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日本大百科全書(ニッポニカ)

リンカーン

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リンカーン
りんかーん
Abraham Lincoln
(1809―1865)

アメリカ合衆国第16代大統領(在任1861~1865)。開拓農民だった父トーマスと母ナンシーの第2子(第1子は長女セラ)として、2月12日にケンタッキー州のホッジェンビル付近の丸太小屋で生まれた。独立戦争が終わったころバージニア州から辺境のこの地方に移住してきた祖父(トーマスの父)の名前をとって、エイブラハム(アブラハム)と名づけられた。

[本田創造]

川舟乗りから政治家へ

その後、一家は当時の西方への開拓の波にのり、ケンタッキー州からインディアナ州へ、さらにイリノイ州へと移住した。リンカーンが幼年期を奴隷州で、青少年期以後を北西部の自由州で過ごしたことは、後年の彼の政治経歴に重要な影響を与えている。辺境での生活のため、彼は正規の学校教育をほとんど受けることなく自学自習した。川舟乗り、雑貨商、郵便局長、測量技師などの職を転々としたのち、1834年にイリノイ州の下院議員に選出され、1842年まで連続4期、州の政治に関与した。また、この間に法律を修得し、1837年に友人と共同してスプリングフィールドで弁護士業を始めた。1842年にメアリー・トッドと結婚、1846年にはホイッグ党から選出されて合衆国下院議員を一期務めた。

 リンカーンはその後しばらく政治から遠ざかるが、1850年代に入って南北間の政治的緊張がいっそう激化し、1854年にイリノイ州選出の民主党上院議員のスティーブン・A・ダグラスがミズーリ協定の原則に違反するカンザス・ネブラスカ法案を国会に上程すると、これに反対して政界に復帰した。1858年の中間選挙では、奴隷制拡張反対を党是とした結成後まもない共和党から上院議員に立候補して民主党のダグラスと国会での議席を争った。このとき、8月から10月にかけてイリノイ州の7都市で行われた一連の立会演説会で奴隷制問題を主軸にした論戦が展開されたが、これは「リンカーン‐ダグラス論争」として有名である。リンカーンは当選こそ逸したが、この論争によって彼の政治的資質は全国的に知れわたり、敗北したこの選挙が2年後の大統領選挙で彼に勝利をもたらす地ならしとなった。

[本田創造]

南北戦争

1860年11月、リンカーンの大統領当選が南部諸州の連邦分離の合図になったように、翌年4月、南部連合軍によるサムター要塞(ようさい)の攻撃が南北戦争の発火点となった。これに対し、リンカーンはただちに7万5000人の志願兵の募集や南部の海上封鎖を命じたものの、この戦争の目的はあくまでも連邦の統一を護持するための「防衛戦争」と受け止めていた。彼は奴隷制拡張には反対だったが、現存する奴隷制度に干渉するつもりはなかった。リンカーンが奴隷解放のことを真剣に考えるようになるのは、戦争が長期化し、奴隷解放を求める北部の世論が高まり、国際的にも連邦の大義を表明しなければ北部の軍事的勝利もむずかしいと悟った1862年の夏近くになってからのことである。なによりも、南部連合に加担しなかった境界奴隷諸州への政治的配慮もあって、奴隷解放はその年の9月にまず予備宣言として発せられ、3か月余の猶予期間ののち、翌年の1863年1月1日に奴隷解放宣言として公布された。この宣言は反乱諸州を対象にしたもので、連邦に忠誠だった奴隷州やすでに北軍の占領下にあった地域の奴隷には適用されないという限界をもっていたが、それにもかかわらず奴隷解放宣言の歴史的意義は大きかった。これを機に、以後、南北戦争は奴隷解放の革命戦争として展開されることになる。同年の11月、リンカーンはゲティスバーグで、「人民の、人民による、人民のための」政治の保持を訴えて国民の戦意を高揚し、1864年の大統領選挙で再選をかちとった。

[本田創造]

再建の課題を残して

リンカーンの戦後再建計画は反乱諸州に対してきわめて寛大で和解的なものだったが、彼は自分の再建計画の実現をみる前に、1865年4月14日の夜、ワシントンのフォード劇場で観劇中に、狂信的な南部の同調者だった俳優J・W・ブースに狙撃(そげき)され、翌朝、56歳の生涯を閉じた。南北戦争終結の5日後のことである。

[本田創造]

©SHOGAKUKAN Inc.

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