江戸後期に多くの石像物をつくり、名人と呼ばれた丹波佐吉という石工(いしく)がいた。奈良、大阪、京都を中心に、佐吉は石仏や石灯籠などを数多く残している。なかでも、神社参道に安置される狛犬は、形にとらわれない大胆な作風と繊細な細工で、数え切れないほどある狛犬の中で、突出した存在になっている。

 そもそも狛犬は作者のわかるもの自体が少なく、それも近世以降につくられたものとなると、現代に文化的な価値が認められているものはほとんどない。佐吉の狛犬は、異例中の異例というわけである。これまでに21対がその手によるものと確認されている。京都にはあらゆる時代の狛犬があるといわれるが、佐吉の彫った狛犬はたった一対だけが存在する。京都府園部町(そのべちょう)の摩気(まけ)神社である。自然豊かな丹波路の山間にある神聖な社を訪ねると、参拝者に訴えかけるように、勢いのある姿の狛犬が迎えてくれるはずである。佐吉の狛犬は、あえて彫りにくい石材を使いながら、緻密で大胆に彫り上げていく挑戦的なものづくりであり、狛犬の動きのある鬣(たてがみ)や尻尾の構図が印象的な作風である。

 佐吉は、1816年(文化13)に困窮した旧家の子息として、但馬国竹田(現在の兵庫県朝来(あさご)市)に生まれている。しかし、幼少期に孤児となり、たまたま石工に拾われ、5歳から修行をはじめた。そして、20歳を過ぎた頃に家を出ている。その後、西行(さいぎょう)と呼ばれる、工房をもたない旅回りの石工として働いている。石工としての技巧の高さは、すぐに広く知られるようになったようだが、名声を決定づけたのは職人同士の技競べであった。技競べでつくった石の尺八が御所に献上されることになり、それを孝明天皇が「日本一」と褒め称えたという。名声に恥じぬように生涯を通して石一筋に、家族をもつこともなく孤独に生きた佐吉。最期は誰に看取られることなく、奈良山中で病死したといわれている。


摩気神社の狛犬。鬣(たてがみ)や尻尾がなびくような動きのある造形が、丹波佐吉の代表的な作風である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 ドラえもんの声を四半世紀にわたって務めてきた大山のぶ代さん(81)が認知症だということを、夫の砂川啓介(さがわ・けいすけ)氏(78)が告白したことが話題を呼んでいる。

 日本では65歳以上の高齢者のうち462万人が認知症に罹っており、その前段階のMCI(軽度認知障害)も合わせると800万人いるといわれるそうである。

 厚生労働省は1月に、10年後に認知症高齢者が最大730万人になるという推計を発表している。

 症状を緩和させる、または進行を遅らせる対処療法はあるが、根治させる薬はいまだないのである。

 『週刊新潮』(5/28号、以下『新潮』)で砂川氏は、彼女は2008年4月24日に脳梗塞で倒れ、「血栓が飛んでしまいましてね。結果、前頭葉をやられたようで、身体ではなく記憶の方に障害が残ってしまった」(砂川氏)

 後遺症でもの忘れが激しくなったと思っていたそうだ。1+1が答えられない、アルファベットの中のAだけ集めなさいといわれてもできない、病気の前にはヘビースモーカーだったのに、4か月に及んだ入院生活から帰ってきて、居間や寝室に置いてある灰皿を不思議そうに眺めて「これなあに?」と聞いてきた。

 おかしいと思っていたが認知症だとは見抜けなかった。ようやく2年前に脳の精密検査を受けたところ、アルツハイマー型の認知症と診断されたというのだ。

 何冊もレシピ本を出しているほど上手だった料理も、火にかけた鍋のことを忘れて空焚きにしたり、冷蔵庫の扉も開けっ放し、Tシャツを裏返しに着ても気にしない。

 食事は、正午頃に起きてくるペコ(のぶ代さん)のために砂川氏がブランチをつくり、食事が終わると部屋に戻って横になる。午後6時頃に夕食をとると自室に戻るの繰り返し。

 「味覚については、かなり鈍ってきていると見ています。というのも、前の日に『美味しい』と完食したものを、明くる日には『まずい』と言って残すことがお決まりのパターンですから。(中略)
 次に、『衛生面での無頓着さ』についてです。これは認知症の典型的な症例のひとつで、とにかくお風呂を嫌がる。それでも週に2度、女性のマネージャーに入ってもらっています。トイレもしかりで、独りで用を足すことはできるのですが、流さずに出てくることがしばしば。また、お尻などをきれいにしないまま、下着をはいてしまうことも時折あります」(同)

