東京大学宇宙線研究所が岐阜県吉城(よしき)郡神岡町(現飛騨(ひだ)市神岡町)に建設した、素粒子観測装置。宇宙線研究所は、1983年(昭和58)神岡地下観測所(現神岡宇宙素粒子研究施設)を設立、神岡鉱山茂住(もずみ)坑の地下1000メートルに設置した実験装置をカミオカンデ(KAMIOKA Nucleon Decay Experiment)と名づけた。このカミオカンデを前身とし、より大型化した観測装置であるスーパーカミオカンデ(Super-KAMIOKA NucleonDecay ExperimentまたはSuper-KAMIOKA Neutrino Detection Experiment)は95年(平成7)に完成、96年4月より観測を開始し、太陽ニュートリノについて興味あるデータを蓄積しつつある。カミオカンデを考案、建設へと導いた物理学者小柴昌俊(こしばまさとし)は2002年その功績が評価され、ノーベル物理学賞を受賞した。
スーパーカミオカンデは5万トンの水を入れた高さ約40メートルの水槽と、約1万本の光電子増倍管からなる。宇宙線などの影響を避けるため地下1000メートルに設置、宇宙からくるニュートリノをとらえる。ニュートリノが水中の電子や陽子とぶつかったときに出る光を調べれば、そのニュートリノが由来する天体の性質を推測することができる。前身のカミオカンデは同型で10分の1の規模の実験装置で、1987年大マゼラン星雲で発生した超新星爆発によるニュートリノを検出している。大統一理論が予言する陽子の崩壊を検証することも大きなテーマである。また、太陽から飛んでくるニュートリノが振動しているという可能性が観測され話題を集めた。ニュートリノには、電子ニュートリノ、ミュー・ニュートリノ、タウ・ニュートリノの3種類があるが、太陽の中心では、電子ニュートリノが生成される。これは70万キロメートルで太陽表面に達し、1億5000万キロメートル飛行して地球に達する。もしニュートリノが質量をもっていれば、電子ニュートリノが密度の高い太陽の物質中を通るときミュー・ニュートリノに変わることが理論的に予想され、これをニュートリノ振動とよぶ。スーパーカミオカンデの実験では、電子ニュートリノの観測例は理論値の37%にすぎないことを示しており、振動がおきている可能性が高いことを示唆している。また、大気上空でできるミュー・ニュートリノが飛行中にタウ・ニュートリノに変わるというニュートリノ振動がおこっていることが見出され、太陽ニュートリノの振動とともに、ニュートリノが質量をもつことがはっきりしてきた。ニュートリノの質量はあったとしても非常に小さく、振動の効果も微小である。そこで、ニュートリノ振動を精密に測定し、その質量を決定しようという「長基線ニュートリノ振動実験」が、筑波研究学園都市にある高エネルギー加速器研究機構とスーパーカミオカンデで進められている。すなわち、まず素性のわかったニュートリノを筑波の加速器でつくり、それをスーパーカミオカンデまで飛行させ、その間にニュートリノの性質が変わるかどうかを確実に検証しようというわけである。実験ではまず、加速器からの陽子をアルミニウムの標的に当てる。するとパイ中間子が生まれ、それが崩壊してミュー・ニュートリノが発生する。そこで高エネルギー加速器研究機構に設置した測定器を通してその数を測った後、スーパーカミオカンデに打ち込んで、どれくらい減少したかを測定する。筑波を出たニュートリノは地中を直進して、1000分の1秒後には250キロメートル先の神岡に到着する。99年6月19日にはこの実験による初めてのニュートリノがスーパーカミオカンデで観測された。