4個のピロール環が4個の炭素で結合して閉環したポルフィンにメチル基などの側鎖のついた化合物の総称。生体内の酸化還元反応に重要な役割を果たしているヘモグロビン(血色素)、チトクロム類(呼吸色素)、クロロフィル(葉緑素)類などの色素部分を構成する化合物である。したがって、生物界に広くみいだされるが、ポルフィリンの中心構造をつくっているポルフィン自身は天然には存在しない。多くは緑色または赤色を呈し、特異な吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
植物の光合成色素であるクロロフィル類の基本構造は、プロトポルフィリンの4個の窒素原子にマグネシウムが配位したものである。また、1996年、亜鉛が配位したクロロフィル類(バクテリオクロロフィルa)が、酸性環境に生息する光合成細菌にみつかっている。銅を配位したクロロフィルは安定で、食品などへの添加物として利用されている。ヘモグロビンやミオグロビン、チトクロムbなどの色素部分は、プロトポルフィリンに鉄が配位したものである。動物や細菌のポルフィリン類は、グリシンとスクシニルCoA(活性コハク酸)が縮合したものからつくられる。一方、植物のクロロフィル類のポルフィリンは、1990年代以降の研究からグルタミン酸などからつくられることが明らかになっている。
4個のピロール環が4個のメチン基=CH–によって互いに結合して閉環したポルフィン(porphin)構造を基体として,その1~8(およびα~γ)の位置にメチル・エチル・ビニルなどの基が置換した誘導体の総称.これらの1~8の側鎖の種類と配列(表)により種々のポルフィリンが存在し,エチオポルフィリンやコプロポルフィリンなどのように2種類の側鎖が各ピロール環に結合する場合には4個,プロトポルフィリン(protoporphyrin)のように側鎖が3種類ある場合には15個の異性体が存在しうる.天然に見られるプロトポルフィリンは,H.Fischerの分類ではⅨ型と呼ばれる.ポルフィリン環は共鳴状態にあり,4個のピロール環は同一の構造をもつ(図中の二重結合の位置は任意に選ばれたもの).π電子共役系が分子全体に広がるため,可視領域に大きな吸収帯を生じ,特異な吸収スペクトルおよび赤色蛍光を示す.天然に見出される生理的に重要なポルフィリン類は,ピロール環の4個のNにFe,Mg,Co,Znが配位して錯体を作って存在する.例えばプロトポルフィリンⅨ(ウロポルフィリノゲンⅢから生合成される)のFe錯体(プロトヘム,単にヘムともいう)はヘモグロビン,カタラーゼ,通常のペルオキシダーゼなどの配位原子団として含まれ,シトクロムは
ピロール環4個が4個のメチン基-CH=によって結合,閉環してできるポルフィンporphin核を母体として,その上の1~8(およびα~δ)の位置に置換基がついた誘導体の総称。ポルフィリンに鉄,銅,マグネシウムが結合した分子内錯塩は天然に存在し,生理的に重要なものが少なくない。例えばチトクロム,カタラーゼ,ヘモグロビンなどは鉄ポルフィリン誘導体のヘムやヘマチンを含有しているし,植物の葉緑体にはマグネシウムポルフィリンとしてのクロロフィル(葉緑素)が含まれている。
ポルフィリンの物理化学的性質は側鎖の種類で大きく変わる。カルボン酸を側鎖にもつものは,ピロール核の第三級窒素の弱塩基性とともに,両性電解質の性質をもつ。カルボキシル基の多いものは親水性が強い。ポルフィリンは一般に赤色を呈し,有機溶媒中で可視部に4本,ソーレー帯Soret band(400nm付近)と呼ばれる部域に1本の吸収極大を有し,また蛍光も呈する。
各種生物におけるポルフィリン核の生合成は,まずグリシンとスクシニルコエンザイムA(スクシニルCoA)からのミトコンドリア内のALAシンターゼによる5-アミノレブリン酸(ALA)の合成に始まり,次にPBGシンターゼ(ALAデヒドラターゼ)の作用でポルホビリノーゲン(PBG)を生じ,次いで4分子のPBGの縮合によって最初のテトラピロールであるウロポルフィリノーゲンⅢ型が生成する。ポルフィリノーゲンは無色であるが,そのメチレン橋が自動酸化によってメチン橋になると,赤色のポルフィリンとなる。プロトポルフィリンに鉄が酵素を介して導入されると,プロトヘムが生成することになる。なお,プロトポルフィリノーゲンが生成する段階は,通常分子状酸素を要求する。
ポルフィリンの生合成と分解の代謝過程の異常に由来する遺伝性疾患が種々知られている。その中でポルフィリンまたはその前駆体のALA,PBGなどが尿中に大量に排出される疾患をポルフィリン症porphyriaと呼ぶ。激しい腹痛,嘔吐,精神神経症状などをひき起こす場合がある。
©2024 NetAdvance Inc. All rights reserved.