 徘徊はないが亡くなった母親と話をする幻覚症状が出たりと、ひとりで置いておける状態ではないという。砂川氏は、自分にもしものことがあったときに備えて遺言状を作成したという。

 老老介護の大変さがよくわかる記事である。この告白のすごいところは、夫婦関係まで赤裸々にしているところである。

 「実はかれこれ40年、僕らは寝室が別なんです。彼女が死産を経験して、いわゆる妊娠恐怖症になり、お互いの身体に触れることがなくなった。僕が30代のころの話で、結果として、色んな女性と関係を持つことになりました。芸能人にダンサー、そして一般の方もいて、まあ、それもペコは黙認していたんですよ」(同)

 しかし、認知症になってからは、そうしたことも忘れて、「僕がベッドまで連れ添うと、両手を広げてハグを求めてくるんです。当初は、接し方が難しくてかなり戸惑いました」(同)。認知症に功があるとすれば、過去の嫌なことさえも忘れさせて、新婚当時の愛を復活させたことであろうか。

 しばらく前に芸能人夫婦の認知症介護が話題になったのは、長門裕之・南田洋子夫妻のケースだった。1956年に公開された映画『太陽の季節』(石原慎太郎原作)で長門と共演した南田の溌剌とした美しさは、年下のわれわれ世代も憧れたものだった。

 歳月は残酷なものである。長門は認知症になった妻・南田をテレビカメラの前に晒(さら)した。そのやり方は論議を呼んだが、少なくとも認知症に対する認識は大きく広がった。

 大山のぶ代といえばドラえもんといわれるように、やや舌足らずの明るい声が日本中の子どもたちを元気にしてきた。砂川氏によると、彼女は台本を持つとしっかりして、仮名も簡単な漢字も読めるそうだし、ドラえもんの声で読み上げることもできるそうだ。だが「映像を見てそれに声を当てるというのは、もう無理なんじゃないかな」(同)

 同じ号で『新潮』は「『認知症』防衛7つの基本」という特集を組んでいる。

 毎日30分以内の昼寝。動脈硬化をもたらす生活習慣は避け、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を含むイワシやサンマなどの青魚を1日60~90グラムは摂るようにする。

 野菜を多く取り、中でもブロッコリーは効果が高く、「王様」といわれるそうだ(大山の場合は、服用薬の関係でホウレンソウ、ブロッコリー、納豆は避けている)。

 カレーをよく食べるインド人の認知症発症率はアメリカ人の4分の1ほどだといわれる。カカオ含有率70~80%の高カカオのダークチョコを毎日100グラム摂ると、15日間で血圧、空腹時血糖値、血中インスリン濃度がすべて下がり、認知症につながる糖尿病予防にも有効だという。

 果物を食べるなら糖分の多いパイナップルやメロンより、食物繊維が豊富なブルーベリーやりんごがいいそうだ。太りすぎや呑みすぎも厳禁。

 やはり大山のぶ代の影響なのだろう、『週刊文春』(5/28号)も「身近な食品で血圧や認知症を予防しよう」という特集を組んでいる。

 やはりチョコレートが血圧にも認知症にもいいようだ。血圧にはカカオポリフェノールの持つ抗炎症作用がいいという。また脳由来の神経栄養因子(BDNF)の値が増加することで、記憶力が向上したり認知症にかかる率が減少するという。

 糖尿病予防には落花生1日30粒が効果ありだそうだ。

 「落花生はオレイン酸という良質な脂肪酸を多く含んでいます。糖尿病の三大合併症とされるのは腎障害、網膜症、神経障害です。これらは血糖値を抑えればコントロールできる。問題はこれ以外の動脈硬化などに由来する大血管合併症です。これは血糖値を抑えるだけでは防げませんが、オレイン酸は動脈硬化予防に効果的です」(小早川医院の小早川裕之院長)

