海に面している陸地の部分。海水準は潮汐(ちょうせき)の干満とともに変動し、波浪の高低などの変化もあるので、海の波の影響を受ける沿岸の部分は、平均海面の上下の若干で幅をもっている。そこで、最低低潮線から最高高潮線より若干上までの範囲の帯状地を海岸としている。海岸の陸側の範囲は、砂浜海岸の場合、暴風波の到達限界の浜堤(ひんてい)、岩石海岸の場合は海食崖(がい)の上限までくらいである。
砂浜海岸の場合、満潮面よりすこし上の水準に通常の波の到達限界がみられる。ここから干潮面までの部分を海浜あるいは砂浜という。
海浜はやや勾配(こうばい)の大きい前浜(まえはま)と緩やかな勾配の後浜(あとはま)で構成される。干潮面下には、くだけ波によって侵食されたトラフtroughとよばれる凹地や、砂の堆積(たいせき)地形である海底砂州などがみられる。このような地形の分布する水深10メートル以浅の浅海底を外浜(そとはま)とよんでいる。
岩石海岸の場合、海浜に相当する部分は、波食棚の分布する帯状地である。また外浜に相当する地形は海食台である。
[豊島吉則]
海面と陸地との交線が海岸線であるが、潮位変化によって海岸線の位置は変化する。海岸線の変化の範囲は、海岸とよばれる帯状地内に限られる。潮差の大きい地方では、干潮時と満潮時の海岸線は著しく位置が異なる。日本の地形図においては、東京湾の中等潮位を標高0メートルとして、海岸線の位置を決めている。一般に島国は海岸線延長が大きく、日本は世界的にみても海岸線延長の大きい国である。その総延長は、詳細な地形図に基づいて計測した環境庁(現、環境省)の調査によると、1998年(平成10)時点で3万2817キロメートルという値が得られている。そして全海岸線の55.2%が自然海岸、13.6%が半自然海岸、人工海岸が30.4%に及んでいる。国土の面積に比べても海岸線が長く、また国民1人当りの海岸線は0.26メートルで、イギリスの0.08メートルの3倍以上となり、日本は海岸線大国ということができる。このような海岸環境は、日本の産業や文化に大きな貢献をしてきた。
なお、都道府県別の海岸線延長の1位は長崎県、もっとも小さいのは大阪府である。
[豊島吉則]
海岸は地盤運動や海面変化の影響を強く受けて、地形特性がつくりあげられる。
相対的に海面が上昇すると、海が陸地に侵入して入り組んだ沈水海岸線を形成する。逆に海面が下降すると、海底面が現れて平滑な離水海岸線が形成される。そのほか、海水準の相対的変化に無関係な中性海岸、上記3種類の海岸型が組み合わさった合成海岸が、海岸地形の分類の代表的なタイプとしてあげられる。
(1)沈水海岸 地盤の沈降あるいは海面のユースタチック変動eustatic movement(世界的に一様にみられる海面の昇降現象)による上昇が行われると、河谷に沿って海が入り込み、リアス式海岸や多島海が形成される。スペイン北西部のリヤ地方、日本の三陸海岸、瀬戸内海などは、この代表的地形である。
(2)離水海岸 地盤の隆起、海面の静的(ユースタチック)な下降によって形成された海岸で、旧海底面が陸化して海岸段丘や幅広い海岸平野が誕生する。アメリカ合衆国東海岸からフロリダ半島を経てメキシコ湾岸に至る海岸平野は、このタイプの代表的海岸である。
(3)中性海岸 海面の相対的変化を受けない海岸で、デルタ海岸(三角州海岸)、扇状地海岸、火山海岸、断層海岸、サンゴ礁海岸など各種のものがあげられる。デルタ海岸は、エジプトのナイル川河口の弧状海岸線やアメリカのミシシッピ川河口の鳥趾(ちょうし)状海岸、扇状地海岸は富山県の黒部川河口の円弧状海岸などが代表。火山海岸は伊豆諸島、断層海岸は福井県の若狭(わかさ)湾東岸、サンゴ礁海岸は琉球(りゅうきゅう)諸島や南太平洋の島々に豊富な実例がある。
(4)合成海岸 隆起、沈降や、海面の上昇、下降を繰り返し経てきている日本列島は、厳密にいえば、すべての海岸が合成海岸であるとさえいわれている。
他方、海岸を構成する物質に注目して、岩石海岸とか砂浜海岸などのタイプに分類することも可能である。
