パソコンの普及でジャーナリストの仕事の仕方は大きく変わってきました。かつては取材が終わった後に資料を調べながら原稿を書くというのが一般的でしたが、今や現地で取材から原稿執筆までこなさなくてはいけないケースがほとんどです。とくにテレビのリポートの場合は取材からオンエアまでの時間がどんどん短くなっています。交通手段もままならない辺境の地ですから当然、日本から携帯する資料も限られます。そんな中で多岐に渡る情報を仕入れなくてはなりません。だからウェブで使えるジャパンナレッジは非常に重宝するわけです。
つい先日もイラクでの取材中にジャパンナレッジに助けられました。自衛隊の組織に「幕僚長」という階級があります。25年のジャーナリストとしての経験から、幕僚長という階級がどういうものなのかはおおよそわかっているつもりだったのです。しかし、具体的、かつ、正確にどういう階級なのか──防衛庁長官との関係性、どういう組織を掌握するのか──などと考えだすと確信を持って断言できない。そんなとき、ジャパンナレッジで調べてみると、自衛隊の組織構造がきちんと載っていた。さらに、制服組に関するバックグラウンドや、陸上・海上・航空各自衛隊の人員数や規模が正確に記述されていました。幕僚長という言葉を調べようとして、周辺の知識まで補強できる。「有事法」を検索すると「周辺事態法」→「自衛隊」→「憲法第九条(戦争放棄)」→「日米安全保障条約」というように思考を展開していける。こうした知識の拡がりは、日本の情報が乏しい現地では大変重宝するのです。
さらに大事なのは、そうした記事が“引用できる”という点です。わけのわからないどこかのサイトからではなく、『日本大百科全書』という定評あるリファレンスデータの、いわばオーソライズされた記事が載っているというのは、言葉を職業とするジャーナリストとして非常に重要なことなのです。たとえば、パレスチナのイスラエルに対する攻撃が「自爆攻撃」なのか「テロ」なのか、言葉の違いだけで視聴者に与えるイメージは大きく違います。そうした判断の基準になりえ、かつ、視聴者に対しても不安なく引用できる情報であることが、プロのジャーナリストとしても使用できるかどうかの分水嶺なのです。百科事典という名前で信用を担保している、と言えるのかもしれません。
ネットワークでの知識空間であるジャパンナレッジの最大の利点は、いうまでもなくネットワーク上にあるということです。“Anytime, Anywhere”──これです。リアルな図書館は24時間開いているわけではありません。知りたいとき、調べたいときに出かけていって、というわけにはいきません。この物理的空間、時間を超えたところに存在するからこそジャパンナレッジに今日的意味、価値があるといえます。例をひとつだけ挙げてみます。図書館に通うのにバスや電車に乗ったりすると400~500円くらいはかかってしまいます。ジャパンナレッジの利用料は月額1500円です。時間と労力の軽減を勘案すると、私にとっては非常に割安なんです。
このジャパンナレッジを使っていて気付いたことがあります。個人的には百科事典を見る機会がいちばん多いのですが、ふと気付いてみると国語辞典を見ていたり、URLセレクトでほかのサイトを見ているといったことがたびたびありました。「憲法第九条」について調べていたときのことですが、百科事典からいつの間にか関連サイトをクリックして見ていた。ひとつの事典だけで知識が完結するのではなく、そこからさらに先へと調べていくことができるこの仕組みは非常に有用です。そういった意味でジャパンナレッジは、単に辞事典の集合体というイメージではないのだと思います。ジャパンナレッジ全体がひとつの大きな事典を形成している。イメージとしては、まさに“百科空間”というものに近づいているのかもしれません。
あとは時事的な言葉をできるだけ早いタイミングでジャパンナレッジに掲載してほしい。月々の更新作業は膨大で大変でしょうが、こうした時事用語の充実、さらに厳選されたURL情報の拡充が、ほかの情報源から一線を画す、真の百科空間への近道だと思います。そうなるともう手離せませんね。