 みかん、牡蠣、イカもいいそうだ。『新潮』でも「王様」だといわれているブロッコリーは発がん物質を抑える効果もあるという。

 ブロッコリーやキャベツなどの「アブラナ科野菜にはイソチオシアネートという硫黄化合物が多く含まれていて、これが肝臓にある解毒酵素の活性を高めてくれます」(愛知学院大学の大澤俊彦教授)

 早速、落花生とカカオチョコレート、それにブロッコリーを買って帰ろう。それに冷や奴があれば天下無敵だそうだ。もう手遅れだろうがね。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は「大阪都構想」の住民投票で敗れた橋下徹大阪市長が引退宣言したことが大きく取り上げられている。だが、国会の審議が始まった安倍首相の「戦争法案」についての記事が少ないのはどうしたことか。日本の「存立基盤」を危うくしているのは中国や北朝鮮よりも安倍首相本人だと、私は思うのだが、週刊誌にその危機感がないことが心配である

第1位 「壮大なるデマ『大阪都構想』終焉の日 さらば衆愚の王『橋下徹』大阪市長」(『週刊新潮』5/28号)/「〈『東京で不動産探し』情報も〉ポストたかじん? 茶髪弁護士? 国政? 橋下の『それから』」(『週刊文春』5/28号)/「引退懸けて負けた橋下さんより先に逃げたアイツのほうが政治の嗅覚はあるね」(『週刊ポスト』6/5号)
第2位 「室伏広治の弟が悲痛激白『生活苦の母を見捨てた兄へ』」(『フライデー』6/5号)/「川﨑簡易宿泊所火災『服もカネも焼けた』『もう家も仕事もない』」(同)
第3位 「崖っぷちのフジテレビが安藤優子を夫婦で放逐!?」(『週刊ポスト』6/5号)/「わずか就任2年でポイ 激震フジかくて社長のクビが飛ばされた」(『週刊現代』6/6号)

 第3位。さて、フジテレビが絶不調である。『現代』と『ポスト』がそのことを扱っているが、この根底にあるのは長きにわたってフジを牛耳ってきた日枝久(ひえだ・ひさし)フジHD会長(77)の長期政権、支配にあるのは間違いないのではないか。
 日枝会長は私の高校の先輩だから、チョッピリ言葉を選んで言わせていただくが、晩節をこれ以上汚さず早くお辞めになったほうがいい。名経営者がその地位に固執し続けたために「老害」と呼ばれることはままある。あなたもそうした人たちを見てきたのだから、まず一線から引いて、後輩たちを見守ってやるべきであろう。
 『現代』は、日枝氏の懐刀太田英昭フジHD社長がわずか2年で産経新聞社の会長に「飛ばされた」ことを報じている。
 『現代』によれば太田氏が実力を持ってきたため「寝首をかかれ」たくない日枝氏が飛ばしたというのだが、それだけではなく、フジの中で貢献してきた人たちが次々に配置転換されているという。
 中でも、安藤優子キャスターの夫君である堤康一氏が情報政策局長から子会社の社長に飛ばされ、安藤も番組から「放逐」されるのではないかと『ポスト』が報じている。
 だが、日テレの『ミヤネ屋』に対抗するために鳴り物入りで始まった『直撃LIVEグッディ!』は視聴率1%台が続いているそうだから、私は彼女の降板はもちろん、番組の終了もあってもいいと思う。
 安藤には失礼だが、もう一度初心に返って現場取材からやってみたらどうか。彼女のような大物が老体に鞭打ち(失礼!)サツ回りや政治家取材をやったら、いい情報がとれると思うのだが。

