麻薬、賄賂(わいろ)、脱税にかかわるマネー・ロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与対策における国際協調を推進するために設置された政府間会合。参加国が遵守すべき対策の国際基準を策定している。略称FATF(ファトフ)。1989年にフランスで開催されたアルシュ・サミット経済宣言を受けて設けられた。パリに本部のある経済協力開発機構(OECD)内に事務局を置き、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、中国、ロシア、インド、ブラジルなど主要国を中心に、2021年時点で世界の37か国・地域と2国際機関(ヨーロッパ委員会、湾岸協力理事会)が加盟。加盟各国・地域を対象に法整備などを相互審査しており、2021年11月時点で118か国・地域について審査が終了している。審査の結果、整備の進んだ通常フォローアップ国(イギリス、スペインなど)、定期的な改善報告を求める重点フォローアップ国(日本、アメリカ、カナダ、韓国、中国など)、対策が不十分で勧告後1年以内に顕著な改善が求められる観察対象国(アイスランド、トルコ、南アフリカ)の三つに分類して対策づくりを促している。なお、フランス、ドイツなど審査未了の国々も観察対象国に分類されている。また、対策への「非協力国・地域」を指定するブラックリストや、集中監視の対象となる国・地域を示したグレーリストが出されている。北朝鮮、イランがブラックリスト入りしているが、対抗措置は一時停止中である。また、アジア太平洋マネー・ロンダリング対策グループ(APG)など9地域機関を通じ、世界205か国・地域に国内法整備などを勧告している。
犯罪にかかわる資金洗浄を防ぐための国際協力が当初の目的で、1990年に資金洗浄防止のため各国がとるべき法制・金融制度基準として本人確認や疑わしい取引の報告など「40の勧告The Forty Recommendations on Money Laundering」を提言した。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件後は、テロ資金への対策にも取り組み、テロ資金供与に関する「9の特別勧告Nine Special Recommendations on Terrorist Financing」を策定した。2012年には「40の勧告」と「9の特別勧告」を統合し、大量破壊兵器の拡散に関与する者への金融制裁などを盛り込んだFATF勧告を策定。2015年には、仮想通貨(当時。現在は「暗号資産」)が資金洗浄に使われるリスクがあると報告している。
日本は、FATF勧告などに基づき、1991年(平成3)に麻薬特例法、1999年に組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法を制定。2007年(平成19)には金融機関等本人確認法施行令を改正し、本人確認ができないATMの現金振込額について1回当り10万円以下に制限した。2008年には不動産事業者、宝石商、クレジットカード事業者や、司法書士、公認会計士、弁護士など法律専門家にも本人確認を厳格に求める犯罪収益移転防止法を完全施行した(これに伴い金融機関等本人確認法は廃止)。しかしFATFは2021年(令和3)、日本を重点フォローアップ国と位置づけ、地域金融機関の顧客管理や当局の取締りが不十分との審査結果を発表。日本の金融機関口座を悪用した資金洗浄は後を絶たず、日本はマネー・ロンダリング天国とよばれている。なお、FATF勧告は国際条約ではないため法的拘束力はないものの、遵守しなければ、欧米金融当局から海外での事業停止・外国通貨決済停止などの処分を受けるおそれがある。