一般に高度な技術を保有している個人や組織から、その技術を別の個人や組織に移転すること。大学その他の研究機関や企業、政府などから他の研究機関や企業、政府などへ技術が移転する場合がありうる。技術移転は一国の国内で行われることもあれば、国境を越えて行われることもある。移転される技術は、ハードの生産技術とソフトの経営技術(生産流通の体系、マーケティング・システム)など、さまざまである。技術移転の形態としては、(1)科学文献の提供や研究者・技術者の交流、(2)技術者の教育・訓練、(3)企業による特許の譲渡・ライセンシング、経営契約やコンサルティング契約を通じたノウハウの供与、(4)直接投資を通じた自社技術の伝播(でんぱ)、(5)政府間の技術協力などがあげられる。
技術移転は、生産性向上の有効な手段であるから、開発途上国の経済発展にとっても重要な戦略である。しかしながら、現在のところ、国際的な技術移転の大部分は先進国間のそれであって、先進国から開発途上国への技術移転はあまり成果をあげていない。その原因は、技術移転が一般的な技術に関する知識、さらには一定の教育水準や思考様式を前提としており、国際間で知識や教育の水準の隔たりが大きい場合、技術移転は十分な効果を発揮できないためである。また、開発途上国への技術移転は、現実には先進国多国籍企業の直接投資によって行われることが多いが、その場合、移転される技術が開発途上国の経済発展段階にふさわしいかどうかも大きな問題となる。開発途上国には資本に比して労働力が豊富に存在しているが、移転される技術が資本集約的なものであれば、雇用の創出効果や技術の習得効果は限られるからである。
しかし、先進国からの直接投資は、それが開発途上国の生産要素の存在状態や技術水準に適合した事業として運営されれば、適切な技術移転を通じて、経営者、技術者、労働者が経験と熟練を集積し、技術水準の向上に貢献することが期待できる。現に、とくに1980年代以降に経済発展を遂げた諸国のなかには、先進国からの直接投資を積極的に受け入れ、適正な技術移転を通じた技術水準の向上を達成した結果、経済発展を加速させることに成功した国として、ベトナムやタイなどがあげられる。自国の技術水準に対する正確な現状認識を踏まえて、直接投資を通じた適正な技術移転の推進を実現する投資受入れ政策を立案し実行することが、開発途上国の政府に求められる。