 第2位。ところで『フライデー』を見ていて気がついた。「『フライデー』って貧乏人の味方なんだ」と。2本紹介しよう。まずはハンマー投げの金メダリスト・室伏広治氏(40)の実母が生活苦に喘いでいるという記事。
 母親セラフィナさん(64)は、自身もルーマニアの陸上選手で、広治氏の父・重信氏(69)と72年に22歳で結婚して広治氏と由佳さん(38)をもうけたが、88年に離婚している。
 その後、別の日本人と結婚し、広治氏の異父弟にあたる秀矩(ひでのり)氏(25)を産んでいる。だが、再婚相手は「事業に失敗し、失踪」(秀矩氏)してしまったという。
 秀矩氏も陸上をやっていて高校の推薦をとれたが入学金が払えないとき、兄に連絡したら「ガンバレよ」と言って20万円を渡してくれたこともあったそうだ。
 だが、次第に音信不通になる。5月に広治氏は結婚を発表したが、母親に連絡はなかった。いま母親は体調を崩して生活保護で暮らしている。

 「家賃は1万6000円で、夏場には室内の温度が40℃近くになります。生活保護でもらっているのは月に7万円ほど。暮らしは苦しいです」(セラフィナさん)

 だが、広治氏は『フライデー』に対して、こう答えている。

 「私の実母は、自分の意思で私が13歳のときに私と妹を残して、家を出て新しい家庭を持ちました。(中略)離婚成立後30年近くすぎているにもかかわらず、私が扶養を含め(実母の)面倒をみるのは、父親を裏切ることになると考えています」

 父親は、彼女は不倫をしていたと思っていて、着の身着のままで追い出したそうだが、秀矩氏は「母が再婚相手と親しくなったのは離婚後」だと聞いているそうだ。
 真相は当人にしかわからないが、広治氏の言い分は筋が通っていると思う。だが、肉親の情がいくらかでもあればと、柔な私は考え込んでしまうのだ。

 お次はこれ。5月17日未明、川崎市にある簡易宿泊所「吉田屋」から出火して隣接する「よしの」まで焼き尽くし、現在わかっているだけで7名の遺体が発見されている。
 「よしの」で5年暮らしていた40代のNさんは福井県出身で、高校卒業後にライン工として働いていたが、父親の借金の連帯保証人になったことが原因で失職し、妻と離婚し子どもとも離別。一時はホームレス生活も経験し、人生に悲観して自殺を試みたこともあるという。

 「着の身着のままで必死に玄関へ向かって走りました。荷物は全部、部屋の中です。サイフの中には生活費が6万円くらい入っていたのですが、焼けてしまいました」(Nさん)
 「吉田屋」は1泊2000円前後で、中には10年以上も暮らしている人もいたそうだ。80代の男性がこう語る。

 「吉田屋は、コンロや炊飯器があって自炊できるから宿泊費以外のお金がかからず、生活保護者にはありがたかった」

 『フライデー』によれば、生活保護受給者には川崎市から当座の生活費として2000円が貸し出された(2万円の間違いじゃないの?)ほか、計5~12万円の見舞金が支給される見込みだという。
 ポツダム宣言など読んでなくてもいいから、安倍首相にはこうした記事を読んでほしいと思う。

 第1位。今週の1位は橋下徹大阪市長の各誌の記事である。次のコメントは『文春』の問いかけに答えた橋下氏のものだ。

 「家族への負担はむちゃくちゃ大きかったですね。妻もそうですけど、子供がよく耐えてくれたなと思います。いろいろ言われたこともあるでしょうけど、うちの子供の学校や友達がうまくやってくれた。家族に対して相当負担をかけてきましたから、任期が終わる十二月から、この八年分をなんとか取り戻していきたいなと思っています」

