抗原特異的なIgEクラスの抗体を保有している生体に,その抗原が重ねて侵入した場合に起こる即時型過敏反応の一つ.Ⅰ型過敏症反応に属し,モルモットではIgG1クラスの抗体も弱いながら同様の作用をもつ.組織内のマスト細胞や血中の好塩基球は,親和性の高いIgEのFc受容体(Fc$ε$RI)を発現しており,産生されたIgEのほとんどは速やかにこの受容体を介してこれらの細胞表面に結合し,長期間にわたって細胞表面に存在する.この状態が感作状態であり,同じ抗原が再び侵入するとその細胞表面で抗原抗体反応が起こり,それが刺激となって細胞から種々の化学因子(chemical mediator)が放出される.この現象を細胞の脱顆粒(degranulation)と呼ぶ.これらの化学因子はヒスタミンやセロトニンなどで,その作用により血管透過性の亢進,平滑筋の強い収縮などが起きる.その結果,くしゃみ,下痢,嘔吐,発疹,呼吸困難,血圧低下などの全身症状を起こし,死に至ることもある.これを全身性アナフィラキシー(アナフィラキシーショックanaphylaxis shock)といい,ペニシリン投与の際に見られるショックはこの例.また皮膚などで局所的に類似の反応が起こるが,その機構は同じである.(⇒受動皮膚アナフィラキシー反応)
即時型かつ全身型のアレルギー症状のこと。即時型とはアレルゲン(アレルギーの誘因となる物質)との接触から短時間に症状がおこることをさし、通常は数分~2時間以内におこるが、まれに2時間以上たってからおこる場合もあるので、数時間以内としている文献もある。
2020年3月18日
アレルギー症状には、皮膚症状(じんま疹(しん)など)、のどの違和感、呼吸器症状(咳(せき)、喘鳴(ぜんめい))、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐(おうと))、神経症状(眠気など)、血圧低下などがあり、そのなかでももっともよくみられるのが皮膚症状であるため、全身型という場合は、皮膚症状に加えて呼吸器症状、血圧低下などがみられることをさす。ただし血圧低下は血圧が測定できなければ確認できないので、意識がもうろうとしていたり、ぐったりして横になっている状態であれば、アナフィラキシーの疑いがあると考える。
日本アレルギー学会が作成している、アナフィラキシーの標準的な治療や考え方などをまとめた『アナフィラキシーガイドライン』(2014)では、アナフィラキシーは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起(じゃっき)され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されており、「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックという」とされている。
2020年3月18日
アナフィラキシーの誘因には、医薬品、昆虫、食物がある。医薬品では、抗菌薬、解熱鎮痛薬、抗腫瘍(しゅよう)薬、麻酔薬、局所麻酔薬、筋弛緩(しかん)薬、造影剤、生物学的製剤、アレルゲン免疫療法薬、輸血用血液製剤がある。また手術等の際に用いられるディスポーザブル手袋の原料であるラテックス(天然ゴム)が誘因となることもある。昆虫はハチが代表的である。食物では、鶏卵、乳製品、小麦、そば、ピーナッツなどがある。また食物の中で増殖したダニが原因となってアナフィラキシーがおこることもある。
食物では、摂取しただけでは症状がおこらず、摂取後に運動することでアナフィラキシーがおこる「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」があり、この場合、原因物質は小麦、甲殻類が多い。
2020年3月18日
アナフィラキシーの治療は、アドレナリンの筋肉注射が第一選択であり、アドレナリン自己注射薬もある。第二選択は抗ヒスタミン薬の投与、ステロイド薬の投与がある。それ以外の治療はショックに対する治療に準じたものとなる。
2020年3月18日
ラテン語のana(無)とphylaxis(防御)からなり,〈無防御〉を意味するが,医学的にはアレルギー性反応の一つのタイプをさす。フランスの生理学者リシェCharles R.Richet(1850-1935)によって1902年に命名された。リシェはイソギンチャクの触手から抽出した毒素をイヌに注射して(免疫)毒素の研究を行っていたが,第2回目の毒素を微量注射したところ,イヌは過敏状態になっていて,中毒量よりはるかに少ない量にもかかわらず,激しい症状を示して死亡することを発見した。すなわち,免疫によって毒素に対する防御が起こっているはずなのに,かえって無防御の状態になっていたわけで,これをアナフィラキシーと命名したのである。その後の研究により現在は抗原抗体反応にもとづく生体反応と定義され,抗原投与後,急激に発症するものをさす。全身的に現れる場合をアナフィラキシー・ショック,局所的に現れる場合を局所アナフィラキシーと呼んでいる。しかし,ふつうアナフィラキシーといえばアナフィラキシー・ショックのことをさす場合が多い。アナフィラキシー・ショックはアレルギー反応が生体に及ぼす激しい病的反応で,対応を誤れば死亡することがある。異種タンパク(主として動物から得られる抗血清)の注射,ペニシリンなどの抗生物質,プロカインなどの局所麻酔薬などの薬物の注射によって起きることが多い。しかし,きわめてまれではあるが,薬物や食事の経口摂取によって起きることもあり,またハチに刺されて発症することもある。共通してみられる変化は,平滑筋の収縮,毛細血管の透過性の亢進,分泌増加,血圧の低下,血液凝固性の減退などである。症状は注射後数分以内にはじまり,顔面の潮紅ないし蒼白,蕁麻疹(じんましん),不安感,腹痛,便意,失禁,手足のしびれ感などが起こり,さらに呼吸困難,血圧低下,全身性痙攣(けいれん),意識消失へと進行することがある。死亡例では,咽頭浮腫,臓器の鬱血(うつけつ),肺気腫様変化などがみられる。以上は主としてヒトの場合であるが,動物の種類によりアナフィラキシーの発現の様式や症状は異なる。モルモットが最も起こしやすく,イヌがこれに次ぐ。ラットやマウスは起こしにくい。
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