血圧とは血液が血管壁に及ぼす側圧のことである。血液は心臓のポンプ作用によって心臓から送り出され,動脈系から毛細血管に至り,静脈系を経て心臓に還流するが,血圧はこの血管の部位によって異なる。しかし一般に血圧といえば,体循環系における動脈の血圧を指す。心臓からの血流は,心臓の定期的拍動によって押し出されるので,定常流ではなく脈流である。すなわち心臓の収縮期に対応して血圧は最大となり,心臓の拡張期に対応して血圧は最小となる。前者を最大血圧または収縮期血圧と呼び,後者を最小血圧あるいは拡張期血圧と呼ぶ。最大血圧と最小血圧の差は脈圧と呼ばれる。心臓の1回の拍動期間におけるすべての瞬間の血圧の平均を平均血圧という。平均血圧は最大血圧と最小血圧の算術平均を意味するのではなく,最小血圧+脈圧×1/3で概算される。
血圧のことは古くから知られていたと考えられるが,実際に血圧というものを測定するようになったのは19世紀後半になってからである。初めのころは,血圧を測るといっても,動脈を切開して直接測ることができるにすぎなかった。ところが1860年ころから脈波記録法によって間接的に血圧を知る方法が行われるようになった。96年にイタリアの小児科医リバ・ロッチScipione Riva-Rocci(1863-1937)が,上腕に巻いた脈波測定用カフを用いて血圧を測ることを始め,さらに1905年にはロシアの外科医コロトコフNikolai Korotkovがカフと聴診器を用いて血圧測定を行い,動脈の雑音(コロトコフ音)を聴いて血圧を間接的に知る方法を発表した。これが現在広く用いられている血圧測定法である。この方法では,あらかじめ高めておいたカフ内の圧力を徐々に下げていき,最初に血管雑音が聞こえた点を最大血圧,聞こえなくなった点を最小血圧とする。なお血圧の単位はmmHg(水銀柱mm)で表す。
ヒト以外の動物でも血圧は測定されている。たとえば,キリンの血圧はきわめて高い値を示し,それによってあの高い頭まで血液を送ることができるのではないかという報告もなされている。またヒトの高血圧を研究するための実験モデルをつくるのにイヌ,ウサギ,ネズミなどがしばしば用いられているが,イヌの血圧は大腿動脈を用いて直接法により,ウサギやネズミの血圧は耳や尾を用いて間接法で測定することが多い。
血圧は季節によって変化する。一般に寒い冬の血圧のほうが暑い夏よりも高い。また血圧は1日のうちでも時刻によって変化する。ヒトの血圧は一般に昼間高く,夜低い。ところが夜行性動物であるネズミなどでは夜高く,昼間低い。血圧は一般に上腕で測定するが,血圧は場所によっても違い,下肢の血圧は上肢のそれよりも20~30mmHg高いのが普通である。
血圧は一般に精神的緊張によって上昇し,外来ではじめて医者に測ってもらうときの血圧は,2回以後に測ってもらう血圧よりも高く,病院で測った血圧よりも家庭で測った血圧のほうが低いのが普通である。正常人でも,一過性の血圧上昇はしばしばみられるので,高血圧と診断するには,1回だけの血圧測定によるのではなく,くり返し血圧を測定し,高い血圧がある程度持続することを確認することが必要である。世界保健機関(WHO)の高血圧専門委員会では,〈血圧は,少なくとも2回以上時をかえて,3回以上の測定を行い,その値の平均値が収縮期で160mmHg以上あるいは拡張期で95mmHg以上のときに高血圧とし,収縮期が140mmHg以下でしかも拡張期が90mmHg以下のときを正常血圧とする。この間のときは境界域高血圧〉と決めている。
軽い高血圧では一般に症状はみられないが,長く続くと血管に病変が現れるようになり,これが,脳卒中,冠動脈疾患,心不全,腎不全などの原因となることが明らかにされている。重症の高血圧には頭痛,めまいなどの症状を伴うことが多く,高血圧性血管病変の進行が速い。