 橋下徹敗れる。彼が政治生命を賭けた「大阪都構想」が住民投票で僅差ながら否決されたのである。  新聞の事前調査もほぼ互角。投票日当日の出口調査では、賛成が反対を1ポイントから2ポイント上回っているという情報が駆け巡った。
 橋下氏が会見を行なう部屋にはテレビモニターが据えられ、NHKの開票速報が流れていたが、常に賛成票が上回っていた。『新潮』によると、維新の党のスタッフも余裕の表情を見せていたようだが、突然、〈反対多数確実「都構想」実現せず〉のテロップが流れ、江田憲司代表と別の場所でテレビを見ていた松野頼久幹事長は「ウソだろ……違うよ」とうめいたという。
 その30分後に会見した橋下氏は意外にさばさばした表情で「民主主義は素晴らしい」「政界は市長の任期が満了する12月で引退する」と言い、「権力者は使い捨てがいい」との迷言を残した。「これからの僕は国民の奴隷ではない」と言い捨て、「あとは野となれ山となれ。そんな投げやりなニュアンスが言外に漂っていたのである」(『新潮』)
 残された維新のメンバーは大慌てで、江田代表まで辞任して後任に松野氏を推したが、混乱は収まらない。
 切れ者、影の総理などともて囃す者もいる菅義偉(すが・よしひで)官房長官も、橋下氏敗北で痛手を負ったと『新潮』が書いている。政治ジャーナリストの伊藤惇夫(あつお)氏がこう解説する。

 「今回、菅長官は二つの傷を負ったと言えます。まず、地方自治、地方分権が叫ばれているなか、中央の政治家が地方組織の意に反した行動に出たこと。もう一つは、彼の後方支援が功を奏さなかったという結果そのものです」

 『新潮』では政治部デスクが、安倍首相は憲法改正には維新の党の数が必要なので、橋下氏に求心力を保持させるために「橋下さんを民間閣僚として起用する」超ウルトラCもありうると言っている。
 私はこの説には組みしない。『ポスト』の連載でビートたけしが言っているのが、一番的を射ていると思う。

 「政治家としての橋下徹を論じるときに、よく『政治家らしい根回しができないからダメなんだ』みたいな批評する人がいるんだけどオイラは違うと思うね。
 この人は『既存の権力や政治のいうことをまったく聞かない』『他の政党とまったくなじまない』ってのがウケたんだし、だからこそ『地方分権』『官僚機構をぶっ壊す』なんて旗印もリアリティがあったわけだからね。相変わらず過激な発言はするんだけど、結局そういう大事なところで『数の論理』とか『政治的なしがらみ』みたいなものに負けちゃったところが、カッコ悪いし、求心力を失った理由じゃないかと思うんだよな。(中略)
 その点、東(東国原英夫)の嗅覚ってのは、やっぱり動物並だよな。維新という船が沈没する前に、チョロチョロ逃げ出しやがったからね。『お前は沈没船のネズミか』ってオチなんだよな。政界遊泳のセンスは、アイツのほうが橋下さんより上なんじゃないの(笑い)」

 かくして橋下徹の時代は終わりを遂げた。チャンチャン!
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 最近のお笑いの世界では、「リズムネタ」が語られることが多くなった。言うまでもなく、8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」がブレイクを果たしたためである。狩猟民族が「ダンソン フィーザキー…」と言って踊る、バンビーノのネタもこのジャンルに加わるであろう。楽器片手にネタを披露する「歌ネタ」は、お笑いが「演芸」と呼ばれた時代から、そう珍しい存在ではない。それが歌ネタではなく特に「リズムネタ」と呼ばれるのは、歌詞の内容自体に笑いの要素があるというよりも、耳に残る独特のリズムが「音」としてウケているからだ。ナンセンスの可笑しさなのである。

 8.6秒バズーカーの「先輩」として語られることが多いのは、藤崎マーケットやオリエンタルラジオ(以下、オリラジ)である。藤崎マーケットはかつて「ラララライ体操」でブレイクしたが、その後まじめに漫才に取り組み、業界で高い評価を得た。にもかかわらず、彼らの漫才は世間にあまり浸透していない。だから、かつてのリズムネタの栄光をひどく嫌っている。一方のオリラジは、「武勇伝」で驚異的な売れ方をしたのちに急降下するも、バラエティ番組に欠かせないバイプレーヤーとして復活した。いまは過去に天狗になった自身をもネタにする余裕があり、再び「武勇伝」に取り組んでいる。ここで強調しておきたいのは、テンポの良さからリズムネタとして扱われる「武勇伝」は、内容自体もテキストとして笑いをとれる、決してリズムだけでないネタという点だ。その意味で、「武勇伝」と「ラッスンゴレライ」は本来、立ち位置が異なる。

