治療目的で医療機関を受診した患者について、受診時の健康状態を把握するために行われる検査の総称。多くの場合、診察前に行われる採血、すなわち血液検査が臨床検査の第一歩となる。これ以外では、健康診断で行われる検査の大部分が臨床検査に関係したものである。
臨床検査は、ときに「臨床衛生検査」や「医学検査」などとよばれることがある。また派生することばとして、自施設内に臨床検査部門をもたない医療機関から集められた血液等の検査を行う施設を「衛生検査所」とよんでいる。検査の実施には許認可が必要なので、正しくは「登録衛生検査所」であり、俗にいうコマーシャルラボのことである。
なお、医療法の改正に伴って、医療機関は2008年(平成20)から臨床検査を専門的に行う診療部門を「臨床検査科」として(診療科の一つとして)掲示(標榜(ひょうぼう))することが可能となった。
臨床検査は病気の有無や診断をおもな目的として行われるが、健康診断時には異常値を把握し、病気への移行を類推するためのデータ提供も行っている。一般的には「検体検査」と「生体検査」に大別される。なお、以下に述べる検査項目の表記は診療報酬請求業務で公的に受け入れられているものを使用している(現行の検体検査の分類については「臨床検査技師等に関する法律」(昭和33年法律第76号)に詳しく解説されている)。
〔a〕検体検査
検体検査に含まれる項目としては、尿・糞便(ふんべん)検査、血液学的検査(血液型を含む輸血検査)、血液・生化学的検査、免疫血清学的検査、微生物学的検査などがある。尿・糞便検査のうち、尿検査では尿タンパクや血尿の有無を取り扱い、腎臓(じんぞう)や膀胱(ぼうこう)を含む尿路に異常があれば、これらが陽性となることがある。糞便検査は消化管の異常をみつけるために行われる。便潜血が陽性ならば、消化器腫瘍(しゅよう)や潰瘍(かいよう)の存在が示唆される。また、受診時に採血された検体には血液・生化学的検査が行われ、きわめて多種の検査項目が調べられる。臨床検査といえばまさにこのことをさす。赤血球数、白血球数、血小板数、肝酵素、尿素窒素、クレアチニン、グルコース、中性脂肪、総コレステロールなどの値が含まれる。免疫血清学的検査では肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C反応性タンパク、甲状腺(せん)ホルモン、がんに伴って上昇する腫瘍マーカーなどがチェックされる。その他、微生物学的検査は痰(たん)や便内の細菌やカビを調べることにより、感染症の有無を調べるものである。
〔b〕生体検査
生体検査は「生理機能検査」とよばれることが多いが、呼吸機能検査、循環機能検査、超音波検査、脳波検査、筋電図および神経・筋伝達速度検査、耳鼻咽喉(いんこう)科学的検査、眼科学的検査などが行われている。
呼吸機能検査はスパイロメーターとよばれる検査機器を用いて肺活量を測定するもので、肺に器質的疾患が存在すれば低下を示す。また、近年話題となっている睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の検査も呼吸機能検査で取り扱われる。循環機能検査で代表的なのは心電図検査であるが、必要に応じて負荷心電図検査やホルター心電図検査(24時間の持続的心電図検査)など、より詳細な検査が行われる。超音波検査は患者に負担の少ない非観血的検査(痛みや出血を伴わない検査)の代表格で、目覚ましい進歩を示す超音波検査機器の登場により、心臓、腹部臓器、婦人科領域、乳腺外科領域、末梢(まっしょう)血管外科領域、皮膚組織や体表領域などで、さまざまな臓器の異常を明瞭(めいりょう)な画像で映し出すことが可能となっている。脳波検査ではけいれんの原因が何なのかを調べたり、意識障害の有無、あるいは脳腫瘍の有無を調べたりすることが可能である。筋電図および神経・筋伝達速度検査のうち、筋電図は筋肉疾患の有無を検査するもので、神経・筋伝達速度検査は、同速度の低下が糖尿病に伴う末梢神経障害によるものか、神経自体の病気によるものか、あるいは神経の炎症によるものかを判断するものである。耳鼻咽喉科学的検査は聴力検査に、眼科学的検査は視力検査に代表される。その他、内視鏡検査を臨床検査技師がサポートする医療機関もある。
臨床検査には精度管理が欠かせない。臨床検査では正しい検査結果を得るため、検体の採取方法や保存条件が適切であったか、決められた方法で検査が行われたかなど、さまざまな条件をクリアしなければならない。それらを守らなければ、陽性となるべき検体が陰性と判定されたり(偽陰性)、陰性の検体が誤って陽性と判定されたりする(偽陽性)。精度管理の重要性が叫ばれるゆえんである。
精度管理のためには、適切な基準を満たす検査施設、性能を保証された機器・試薬を使用し、専門職である臨床検査技師が検査を担わなければならない。同時に、患者から採取された検体はあらかじめ結果値が保証されているコントロール検体とともに分析することで、精度管理(検査感度と検査特異度の維持)が行われている。検査感度とはすなわち、有病者(疾患のある者)において、検査結果が陽性となる可能性(真の陽性率)であり、検査特異度とは、健常者(疾患のない者)において、検査結果が陰性となる可能性(真の陰性率)のことである。