選挙区ごとに議員一人当りの有権者数が異なることから、一票の重みに不平等が生じる現象。議員一人当りの有権者数が多い選挙区ほど一票の価値は低くなる。総人口の減少や都市部への人口集中にあわせて、各選挙区の区割りや議員定数の是正が必要であるが、日本ではしばしば是正されずに選挙が行われ、一票の格差が広がってきた。このため国政選挙のたびに、全国で法のもとの平等を主張する弁護士グループなどが選挙無効を求める訴えを起こしている。
最高裁判所の判例によると、一票の格差が憲法違反となるかどうかは、(1)格差が著しく不平等ならば「違憲状態」、(2)その違憲状態が合理的な是正期間を過ぎたと認められれば「違憲」、という順序で判断するとしている。違憲と判断された場合、選挙結果が有効かどうかも審理し、選挙をやり直してでも不平等を是正すべきと判断されれば、選挙無効の判決が出る。2021年(令和3)10月の衆議院議員選挙で一票の格差は最大2.08倍、2022年7月の参議院議員選挙の格差は最大3.03倍。参議院選での格差がより深刻なのは、参議院は3年ごとの半数改選が憲法で定められており、原則、選挙区単位である各都道府県ごと(例外として人口の少ない県をあわせる合区制度がある)に2以上の偶数定数を置く必要があり、区割りの柔軟性が低いためである。
第二次世界大戦後、一票の格差は参議院選で最大6.586倍(1992年の選挙)に、衆議院選では最大4.987倍(1972年の選挙)に広がった。選挙無効を求める最初の訴訟は1962年(昭和37)に起き、1972年12月の衆議院選に対しては違憲とする最初の最高裁判決(1976年4月)が出た。しかし、最高裁は選挙結果については有効とした。2013年(平成25)3月には、広島高等裁判所が2012年12月の衆議院選について、第二次世界大戦後初めて選挙無効判決を出したが、最高裁は選挙自体は有効としたことから、これまでに選挙がやり直された例はない。
司法の「違憲」「違憲状態」判決が相次いだため、国会は公職選挙法をたびたび改正し、参議院選については、人口の少ない複数の県を単一選挙区とする合区制度を導入。2016年の参議院選から島根・鳥取選挙区と徳島・高知選挙区に適用した。衆議院選については、国勢調査の人口に基づいて都道府県の小選挙区数を増減するアダムズ方式を導入した。2022年(令和4)11月以降に行われる衆議院選からは、人口の少ない10県の小選挙区数を10減らし、人口の多い5都県の小選挙区数を10増やす「10増10減」が適用される。なお、海外では、アメリカ下院は選挙区の区割りを不断に見直し、最大格差が2倍を超えないようにしている。イギリスは5年ごとに区割りの見直しが行われている。