 リズムネタ芸人は、ブレイクすると「それだけ」を求められる。いろんな番組で同じネタを繰り返す結果、すぐに飽きられる危険性と戦っているのだ。いまどきは動画サイトというものがあり、さらに消費されやすい。だが、本人たちも「一発屋」になるのは本意ではないはず。リズムネタは、やがては脱皮すべき存在なのか、それとも「これでやっていく」と言い切れる芸風の一つなのか。人気者たちにとって悩ましい選択となるだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 今年4月1日、生活困窮者自立支援法が施行された。

 1995年に約88万人で底を打った生活保護受給者数は、バブル崩壊とともに増加し、2015年2月時点で約217万人に。だが、厚生労働省の調べによると、生活に困って福祉事務所を訪れても保護の対象にならない人は、高齢者も含めて年間約40万人存在する。

 生活困窮者自立支援法は、保護を受ける手前で生活再建するための行政の支援策を盛り込んだもの。現在、年間3.8兆円(2014年予算ベース)にのぼる生活保護費を削減することも目的で、不正受給に対する罰則を強化した改正生活保護法とセットで創設された法律だ。

 制度の柱となっているのが、自立相談支援事業(就労や自立に向けた相談)と住居確保給付金(住宅手当、原則3か月支給)。この2つは、必須事業として、それぞれの都道府県の福祉事務所で相談を受け付けることになった。

 また、地方自治体の任意事業として、次の4つの事業も行なうことができる。

就労準備支援事業…働いていなかった人が、一般の仕事に就くまでのステップとして、中間的な仕事をしながら職業訓練を行なう。
一時生活支援事業…住宅のない生活困窮者に、一定期間宿泊場所や衣食の提供などを行なう。
家計相談支援事業…家計状況を把握し、金銭管理に関する指導を行なったり、貸付の斡旋を行なったりする。
学習支援事業…貧困の連鎖を防止するために、生活困窮者世帯の子どもに学習支援や居場所作り、養育に関する親へのアドバイスなどを行なう。

 この制度の創設によって、生活困窮者が生活保護にいたる以前に暮らしを立て直して、次世代への貧困の連鎖を防ぎ、経済的・社会的自立を促すことが期待されている。

 ただし、多くの問題点も指摘されている。

 新制度は、生活困窮者が働いて経済的に自立するための支援策が中心なので、経済的な給付がほとんどない。

 付けられている予算も十分とはいえず、必須事業の自立相談支援と住居確保給付金は、事業費の4分の3が国から補助されるが、就労準備支援や一時生活支援は国の補助が3分の2。さらに、家計相談支援、学習支援は、2分の1しか国の補助がない。残りは自治体の負担となるため、財政状況によって行なう事業内容には差が出ることになる。

 さっそく表面化したのが、これまでフードバンクが行なってきた食糧支援だ。新制度では食糧支援は対象となっていないので、4月以降、すでに自治体によって事業の継続に差が出てきている。日本は、子どもの貧困率が16.3%(2012年)と高く、6人に1人の子どもが貧困状態にある。フードバンクの支援は、子どものいる家庭への支援が全体の4割を占めており、新制度への移行により子どもの貧困が悪化することが心配されているのだ。

 また、生活困窮者自立支援法ができたことで、生活保護の水際作戦の強化を心配する声もある。水際作戦は、保護費削減のために、福祉事務所の窓口という「水際」で、審査もしないで保護申請の受理を拒否するというもの。2007年7月、福岡県北九州市で生活保護を打ち切られた結果、「おにぎりが食べたい」と書き残して餓死した男性も、この水際作戦の被害者だ。新制度が、生活保護を申請するための防波堤となり、再び水際作戦の被害者が増大するようなことは避けなければならないだろう。

 働く能力のある人が自分の力で働けるようにするための支援は、もちろん有意義だ。ただ、論を優先して、目の前にある貧困に目をつぶり、困っている人を食糧支援や生活保護から引き剥がすようなことはあってはならないことだ。

