曲名篇の記述について
能
- 見出しには流派による異名・異表記を用いず、統一曲名・統一表記を用いた。たとえば《安達原》(観世流だけの曲名)は《黒塚》、《月宮殿》(喜多流だけの曲名)は《鶴亀》に、《角田川》(金春流だけの表記)は《隅田川》、《湯谷》(喜多流だけの表記)は《熊野》に統一した。ただし、異名・異表記も別に併記した。
- 流派ごとの存否がわかるように、その曲を現行曲とする流派名を記した。ただし、現行曲でなくとも、近代のある時期まで謡本が発行されたり、演じられたりしていた曲については流派名に( )をつけて示した。
- 能柄は、五番立の分類、内容上の分類、大小物と太鼓物の区別の三点を記した。
- 五番立の分類は、脇能物、二番目物、三番目物、四番目物、四・五番目物、五番目物の六種とした。
- 内容上の分類は、編者の属する能楽技法研究会作成のものに準拠し、男神物、女神物、老神物、異神物、荒神物(以上、脇能物)、公達物、勇士物、老武者物、女武者物(以上、二番目物)、本鬘物、精・神仙物、美男物、老精物、老女物、現在鬘物(以上、三番目物)、夜神楽物、執心女物、執心男物、狂女物、男物狂物、芸尽物、唐物、人情物、侍物、斬合物、特殊物(以上、四番目物)、霊験物、鬼女物(以上、四・五番目物)、女菩薩物、貴人物、猛将物、天狗物、鬼物、鬼退治物、本祝言物(以上、五番目物)の三五種とした。
- 各役の出立(扮装)は、簡潔を旨として、日本古典文学大系『謡曲集』(岩波書店)で用いている出立名に準拠した。ただし、各役の扮装は、本来、流派のきまり、演者の選択などにより異なるものであり、また特殊な曲、特殊な役では類型的な名称にあてはまらないものも少なくない。したがって、ここに掲げた出立名は固定的なきまりではなく、曲によってはおおよその目安、近似的なものを示す程度と理解されたい。
- なお、それぞれの出立名に相当する図の一部を、「能の諸役出立図」として巻末に付した。
- 鑑賞は、はじめに梗概を表示し、つぎに題材や演技演出にかかわる事柄を記した。〈クセ〉〈序ノ舞〉など構成の頂点となる小段名は、梗概中に原則として〈 〉で示した。
- 小書は、はじめに名称を列挙し、つぎに重要なものや上演頻度の高いものにかぎって簡単な解説を付した。小書の名称は、横道萬里雄・松本雍「能の現行小書」(東京国立文化財研究所編『芸能の科学4』)に「基本資料に記載のある小書」とあるものを採択した。流派名は( )内に観(観世)、宝(宝生)、春(金春)、剛(金剛)、喜(喜多)と略記した。ワキ方と狂言方にかかわる小書は単に脇、狂言としたものと、流派名を高(高安)、下(下掛リ宝生)、福(福王)、大(大蔵)、和(和泉)と略記したものがある。
狂言
- 曲名が流派により異なる場合は、大蔵流の曲名を採用し、次行に和泉流の曲名を添えた。
- 分類は、脇狂言、大名狂言、太郎冠者狂言、聟狂言、女狂言、鬼狂言、山伏狂言、出家狂言、座頭狂言、雑狂言、舞狂言の一一種とした。
- 人物のうち和泉流で用いる小アドは、( )内に示した。
- 出立名は『国立能楽堂春の特別展示 狂言の世界』(一九八五)の付表「狂言諸役出立類型一覧表」によったが、一応の目安にとどまることは能の場合と同様である。
- 地謡や囃子の入る曲については、人物の最終行にその旨を記した。
- 鑑賞は、なるべく大蔵・和泉両流に共通した梗概を記し、著しく異なる場合は大蔵流にもとづき、つぎに流派差に及ぶこととした。