(1)岩石海岸 おもに第三紀層または、より古い堆積岩や火成岩や変成岩などの硬い岩石からなる海岸である。これはさらに(a)屈曲海岸と(b)直線状海岸に分類される。前者にはフィヨルド海岸(ノルウェー海岸が代表)、リアス式海岸、エスチュアリー海岸(イギリスのテムズ川河口)などがあり、後者には海食で平滑化された海岸(渥美(あつみ)半島南東岸)や断層海岸などがある。
(2)砂浜海岸 おもに新生代の更新世(洪積世)や完新世(沖積世)に堆積した未凝固の地層からなる海岸である。これはさらに、湾奥部や潮汐湿原の海岸に多い泥質海岸、ポケット浜、三日月浜などを形成する砂質海岸や礫質(れきしつ)海岸、および砂丘が広がる砂丘海岸などに細分される。
気候の影響も海岸の地形に反映する。両極地方では、氷河が海岸に絶壁をつくり、フィヨルドfiordとかストランドフラットstrand-flatとよばれる幅広い平磯(ひらいそ)の地形がみられる。また高緯度地方では、周氷河作用による緩傾斜の海食崖、氷河堆石地形もみられる。熱帯地方の海岸には、サンゴ礁やマングローブの繁茂する特有の景観が発達する。
[豊島吉則]
世界の海岸は、気候によってかなり異なった景観を示す。たとえば、南極やグリーンランドの海岸では、氷河の崖(がけ)が海に接している。また、紅海沿岸やサハラ砂漠に連なるアフリカ西海岸は、植生のない荒涼とした海岸である。そして、南太平洋の熱帯地方の海岸では、うっそうとしたジャングルが海岸にみられ、サンゴ礁の磯が続く。また、波の静かな所では、マングローブの茂みが海岸に沿って続いている。
このように海岸の地形や植生は、気候帯によってかなり異なるが、極地域、寒冷地域、熱帯・亜熱帯地域、温帯地域、砂漠地域に分けて、それぞれの特徴を述べると、次のとおりである。
(1)極地域の海岸 北極や南極付近の海岸は、氷河が海岸に到達し、氷の絶壁が連続する場合も多い。また、海面が氷結し、海岸の砂礫を押し上げて、土手のような一種の「浜堤」地形をつくることもある。氷河が崩れ、大氷塊が海に落ちるときにおこす大波によって、異常に高い水準まで砂礫が打ち上げられる現象(アイスサージ)も極地域海岸特有のものである。また、ツンドラ(永久凍土)の低平な海岸もみられる。泥質海岸では、巨大な氷楔(ひょうせつ)(アイスウェッジ)ができ、氷と風でつくられる楕円(だえん)形の湖が形成されたりする。
(2)寒冷地域の海岸 氷河が融(と)けたあとには、深いU字谷に海が侵入して、フィヨルド(峡湾)地形が形成される。フィヨルドは、氷河の侵食作用が海面下相当な深度まで及ぶため、水深は著しく深い。またU字谷上には懸谷(けんこく)がみられ、滝がかかっていることもある。またフィヨルドの奥にはカール(圏谷)がみられることもある。ノルウェーの海岸、チリの南部海岸、ニュージーランド南島の南西岸などには典型的なフィヨルドが発達する。
氷河の厚さが薄く、氷河の侵食作用の弱い丘陵性山地の地域では、U字谷の勾配が緩やかで、湾の水深もフィヨルドより浅い。このような地形を、スウェーデン南海岸などではフィアルデfjrdとよび、グレート・ブリテン島ではファースfirthとよんでいる。また丘陵や台地に刻まれたらっぱ状の入り江をエスチュアリーestuary(三角江)とよんでいる。イングランド南部やウェールズあるいはアメリカのニュー・イングランド海岸などに、このようなタイプの地形がみられる。これらの海岸の後背地には、氷河が運んできた砂礫が堆積していて、各種の堆石(モレーンmoraine)地形がみられる。アメリカのボストン付近のドラムリン海岸などはその一例である。寒冷地域の山地や丘陵地においては、氷河地形は鋭い稜(りょう)線や谷壁に特徴がある。しかし、その周辺部になると、雪や霜の作用によって、地形がなだらかになり、海食崖もやや緩い勾配となる。
(3)熱帯・亜熱帯地域の海岸 この地域の海岸にはサンゴ虫の生育が盛んで、サンゴ礁地形が発達する。カリブ海や南太平洋にはその事例が多い。火山島が沈降するとき、その裾(すそ)にサンゴ礁が密着して取り巻けば裾礁(きょしょう)となる。さらに沈降して、火山島とサンゴ礁の間に礁湖ができたものは堡礁(ほしょう)とよぶ。火山島が沈降して消失し、サンゴ礁が円形に礁湖を囲むものを環礁とよんでいる。
