病気などが原因で出産後に乳汁分泌に支障のある母親や、早産であったため母乳の準備が整わない母親を対象に、第三者から提供を受けた母乳を供給することを目的に設立された団体、またはその仕組みそのもののこと。提供された母乳はドナーミルク(ドナーは「提供者」の意味)とよぶ。欧米では以前からドナーミルクが活用されていたが、日本では2013年(平成25)に昭和大学病院で試験的に活用が始められ、その後、2017年に日本母乳バンク協会が、2021年(令和3)には日本財団母乳バンクが設立され、ドナーミルクの提供体制が稼働し始めた。
不妊治療の結果として多胎となったり、高齢出産の増加などで、未熟児や低体重で生まれる新生児は増える傾向にある。未熟児や低出生体重児は腸などの身体の機能が未発達であることに加えて免疫力も弱く、さまざまな合併症や重篤な疾患にかかるリスクも高い。母乳は栄養分が豊富で成長を促進させるうえに、合併症や疾患にかかるリスクを軽減させることができるとされる。また、免疫治療を受けて感染の危険が高くなっている乳児や、人工乳を受けつけないミルク(牛乳)アレルギー児にも与えることができる。こうしたメリットから、ドナーミルクの利活用が推進されてきた。
ドナーを希望する者は、母乳バンクが指定する検診施設にて、母乳に感染リスクや喫煙、飲酒などの影響のないことを確認し、血液検査を行ったうえで、問題がなければドナー登録を行う。ドナーは授乳とのバランスをとりながら、余剰分を搾乳、冷凍して、母乳バンクに送付する。母乳バンクは、ドナーから届いた母乳を厳重に管理し、低温殺菌したうえでふたたび凍結し、ドナーミルクを必要とする医療施設に配送する。
現在は限られた地域でしかドナー登録を行うことができないため、ドナー登録ができる検診施設およびドナーの拡充が課題となっている。