ジャパンナレッジが運営しているFacebookページ「お江戸、いいね!」のナビゲーター、お江戸ルほーりーこと堀口茉純さん(以下、ほーりー)による「お江戸ルほーりー文化講座」第7弾。前回、前々回同様、江戸文化歴史検定さんとの共催でお送りした今回のテーマは「物語でたどる江戸⇔東京八景」。江戸検の今年のテーマ「新江戸百景めぐり」をベースに、ほーりーが物語のある8つの名所を厳選し、ガイドしてくれました!
文と写真・ジャパンナレッジ編集部
講師: | 堀口茉純(歴史作家、歴史タレント) |
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開催日: | 2019年9月4日(水)19:00~20:30 |
場 所: | 日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール(大ホール)(千代田区日比谷公園) |
3回目となる江戸文化歴史検定との共催でおくる「お江戸ルほーりー文化講座」。前回、前々回同様、日比谷コンベンションホールは満員御礼! ほーりーはツアーガイドさながら、旗を振りながらの登場です。
さてほーりーが案内する江戸⇔東京八景の旅は江戸の北限、日光街道、奥州街道の起点「千住」からスタート。「千住大橋」は江戸に入った家康が隅田川に初めて架けた橋。現在は荒川区とほーりーの地元、足立区を結んでいます。そして千住といえばあの松尾芭蕉の「おくのほそ道」の旅への出発点。矢立て初めの句「行く春や鳥啼き魚の目は泪」は荒川区側で詠んだのか足立区側で詠んだのか、いまだ両区が争っているんですって。そしてほーりーは千住大橋を描いた浮世絵を見ながら、当時の橋杭について説明。材料の高野槙(こうやまき)は伊達政宗が寄進したものと伝えられていました。丈夫で水に強かったため、橋は結局一度も流されることがなく明治時代まで長持ちしたのです。
歌川広重作「東海道五十三次」より、参勤交代の大名行列を描いた「品川日乃出」を見ながら、八景の旅は江戸の南限「品川」へ。東海道第一の「品川宿」は、江戸四宿のなかでいちばん活気のある宿場町。「北の吉原」と並び、「南の品川」といわれる遊里でもありました。そこでほーりーは化け猫物語を描いた黄表紙をピックアップ。狩人に両親を殺された猫が品川で遊女に化けて修行をしているというお話。挿絵には決まって、遊女に扮した化け猫がエビや人の腕などをこっそり食べているシーンが入っているんだとか。遊女=寝子、そして遊女は客の前ではあまり食事ができないということから、こんな伝説ができたのではないか、と解説。
そして品川宿のはずれ「鈴ヶ森」へ。江戸時代、北の小塚原同様、公開処刑場があった場所。品川に近く、多くの人が行き交う町だからこそ、見せしめとしての効果を見込んで処刑場が置かれたのだそう。さて鈴ヶ森といえば、初恋の人に会いたい一心で放火事件を起こした八百屋お七。江戸で放火は重罪。お七は市中引き回しの上、火炙りの刑に処せられました。いまでも火炙り台、磔台が残っています。
浮世絵に描かれた千住大橋を紹介。立派な橋杭は伊達政宗が寄進したとされる高野槙。
旅は再び「隅田川」へ。花見に花火、月見に雪見……江戸っ子が四季折々のレジャーを楽しんだ隅田川。なかでも「墨堤」は江戸第一の花見の名所。そして花見のお供といえば、いまでも味わえる長命寺の桜餅。当時は年間38万7500個を売り上げたメガヒットスイーツだったんだとか。ほーりーはその桜餅を販売していたお茶屋、山本屋で起きた事件をクローズアップ。店の看板娘おとよに恋した幕府老中首座の阿部正弘。ライバル出現で強引に彼女を自宅に囲ってしまったことが庶民の怒りをかい、阿部の人気は失墜。そしてのち急死。一目ぼれが政界も絡んだ一大恋愛スキャンダルへと発展。まるで現在にもありそうなお話です。
そして隅田川西岸へ移動。浅草寺あり、吉原ありと名所がたくさんあるなか、「猿若町」をピックアップ。天保の改革で、歌舞伎、人形浄瑠璃など芝居小屋が一か所に集結したいわば江戸のブロードウェイ。ほーりーは今泉みねの回顧録『名ごりの夢』(ジャパンナレッジの「東洋文庫」にも収録)から活気に満ちた猿若町の描写を朗読。また歌川広重「名所江戸百景」から「猿若町夜の景」という浮世絵を紹介。この浮世絵に影響を受けたゴッホ。のちに名作「夜のカフェテラス」を描きます。
八景をめぐる旅は都内でいちばん高い山、標高26メートルの「愛宕山」へ。愛宕山といえば、3代将軍家光の命令で急な石段を馬で駆け上り駆け下りた曲垣(まがき)平九郎の「出世の石段」で知られています。ほーりーは幕末に撮影されたフェリーチェ・ベアトのパノラマ写真を紹介。江戸を360度ぐるり一望できる風景に、会場のみなさんはびっくりした様子。勝海舟が西郷隆盛を説得し、無血開城を決意させたともいわれる場所。ほーりーが写した現在の写真を見ると、周りのビルのほうが高くて、景色は一変していました。
一方、変わらない風景もある、ということで次にほーりーが案内してくれたのが「平川門」。この門は江戸城の通用門で、主に女性が通っていた門だそう。門限は厳しく、大奥初期の実力者、春日局でさえも時間を守らなかったら締め出されたのだとか。門は渡櫓門(わたりやぐらもん)と帯曲輪門(おびくるわもん)からなっており、セキュリティ対策もばっちり。さて不浄門とされていた帯曲輪門ですが、生きたまま通った人間は二人だけ。松の廊下事件を起こした浅野内匠頭と、「江島生島事件」の江島といわれているんですって。
八景の旅、ラストを飾るのは、現在もその当時の風景を楽しめる「浜御殿」(現・浜離宮恩賜庭園)。徳川将軍家の別邸として知られた将軍ゆかりの場所。8代将軍吉宗はここでベトナムから呼び寄せた象を飼い、11代将軍家斉は潮入りの池で部下をもてなす釣り大会をしたそう。空襲で焼失した池の上にある松のお茶屋は2010年に復元。ほーりーは勝海舟の回顧録『海舟夜話』から、松のお茶屋で起きた天璋院と和宮のエピソードを披露。14代将軍家茂が間に入って、不和だった二人の仲を取り持ったという心温まるお話でした。
江戸は当時のままに引き継がれたわけではないけれど、そのとき書かれた物語、そして描かれた浮世絵を見て東京を歩くと、自分の中でイメージが膨らんで、とても豊かな歴史散策になる、とほーりーは締めくくりました。江戸検を受検する人もしない人も楽しめた、江戸⇔東京八景めぐりの旅。江戸をもっと知りたくなる、東京をもっと歩きたくなる90分でした。