リニアモーターで駆動される車両。リニアモーターは回転する電動機(モーター)の原理を直線上に展開し直線運動に応用したものであり、非接触で走行する浮上式鉄道などの推進方式として用いられる。リニアモーターカーという用語は国鉄の浮上式鉄道宮崎実験線の最初の実験車両ML-500の名称として使われてきた。しかし、実用化され、単独車両ではなく編成で構成されるようになってからは、リニア地下鉄、リニアメトロ、リニア新幹線などと、車両だけでなくシステム全体を示すことばが使われる場合のほうが多い。
リニアモーターの方式としては、誘導電動機の原理によるリニアインダクションモーター(LIM)と、同期電動機の原理によるリニアシンクロナスモーター(LSM)とに大別できる。また構成としては、電力を供給する固定子側を可動部(車両)とする車上1次方式(ショート・ステータ方式ともいう。ステータは固定子の意)と、固定子側を固定部(軌道)とする地上1次方式(ロング・ステータ方式)とに分けられる。これらの組合せは4種類考えられるが、実際には低速・中速用としてLIM方式で2次側導体をアルミシートとする車上1次方式と、高速用としてLSM方式で駆動用電力を地上側で供給する地上1次方式の2種類が主流である。
LIMの車上1次方式は地上側をアルミシートだけで単純に構成できるメリットがあるが、電動機としては端効果などが生じ効率はよくなく、大容量となる高速列車には不利となる。
LSMの地上1次方式は、界磁と電機子との間での電力のやりとりがないため空隙(くうげき)を大きくできる、端効果がないため効率がよい、などの長所を有する。しかし、地上側に駆動用コイルを連続的に敷設する必要があり、同期のために移動体の位置信号も必要となり、1列車に1電力変換装置を対応させる必要が生じる。
鉄車輪方式で最初に実用化されたものは、カナダのバンクーバーのスカイトレイン(スカイトレンとも)であり、1986年に開業した。日本では、リニアモーター駆動とすることにより、車輪の径を小さくし、車両の床面を下げることができ、また車両の断面積を小さくすることでトンネル断面を小さく抑え、急勾配(こうばい)・急曲線にも対応することで建設コストを下げることができるため、地下鉄対応で開発が進められた。別名リニアメトロとよばれる。1990年(平成2)に大阪市の大阪市営地下鉄(現、大阪市高速電気軌道)7号線(長堀鶴見緑地線(ながほりつるみりょくちせん))で最初に実用化し、同8号線(今里筋線(いまざとすじせん))、東京都の都営12号線(大江戸線)や、福岡市営七隈線(ななくません)、横浜市営グリーンライン、仙台市営東西線などで採用されている。海外では、カナダのトロント、マレーシアのクアラ・ルンプール、中国北京(ペキン)空港線など高架軌道用に適用される場合が多い。
浮上式との組合せとしては、常電導磁気浮上方式での愛知高速交通の東部丘陵線(名古屋市名東区藤が丘―豊田市八草(やくさ)町間8.9キロメートル)において「リニモLinimo」の愛称で2005年(平成17)3月から、最高時速100キロメートルでの営業運転を行っている。
海外ではドイツの超高速鉄道トランスラピッドTransrapid(常電導磁気浮上方式)の開発が進み、ドイツ国内で実用路線への採用が種々検討されたが、いずれも工事費の面で折り合いがつかず、実用化には至らなかった。しかし、この技術を用いて、2001年中国において上海(シャンハイ)市内と上海浦東(プートン)国際空港間約30キロメートルを最高時速430キロメートルで結ぶ実用線建設が決定、2004年から営業運行されている。2018年の時点で、これが唯一の高速(時速250キロメートル以上をいう)での営業リニアモーターカーである。
日本では、超電導磁気浮上方式で時速500キロメートルの高速走行を目ざして、宮崎実験線で種々の実験が行われたあと、山梨リニア実験線において開発が進められている。先行工事区間でのMLX01型車両第1編成3両での走行実験が1997年4月から始まり、1999年にはMLX01による有人走行で世界最高時速552キロメートルを記録した。2003年12月には有人走行で時速581キロメートルを記録、世界最高時速を更新した。
日本ではリニアモーターカーというと、この超電導磁気浮上式鉄道をさすことが多い。