サンゴ石灰岩の発達する海岸では、海食崖に深い切れ込み(ノッチnotch)ができたり、溶食作用で石灰洞が発達し、海岸や海底に開口し奇観を呈することも多い。海岸の砂浜の下には、石灰分がしみ込んで砂を固めたビーチロックbeach rockがみられることも多い。海岸砂丘は石灰質砂岩の場合が多く、固化していて、その汀線(ていせん)部にもノッチが刻まれることもある。波の静かな泥質の海岸では、マングローブ林が発達し、内陸に上陸することを妨げているので、河川に沿ってのみ通行可能である。アメリカのフロリダ半島西岸にはマングローブ海岸が続き、エバーグレーズの湿地帯を囲んでいる。インドネシアやパプア・ニューギニアなどの島々にもマングローブ海岸が発達する。砂浜の砂は、石灰岩の破片やサンゴの破片あるいは有孔虫の破片が多いため白っぽい色調を帯びている。日本では、琉球諸島にサンゴ礁海岸やマングローブ海岸が発達する。
(4)温帯地域の海岸 極地方、寒冷地、熱帯、亜熱帯地方に特有の地形以外のすべての海岸地形が、温帯地域に発達している。また、温帯地方に特有の海岸地形はないので、ここで述べる地形は他の気候帯にも分布することが多い。
断層運動で地殻に落差を生じると、直線的な断層海岸が形成され、水深も大きい。台湾の東海岸はこの例である。また、火山が直接海と接すると、火山海岸とよばれる。日本列島にはこのような海岸地形の実例が多い。海の侵食作用で形成される海食崖や波食棚、海岸段丘なども普遍的にみられる。一方、侵食した砂礫を運搬、堆積した地形としては、砂嘴(さし)、分岐砂嘴、浜堤列、沿岸州、湾口砂州、湾央砂州、湾奥砂州、潮汐湿原、潟湖(せきこ)などの各種の地形がある。砂の供給の多い所では海岸砂丘も発達する。砂丘の砂は、サンゴ礁海岸に比べ、岩片の比率が大きく、黄灰色ないし白灰色である。
温帯地方の海岸は一般に植生に恵まれ、日本では黒松林、オーストラリアではユーカリ林が広く分布する。海食崖の勾配は、岩石の構造や硬軟にもよるが、一般的には寒冷地よりも急傾斜である。
河川によって刻まれた陸地が沈降すると、深い溺(おぼ)れ谷が形成され、リアス式海岸ともよばれている。オーストラリアのシドニーは、このような溺れ谷に沿って発達した美しい大都会である。シドニーに限らず、世界の大都会で良港を有するものは、温帯地域の溺れ谷に立地したものが多い。
(5)砂漠地域の海岸 雨量が極端に少ない砂漠地方では、植生もほとんどみられず、岩石が露出した岩石砂漠、あるいは砂丘のある砂(すな)砂漠、礫や岩片からなる礫(れき)砂漠の地形が、直接海に接して、他の気候地域とは異なった海岸景観を形成している。中近東のペルシア湾、紅海、アデン湾、地中海南岸、アフリカ北西岸、中米のカリフォルニア半島などの海岸は、このような海岸の広がる地域である。
[豊島吉則]
海岸は優れた景観美に恵まれており、日本では国や県の公園に指定されている所も多い。日本には「浦」「江」あるいは「潟」のつく海が数多くあり、また、宮城県の松島や瀬戸内海の宮島、若狭湾の天橋立(あまのはしだて)が日本三景とされてきたのは、古来、日本人が、内海のもつ穏やかなやさしい景観に接することを好んだからである。しかし、とくに第二次世界大戦後、観光が盛んになると北海道の知床(しれとこ)半島や東北地方の三陸海岸のような荒々しい海岸美も評価されるようになった。これらの優れた自然美を有する海岸線のうち、とくに内海型の場所は、近年、干拓や埋立てが進行して自然破壊が進みつつある。したがって、海岸の保全を図るための基礎調査や、優れた景観美を誇る海岸地方の一部の買い取り運動や公園化運動などが必要となってきている。
日本の海岸は、海水浴場、保養地、観光地としての適地が多く、とくに大都市付近には、千葉県浦安市のように大型のレクリエーション地域が形成されている。また、海岸は漁港や商港として利用されるほか、臨海工業地帯として大きく変貌(へんぼう)しつつある。他方、大都市から遠い過疎地の海岸には、原子力発電所が増えつつある。若狭湾はその代表例である。
海岸災害は、日本のように海岸地帯に人口が集中している国では、深刻かつ重要な問題である。なかでも海岸侵食や津波、高潮による沿岸の被害をみると、海岸線延長が大きい日本にとっては今後の課題といえよう。
[豊島吉則]