国際連合(国連)の砂漠化対処条約(正式名称「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国〈特にアフリカの国〉において砂漠化に対処するための国際連合条約」、UNCCD)によると、「乾燥地域、半乾燥地域および乾燥半湿潤地域における気候変動および人間の活動を含むさまざまな要因に起因する土地の劣化」と定義される。
ここでいう「土地」とは、土壌、植生、水などを含む生物生産システムをさす。「土地の劣化」とは、①風または水による土壌侵食、②土壌の物理的、化学的、生物学的または経済的特性の悪化、③自然植生の長期間にわたる消失である(以下、プロセス①、②、③と記す)。実際の砂漠化は、砂漠の拡大という砂漠縁辺に限った現象ではなく、砂漠から離れた場所でも、人間の活動により局所的にも生じることから、条約では、「砂漠化」に加えて「土地の劣化」という包括的な用語が併記されている。
砂漠化対処条約には、砂漠化の要因として、気候的要因と人為的要因があげられている(図 砂漠化の構図)。気候的要因とは、干魃(かんばつ)を引き起こす大気循環の変動などである(図 サヘル地域西部における降水量の変動)。人為的要因とは、過耕作、過放牧、樹木の過剰採取など生態系の許容範囲を超えた人間の活動で、その背景には貧困、人口増加といった社会経済的な要因がある。
1992年開催の環境と開発に関する国連会議(UNCED、地球サミット)で採択された「アジェンダ21」がきっかけとなり、砂漠化対処条約が1994年6月に採択、1996年12月に発効となった。砂漠化に対する国際的な取り組みが始まったのは、1968~1973年にサハラ砂漠南縁のサヘル地域を襲った干魃を契機としている(図 サヘル地域西部における降水量の変動)。そしてふたたび、1980年代前半にもサヘル地域で20世紀最悪の干魃が発生し、砂漠化と食糧危機の問題を引き起こした。こうしたサヘル地域の干魃により、砂漠化に対する取り組みの必要性が共有され、砂漠化対処条約の発効に至った。
このような動きにもかかわらず、国連のミレニアム開発目標(MDGs)に対する取り組みの目標年である2015年時点で、その達成状況はサハラ以南のアフリカでは芳しくなかった。その後の新たな目標として策定された持続可能な開発目標(SDGs)のなかで、砂漠化・土地の劣化・干魃に関連する取り組みとして、2030年までに「土地の劣化の中立性」を達成することがあげられた。これは「土地回復面積から土地劣化面積を差し引いた面積が全世界でプラスとなるようにする」という取り組みであり、生産力のある土地をわれわれの子孫に引き渡すことを目的としている。
地球温暖化は産業革命以降の環境問題であるのに対し、砂漠化は人類史の始まりから存在し、人間の活動の強化・拡大とともに進行してきた。いわば、人類史上最古の環境問題の一つである。
温暖化は地球表層環境の中でも大気圏に生じ、砂漠化は地圏に生ずる現象である。温室効果ガスが放出されるのが地球上のいかなる地域であっても、それは大気の流れによって世界中に広がり、影響を及ぼす可能性がある。このように、温暖化は地球全体の問題であるのに対して、砂漠化については基本的に乾燥地域や半乾燥地域、乾燥半湿潤地域のような、脆弱な生態系の地域に限定された問題であるのが特徴である。
ただし、今日における砂漠化が影響を及ぼす地域の広がり・面積を考慮すると、もはや砂漠化は地球規模の問題ともいえる。一方で、砂漠化の要因・プロセス・影響は、地域の自然・社会・経済条件によって多種多様であり、その影響の評価や対策も地域ごとに考えられるべきものである。たとえば、前述の風または水による土壌侵食(プロセス①)に関して、乾燥地でも年間降水量が約500ミリメートル以下の地域は風による土壌侵食、それ以上の降水量がある地域は水による土壌侵食がおもな砂漠化プロセスであり、その対策もそれぞれの地域で異なる。
植生劣化については、過耕作、過放牧、樹木の過剰採取が要因となっている(図 砂漠化の構図)。乾燥地では、短い雨季の雨水に頼った天水農業が広く行われている。天水農業において、一度、農作物を収穫すると、地力を回復させるため、数年間休耕することが伝統的に行われてきた。休耕することによって、土壌の肥沃度(ひよくど)を回復させるのである。しかし、人口増加などにより農作物の増産が必要になると、毎年繰り返し耕作するようになり、その結果、土地をやせさせ(プロセス②の生物学的特性の悪化)、最終的には植生の減少・消失をもたらす(プロセス③)。これを過耕作という。
もともと、乾燥地の植物生産力は、少ない降水量の制約を受けて小さい。そのうえ、自然に生える草の量で養える家畜の数には上限があるため、これを超える数の家畜を飼うと、植生が減少する。これを過放牧という。また、燃料材・建築材・家畜を囲い込むための垣根などに使われる樹木の過剰採取も、同様の結果を招く。
国連環境計画(UNEP(ユネップ))は、寒冷地域を除いた地域の乾燥の程度を、「乾燥度指数」によって4段階に分けて示している(図 世界の乾燥地の分布)。乾燥度指数とは、年間の降水量を可能蒸発散量(水が十分に供給された場合の蒸発散量)で割った値である。乾燥度指数が小さいほど乾燥の程度が高い。2005年のミレニアム生態系評価(国連の呼びかけで実施された、生態系に関する大規模な総合的評価)によると、乾燥度指数が0.65未満と定義される乾燥地の割合は、全陸地面積の41.3%である(砂漠化対処条約では、乾燥度指数が0.05未満の極乾燥地域を乾燥地に含めないことに注意)。このうち、極乾燥地域と乾燥地域が一般的にいう砂漠であり、全陸地面積の17.2%を占める。このなかでも極乾燥地域は、もともと砂漠であるため砂漠化の被害をこうむることはない。砂漠化が進行しているのは、乾燥地のなかでも極乾燥地域周辺に位置し、やや湿潤で植生がわずかにある地域である。
国連環境計画は、土壌劣化という視点からみた砂漠化地図といえる図も作成している(図 乾燥地における土壌劣化の分布)。世界的にみると、土壌劣化地域の面積は約10億ヘクタール(地球の全陸地の約7%)で、その約90%が軽度か中程度であるが、アフリカにおいてはほかの大陸と比べて、強度もしくは極強度の土壌劣化の割合が大きい。とくに、サハラ砂漠から中近東の砂漠周辺域で土壌劣化が著しい。
これまで世界の砂漠化の評価については、国連環境計画によって、1977年、1984年、1991年の3回、報告されている。上で述べた土壌劣化の世界地図は、専門家による世界の個別地域における評価に基づいている。これは地域が狭い場合には有効であるが、広域を対象とした統一的な評価には適さない。
そこで2005年のミレニアム生態系評価では、専門家の意見に加えて、衛星によるリモート・センシング(遠隔探査)のデータとセンサスをもとに、1981~2000年の土地被覆の変化が評価された。これにより、砂漠化(土壌劣化と植生劣化を含む)している土地の面積は、乾燥地(極乾燥地域を含む)の10~20%、全陸地の4.1~8.3%と再評価され、土壌劣化の評価によるもの(全陸地の7%)と同程度となった。ただし、これまで繰り返し引用されてきた1991年の国連環境計画による砂漠化(土壌劣化と植生劣化を含む)の評価(全陸地の25%)よりは、評価方法が異なるために過小評価となった。