山中湖情報創造館(以下、創造館)は、NPO法人が委託を受けて運営する、日本初の“公設の図書館”です。いろいろな意味で、今までにない図書館を目指してこの4月にオープンしました。
公共図書館は自治体が運営している関係上、さまざまな制約を受けます。ですから特色ある図書館をつくりたいと思っても、なかなかそれを実現できません。その点、創造館は自治体からの委託を受けてはいますが、NPOが運営していますから、かなり大胆に、自由に図書館運営を行うことができるのです。
昨今、ベストセラー小説ばかりを数十冊単位で購入し、本の貸出率だけを金科玉条にしてきた従来型の図書館への批判が強まっています。しかし、本来的な図書館の機能とは“調べものをしたい人たちのためにその場所を提供する”ものです。創造館ではそうした本来の図書館の姿に立ち戻るべく、「日本一のレファレンス図書館」を目指しています。どこでも簡単に手に入る本ではなく、その地域でしか手に入らないような貴重な書籍や資料を購入し、調べものが必要な人たちに提供するというのが、私たちが求めている図書館の姿なのです。
もちろん予算的な制約などもあり、すべての資料を揃えるわけにはいきません。また、インターネットを含めたデジタル技術の進展で、書籍以外にも貴重な資料がたくさん出てきました。こちらは検索性に優れ、物理的な場所を超越するという特性も併せ持っています。こうした新技術にも対応し、図書館本来の役割を来館者に提供していくのが創造館です。
ですから、司書も従来の司書能力だけではダメです。司書能力と同様に、インターネットの検索、データベースの活用と運用、図書館からの情報発信といった分野の知識を兼ね備えた“デジタル・ライブラリアン”が求められています。来館者が求める情報を、書籍やデータベース、ウェブとわけへだてなく、適切なところから適切に探し出す力こそ、今後の司書に求められる能力なのです。
山中湖は別荘地で、夏には数百万人の観光客が保養にやってきます。村民自体は6000人ですが、週末だけ山中湖で過ごすという首都圏在住の方も少なくありません。週末、山中湖にやってきて、どうしても片付けなければいけない仕事は、インフラも整ったこの創造館を活用してもらう。つまり、創造館は公共図書館の枠組みを超えて、ビジネス支援的な活動を行うのも目的の一つであり、将来へのチャレンジでもあります。
館内は無線LANが常時使える仕組みになっています。ご自身のノートパソコンを持ち込めば簡単な設定だけでインターネットが自由に使えます。もちろん、館に備え付けられた7台のパソコンはインターネットに接続され、自由にお使いいただけます。
情報の検索性という点では、書籍はコンピュータにはかないません。ビジネス支援という要素が今後の図書館に求められる機能である以上、デジタル化も図書館にとって必須の流れなのです。いまや書籍だけでビジネス支援が可能だと考えている人は誰もいないでしょう。ウェブ上のコンテンツも含め、総合的な情報を図書館でも扱わざるを得ません。
しかし、大きな問題があります。それは、ウェブの情報は“構造的”に構築されたわけではないので、情報に偏りがあるのです。
たとえば、チェコの行政システムや憲法についての情報が欲しいとします。レポートや論文などを書くうえで必須の情報であり、行政の知識などはある意味“当たり前”の知識です。しかし、この“当たり前”の知識を「Yahoo!」や「Google」などの検索エンジンを使って探してみてください。思い通りの情報に行き着くまでに、膨大な時間を要するはずです。実はウェブ上には、極度に専門的な情報は多くありますが、こんな“当たり前”の知識が思いのほか少ないのです。
仮に、運よく目的の情報を探し出すことができたとしても、次にその情報がどれほど正しいものなのかを判断しなくてなりません。それには、別のサイトなり書籍なりと比較検討する作業も必要になってきます。どこの誰が書いているかがわからないウェブの情報はまだまだ信頼性という点からも、ビジネスには使えません。ですから事典や辞書を活用するということは、膨大な時間の節約ができると同時に、信頼度の予測もできます。事典や辞書をベースに作られているジャパンナレッジは、そんな“当たり前”の知識をちゃんと見ることができる非常に希少なウェブ上の情報源なのです。