 新制度によって、さらに貧富の格差が広がらないのか。厳しい目で制度の今後を見届ける必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「グランピング」はグラマラス(glamorous)とキャンピング(camping)から来ている言葉で、単純に言えば「贅沢なキャンプ」のことだ。キャンプは都会の喧噪から離れてリフレッシュできる場だが、慣れていない者にとってテントは過ごしにくいし、そもそも組み立てるのが面倒だ。トイレやシャワーが不便なのも困る。ならば、自然環境の中にホテルのような部屋を持ち込み、純粋にリゾート気分を楽しみたい……。「不自由さ」もまたよしとするキャンプの醍醐味をいったんおいて、快適さを志向するレジャーなのである。

 アメリカなどで人気に火がつき、最近は日本でも楽しめるキャンプ場が増えた。三重県の「伊勢志摩エバーグレイズ」、静岡県の「アイランドキャンプヴィラ」、山梨県の「花の森オートキャンピア」などは代表的な施設。都心のバーベキュースポットとして人気の「WILDMAGIC」でも、グランピングキャビンを用意している。

 実際に体験してみると、食事の後片づけまでしてくれるグランピングの施設は、正直かなりラクである。それでいて「キャンプ」としての感覚は損なわれていない。子連れの家族には安全面からもうってつけのスポットだろう。この夏、ますます人気を集めそうなスタイルである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「医薬分業」は診察した医師が処方箋を書き、それを患者が、街の調剤薬局に持ち込んで薬を受け取るシステム。その狙いは、薬の適正使用や医師の処方の妥当性、薬の飲み合わせについて、薬剤師がチェックすることだ。

 かつては病院が調剤も担う「院内処方」が普通だった。しかし、医師が過剰に薬を出す「薬漬け医療」が批判を招き、厚生労働省は1974年から「医薬分業」を推進してきた。最近は調剤薬局チェーンが躍進し、その結果、現在では「院外処方」の割合は7割近くに達している。

 ところが、である。ここにきて政府部内で「医薬分業を部分的に見直すべきだ」との議論が浮上した。政府の規制改革会議で議論が行なわれており、具体的には、病院など医療機関の敷地内に経営的に独立した薬局を置くことを認めようというものだ。

 確かに病院で診察を受けた後、道路を挟んだ薬局まで足を運ぶのは不便である。また、あまり知られていないが、患者の窓口負担は院外処方のほうが院内処方より高くつく。

 規制改革会議関係者がこう指摘する。

 「患者の利便性を考えれば、医薬分業は規制緩和すべきだ。病院内にコンビニや花屋さんだってあるじゃないですか」

 こうした動きに対し、医薬分業を推進してきた厚労省は「規制は必要」とあくまで見直しに慎重な立場だ。規制改革会議は2015年6月にも医薬分業の見直しについて答申をとりまとめ、安倍晋三首相に提出する。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 「耳で感じているのに聞き取れない音」で、すべての音は、耳で聞こえる「基音」と聞こえにくい「倍音」との二つの要素でできているのだそう。そして、この「倍音」が毎週日曜深夜に放映されている『ヨルタモリ』(フジテレビ系)で取り上げられて以来、ちょっとしたブームとなっている。

 ちなみに「倍音」には、「整数次倍音」と「非整数次倍音」があり、声にすると前者は「強く響く明るく高い声にカリスマ性、頼もしさを感じさせる」らしく、硬くてハリがある声のタモリや黒柳徹子などが、このタイプに該当するという。

 一方で後者は「ささやく声やしゃがれた声に親しみやすさ、重要性、優しさを感じさせる」らしく、かすれ声・ダミ声のビートたけしなどは、このタイプに該当するという。

 いずれにせよ、テレビに出演することを仕事とする人たちにとって「声」とは、下手すりゃ見た目より重要で、筆者なんぞがたまにテレビに呼ばれたりすると、その周囲に蠢く“プロフェッショナル”な面々による千差万別の魅力的な声を耳にしながら、自分の籠もりがちな声がいかにしょぼいか、すなわちテレビタレントとしての才能のなさをいつも痛感させられる。

 筆者と同じ「山田」でも、たとえばコラムニストでタレントの山田五郎氏の声は、かつて同じ編集部の一室で仕事をご一緒させていただいたとき、その一言一言が隅から隅まで響きわたったものである。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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