藤原公任撰 (きんとうせん)の36人の歌人の画像に、略歴と歌1首を添えて構成した絵巻。もっとも古い遺品は佐竹家伝来の二巻本(通称「佐竹本」)で、鎌倉初期(13世紀前半)の制作になり、書は後京極良経 (ごきょうごくよしつね)、絵は藤原信実 (のぶざね)と伝称されるが確証はない。1919年(大正8)に各歌仙ごとに切断され、掛物に改装されて現在諸家に分蔵されている。人物の顔貌 (がんぼう)描写には新しくおこった似絵 (にせえ)の手法を取り入れた写実的な個性表現がうかがえ、着衣にはときに華麗な彩色が用いられ、歌仙絵の最高傑作とされる。これとほぼ同じころの制作になる上畳 (あげだたみ)本三十六歌仙絵巻は、各歌仙が上畳の上に坐る姿で描かれたものであるが、やはり一図ずつの断簡として伝わっており、歌仙絵の流行期を代表する作例である。このほか南北朝時代の白描による『釈教三十六歌仙絵巻』(1347)、さらに室町以後には業兼 (なりかね)本、後鳥羽院 (ごとばいん)本、為家 (ためいえ)本、木筆 (もくひつ)本、新三十六歌仙など多種の三十六歌仙絵巻がつくられた。