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ニュートン

ジャパンナレッジで閲覧できる『ニュートン』の改訂新版・世界大百科事典のサンプルページ

ニュートン
Isaac Newton
1642-1727

イギリスの科学者。リンカンシャーのウールスソープの自作農の家に生まれた。ウールスソープで初等教育を終えたのち,グランサムのキングズ・スクールに学び,1661年にケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに入学した。当時のヨーロッパの大学では自然科学はほとんど教えられていなかったが,ニュートンはこの時期にデカルトの《幾何学》やケプラーの《屈折光学》を読んだ。さらに幸いなことには,ケンブリッジ大学にはルーカスHenry Lucas(?-1663)によって〈ルーカス講座〉が創設されており,その初代教授としてバローIsaac Barrow(1630-77)が就任し,数学や光学の講義がなされていた。ニュートンは,この師のもとで数学,光学,そして力学を学び,その才能を認められて,69年には彼のあとを継ぎ,ルーカス講座の教授となった。72年には,のちにニュートン式反射望遠鏡と呼ばれることになる望遠鏡の発明を評価されて,ローヤル・ソサエティの会員となり,89年にはケンブリッジ大学選出の国会議員となった。96年に造幣局監事に任命されたため,ロンドンに転居し,その後造幣局長官となった。さらに1703年には,ローヤル・ソサエティの総裁に就任し,生涯その地位にあった。

ニュートンの主要な業績は力学,数学,光学の三つの分野で打ち立てられたが,これらの研究はいずれも,1665年から66年のペスト流行期に大学が閉鎖され,ウールスソープに疎開していたときに大きく進展したことがわかっている。有名なリンゴのエピソードがあるように,万有引力の法則の着想はこのウールスソープで得られたのであり,彼は地上の重力が月の軌道にまで及んでいると確信した。そして,その後の彼の研究によって,万有引力の法則と力学の3法則を使えば,地上の物体の運動だけではなく,潮の満干や惑星の運動すら説明できることが示された。この力学研究は87年の《プリンキピア》にまとめられたのであるが,この結果,以前には独立して取り扱われていた天上の世界と地上の世界が同一の法則によって支配されており,単一の世界を構成しているということが明らかになった。彼の二項定理の発見,流率法,つまり,今日の微積分法の発見も1665年にはすでになされており,彼の力学研究に大きく貢献した。

彼は光学についても,66年にプリズム実験を行い,同じ屈折率の光には同じ色が属しているということを発見した。この発見は屈折望遠鏡の改良を彼に断念させ,反射望遠鏡の発明へと向かわせることになった。また,この発見をめぐってその後に生じたわずらわしい論争の中でも,ニュートンは光学の研究を続け,それらの成果が1704年に《光学》として発表されるのであるが,この書物には光や色についてだけではなく,彼の自然観も表明されている。つまり,ニュートンが光学研究を通じて意図していたのは,微視的な領域においても,巨視的な領域と同じような力学法則が支配しているということを示すことだったのである。このような意図は完全には成功しなかったとはいえ,彼の力学理論とともに,18世紀の科学者に受け入れられた。

ところで,《プリンキピア》の巻末につけられた〈一般注〉や《光学》の最後に提出されている〈疑問〉からもうかがえるが,ニュートンは神学や錬金術にも強い関心をもっていた。実際,20世紀になって競売に付された彼の膨大な手稿や蔵書目録から,錬金術の実験,神学の研究,キリスト教的年代学の研究は余技ではなく,力学や光学に劣らないほど彼の学問の本質的部分を占めていたことがわかる。もちろん,これらの研究は彼の自然科学の研究と無関係ではなかった。彼は重力の原因を神の存在に求めようとしていたし,《光学》においては,自然哲学,つまり自然科学の主たる任務を〈仮説を捏造(ねつぞう)することなく,……結果から原因を導き出して〉,第1原因,つまり神に到達することだと明言していたのである。逆に,キリスト教によって示された歴史的事件を研究する年代学にも,彼の天文学的知識が駆使されていた。そして,このような歴史への興味は,それだけにとどまらず,自然界ばかりか歴史においても一定の秩序を見いだそうとする彼の努力を示しており,神の被造物である自然と神の預言の成就としての歴史のいずれにおいても同一の普遍的な統一性が存在するという確信の結果であった。このように,ニュートン手稿の再収集に努力した経済学者のJ.M.ケインズの〈ニュートンは理性の時代の最初の人〉ではなく,〈最後の魔術師〉であったという発言もなるほどと思われる。いずれにせよ,今日の科学は近代的合理主義の所産であると考えられているが,その合理主義は宗教的情熱と無関係ではなかったということをニュートンは端的に示している。
[田中 一郎]

[索引語]
Newton,I. ルーカス,H. Lucas,H. バロー,I. Barrow,I. プリンキピア 微積分法 光学(ニュートン) ケインズ,J.M.
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