中枢ともいうべき林家の始祖として著名であり、日本史上稀有の博学者ながら、典型的な御用学者ともいわれる。「立身出世のために学者的良心を捨てて曲学阿世の道を選んだ」とされるその哀歓の生涯を、著者は豊富な史料によって詳説した。儒学の本質にも迫る好著。
[江戸][学者]
横川末吉 著
土佐藩政確立期における名宰相野中兼山は、単にすぐれた政治家というだけでなく、儒学者であり、経世家でもあった。徹底した藩体制確立のために、反兼山派の抬頭をみ失脚の悲運に遭遇するが、近世末の土佐藩の活躍は彼に発端するといっても過言ではない。本書は経済史的な観点を踏まえ、未公開の史料を駆使して、土佐藩政史の中に兼山を浮彫りにした好著。
[江戸][政治家|学者]
宮崎道生 著
新井白石は詩人として名声は琉球・朝鮮・清朝にまで及び、学は和漢洋を兼ね、人文・社会・自然の諸科学にわたる碩学であった。「正徳の治」を企画して幕政のレヴェルを上げ、オランダには「将軍の師」と伝えられた。明治以後は第一級の日本人と評価され、学界では「近代科学の父」とされてもいる。白石研究の第一人者が心魂をこめて綴った伝記。
[江戸][学者|政治家|文化人]
梅谷文夫 著
書誌学・金石学の基礎を築き、考証学を大成し、儒学・国学が科学としての古典研究に脱皮する素地を醸成した江戸時代後期の町人学者。本屋の子に生まれ、豪商として聞こえた米問屋津軽屋の婿養子に迎えられ、弘前藩の御蔵元を勤める一方、和漢の古典籍の蒐集とその研究に努めて、「和名類聚抄箋注」など、数々の傑出した業績をのこす。
[江戸][学者]
原田朗 著
幕臣として軍艦頭取を勤め、幕府瓦解後榎本武揚とともに軍艦を率いて函館に奔り、五稜郭に奮戦したが、陥落投降、赦されて開拓使に出仕し、北海道の測量、農学校の設立、女子教育の促進に尽力した。また内務省地理局に転じ、メートル法の導入、経度の決定、日食観測を行い、初代中央気象台長となるなど、近代日本の自然科学の基礎を築いた科学者の業績と生涯を描く。
[江戸|明治][官吏・官僚|学者]