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日本大百科全書(ニッポニカ)

子どもの貧困

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子どもの貧困
こどものひんこん

貧困問題のうち、とくに子ども期のそれに着目した概念。
 貧困把握の方法、貧困基準設定について、先駆的な研究を行ったイギリスのB・S・ロウントリイ(ラウントリー)は、労働者は一生涯のうちに貧困線を上回ったり下回ったりする時期があることを発見した。これはロウントリイの功績の一つである。普通の労働者の人生では、自身の子ども期、子育て期、老齢期の3回の時期に貧困に陥りやすい。子どもは、家計に対し追加のコストを生み、出産・育児により親の就労時間は減少するため収入が下がる。
 このライフ・サイクルと貧困の関係を明らかにしたロウントリイの20世紀初頭の研究は、年金や児童手当といった社会保障制度の必要性を示唆し、第二次世界大戦後の福祉国家建設における礎(いしずえ)となった。戦後の福祉国家において、子ども期が貧困に対し脆弱(ぜいじゃく)であることは知られており、それに対する手立ても考えられてきた。日本において、2000年代に入り貧困が社会問題化して、子どもの貧困も徐々にクローズアップされてきた背景には、社会保障制度の不備があると理解できる。
 『平成25年 国民生活基礎調査の概況』(厚生労働省)によると、日本における、子ども(17歳以下の者)の相対的貧困率(所得が国民の「中央値」の半分に満たない人の割合)は上昇傾向にあり、2012年(平成24)には16.3%であった。子どもがいる現役世帯の相対的貧困率は15.1%であり、そのうち、大人が1人の世帯の相対的貧困率が54.6%で、大人が2人以上いる世帯(12.4%)に比べて非常に高い水準である(『阿部彩「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページ』2014年)。
 ただし、子どもの貧困率、子どもの貧困の動向は、国や社会によって大きな違いがある。経済協力開発機構(OECD)による相対的貧困率の国際比較(2010)によると、日本の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く、OECD平均を上回っている。子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中もっとも高い(『平成26年版 子ども・若者白書』内閣府)。
 日本について注目されたのは、2006年において、所得再分配(税金や社会保険料などの制度を通した高所得者から低所得者への富の移動)後の子どもの貧困率が、再分配前より高いという「逆転現象」がおこったことである。再分配前の貧困率から再分配後の貧困率の差は、政府の所得移転による貧困削減効果を示す。2006年は、政府による所得移転、すなわち社会保障給付を行ったのにもかかわらず貧困率が増加するという、社会保障制度の趣旨に照らしてあってはならない状況が生じていた(2009年には逆転現象が解消)。日本の再分配政策(社会保障や税制度)はうまく機能していないのである。
 子どもの貧困は、子どものライフ・チャンスに影響を与え、その後の人生に長期にわたって不利な影響を及ぼす。日本でも、子どもの貧困対策への理解が広がり、2014年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(子どもの貧困対策推進法、平成25年法律第64号)が施行された。同法は、「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進すること」を目的とする(同法1条)。これに基づき、内閣府が中心となって対策が進められている。
 このような長期的不利への視点に加え、貧困について子どもを中心とした視点を求める声、子ども期自体に対して貧困がどういう意味をもつかに着目し、子どもを自らの生活の行為主体として扱うことを求める声が増え続けている。子どもも、独自の人生を生きている人であり、生活の主体である。子どもの貧困に着目することで、「子どもの権利条約」に記されたような子どもの権利を実現し、貧困率に表される現状を改善する着実な施策の推進が望まれる。
[岩永理恵]

©SHOGAKUKAN Inc.

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