収縮期血圧が100mmHg以下あるいは拡張期血圧が50mmHg以下の場合を低血圧と呼ぶ人が多いが,たとえ血圧が低くても,それによる病的な症状がなければ一般に病気としては取り扱わない。
高血圧の治療には食塩制限やストレスの除去などの一般療法もたいせつであるが,1960年ころから高血圧の治療薬が数多く登場するようになり,現在では,これらの薬をうまく使用すれば,たいていの高血圧は薬で治療することができるといえるようになった。
→高血圧 →低血圧
血管系の回路において,心臓拍動のポンプ作用で拍出された血液によって血管壁(特に動脈)に生じる側圧.心臓から血液が拍出されるとき,やや弾力性をもつ血管壁が少し伸展され,同時に血液は血管壁に対して血圧を生じる.血圧の高さは血管系の場所によって異なり,一般に心臓の動脈口より遠ざかるに従って圧を減じ,心臓付近の静脈などでは陰圧にもなる.このため閉鎖血管系をもつ動物では動脈血圧・毛細管血圧・静脈血圧などと呼んで区別する.血圧は心臓拍動との時間的関係によって周期的変動を示す.これが脈拍である.心臓の収縮に対応する血圧は最も高く,収縮期血圧(systolic blood pressure,最高血圧maximal blood pressure)という.心臓の弛緩に対応する血圧は最も低く,弛緩期血圧(拡張期血圧diastolic blood pressure,最低血圧minimal blood pressure)といい,前者との差を脈圧(pulse pressure)と呼ぶ.動物の血圧は種によって異なるが,一般に閉鎖血管系をもつ動物は開放血管系をもつ動物よりも高く,また恒温動物は変温脊椎動物より高い.安静時のヒトの血圧は,20~25歳前後では最大血圧約120 mmHg,最小血圧約70 mmHgであるが,年齢とともに動脈壁の弾力性が減少し最高血圧は増加する.臨床的には,一定に決められた以上の血圧を示す場合に高血圧(hypertension)と呼び,一般に最低血圧が90 mmHgを超す場合が問題とされる.以上は動脈血圧であるが,毛細血管の血圧は,ヒトの場合6~32 mmHg,大静脈では-5~2 mmHgである.毛細管の血圧は管壁の透過性に重要な影響をもつ.なお生体の動脈血圧は,心臓からの拍出量,末梢抵抗,血液の粘性などの因子によって規定されている.これらの因子は心臓反射や血管反射などの神経機構によって調節され,それに副腎髄質などの関係する液性相関も調節に関与する.正常時の血圧がほぼ一定に保たれるのはこのためである.筋運動などに際しては,前記の調節機構によって血圧が上昇し,エネルギー代謝亢進に対応して血流の増加をきたす.交感神経刺激およびアドレナリン処理は,小動脈壁の平滑筋を収縮させ血管をせばめる結果として血圧を高め,下垂体後葉のバソプレシンも直接に平滑筋に働いて同じ結果をもたらす.脂質が血管に沈着すると動脈は硬化し,弾性を失うために血圧が上昇する.これが動脈硬化(動脈硬化症arteriosclerosis)で,循環障害として重大視される.血圧の勾配によって生じる血液の流れを血流(blood flow)と呼び,血管内の単位時間当たりの血流の容量はそこの圧勾配に比例,血管の径の4乗に比例し,血流の速度は径の2乗に比例する(⇒ハーゲン–ポアズイユの式).血流量は,直接的には血管内に挿入した血流計により,間接的には血液中に吸収されるガスの移行量などから決定する.血流量は通常は1分間に流れた血液の容量で表し,これを分容量という.血流量は,心臓の収縮力,心室の充実度(⇒スターリングの法則),心拍数,血管系の抵抗(⇒末梢抵抗),血液の粘性,血液量など種々の要因や性差,体姿勢,外温度,体の運動などの血管系以外からの要因によっても影響される.(⇒ベルヌーイの原理)
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