ガット(GATT=関税と貿易に関する一般協定)による多角的通商交渉「ウルグアイ・ラウンド」(1986~1993年)の最終合意文書「マラケシュ協定」によって設立が決定され、ガットを発展的に解消する形で1995年1月1日に発足した国際機関。略称WTO。本部をスイスのジュネーブに置く。2021年末現在の加盟国・地域は164、このほかに24の国が加盟申請中である。多角的で無差別な自由貿易を推進し、各国の経済発展に資するというガットの精神を受け継ぐが、産品の貿易自由化だけでなく、サービス貿易の自由化、貿易関連の知的財産権の保護もカバーするようになった。また、加盟国・地域の間の貿易紛争を処理する手続では、第一審にあたるパネル手続に加えて上訴審にあたる上級委員会手続を設け、手続の各段階をネガティブ・コンセンサス(全加盟国が異議を唱えない限り採択)により実質的に自動化することで、手続を強化した。最高意思決定機関は、少なくとも2年に一度開催される閣僚会議である。閉会中は定期的に開催される一般理事会がその職務を遂行する。このほかに、紛争処理制度を運営する紛争解決機関、加盟国の貿易政策の定期的な審査と国際貿易の定期的な監視(貿易政策検討制度)を実施する貿易政策検討機関が設けられている。
2001年以来、多角的通商交渉「ドーハ開発アジェンダ(ドーハ・ラウンド)」を推進しているが、利害関係を異にする加盟国・地域が増加したことから、コンセンサス(全会一致)方式をとる交渉は難航している。交渉は当初、すべての交渉項目について一括受諾を目ざしていたが、2011年末以来、合意に達した交渉項目を先行して成立させる方式(アーリーハーベスト)を採用し、これにより2014年には貿易円滑化協定が成立した(2017年2月発効)。しかし、それ以外の交渉項目については目だった進展が得られていない。主要な交渉項目(先進国の農産物市場の開放、開発途上国の工業製品の関税引下げ)に関して先進国と開発途上国の立場が対立していることが、その背景にある。この結果、先進国はドーハ開発アジェンダを終了させ、今日的な課題を扱う新たな交渉の開始を求めているが、開発途上国はこれに反対しており、事態は膠着(こうちゃく)状況に陥っている。この状況を打開するため、2017年末の第11回閣僚会議で、加盟国の有志が開発のための投資円滑化、電子商取引、サービスの国内規制の3分野でルール策定に向けた交渉を開始することが決まった。このうちサービスの国内規制については2021年末に交渉が妥結し、サービスの国内規制の透明性向上に向けた規律を盛り込んだ参照文書(Reference Paper)が採択された。
世界貿易機関の紛争処理手続は活発に利用され、紛争の付託件数は2021年末現在で600件を超えた。しかし、上級委員会が本来の権限を超えて活動しているとの批判を強めたアメリカが上級委員会委員の任命に拒否権を行使したため、2019年末以来、上級委員会はその機能を停止している。紛争処理手続の再活性化を図るため、加盟国の間で上級委員会の権限の再検討が話し合われている。