妊娠20週以降~産後12週までの期間に高血圧がみられる場合、または高血圧にタンパク尿を伴う場合のいずれかをさし、かつ、これらの症状が単なる偶発合併症によるもの(血圧を上昇させる明らかな別の要因がある)でないもの。略称PIH。高血圧のみの場合は「妊娠高血圧症」、高血圧とタンパク尿を認める場合は「妊娠高血圧腎(じん)症」に分類される。
「妊娠高血圧症」は、収縮期血圧が140mmHg以上(重症では160mmHg以上)、または拡張期血圧が90mmHg以上(重症では110mmHg以上)である場合、「妊娠高血圧腎症」は、高血圧に加え、原則として24時間尿(24時間のうちに排泄(はいせつ)された全尿)を用いた定量法で、1日当り300ミリグラム以上(重症では2グラム以上)の尿タンパクが確認される場合をさす。
かつては、妊娠中期以後の妊婦に高血圧、タンパク尿、浮腫(ふしゅ)(むくみ)のいずれか一つないしは二つ以上が現れた状態を「妊娠中毒症」と呼称していたが、母児の健康にはとりわけ高血圧の管理が重要であることから、2005年(平成17)、日本産科婦人科学会により現名称に改められた。
妊娠高血圧症候群の原因は現在も十分に明らかにされていないが、妊娠32週以降に発症することが多く、32週未満で発症した場合には重症化しやすい。重症例では母体の血圧上昇、タンパク尿に加え、子癇(しかん)(けいれん発作)、脳出血、肝・腎機能障害、HELLP(ヘルプ)症候群(肝機能障害に溶血・血小板減少を伴う)などを呈する場合がある。また、胎児側への影響として、常位胎盤早期剥離(はくり)、胎児発育不全、胎児機能不全など、母児ともに生命にかかわる状況となることがある。
安静または入院による全身管理が治療の中心となり、根本的な治療法は確立されていないが、通常は妊娠の終結(出産)とともに症状が急速に改善する。重症例では出産後も高血圧やタンパク尿が継続してみられることがある。
[編集部]